第11話 おまえは だれだ?

――えーっと。それでは、ですねえ。

 ……あなたはいま、夢を見ています。

 深い、深い夢です。

 そんなあなたに、夢の深淵から、何者かが語りかけてきます……。


A「え、何この…………催眠術でもかけられそうな雰囲気……?」


――(言われてみれば、そうかも)

 声は、以下のような言葉を口にしていました。


『胎児よ

 胎児よ

 何故躍る

 母親の心がわかって

 おそろしいのか』


A「ふむ。……これ、メモった方がよろしい?」


――いいえ。雰囲気のやつなので大丈夫です。


A「ぶっちゃけられた!」


――さて。

 あなたがふと目を覚ますと、床も壁も、一面ゴム張りの奇妙な病室で倒れていることに気づきます。服も、いつも着ているのとは全然違っていますね。

 どうやらあなたは、入院着を着せられているようです。


A「ニューインギ?」


――ええとなんか、パジャマのような、浴衣のような……とにかく、入院したときに着るアレです。


A「ああ、なるほど」


――それでは、ロールプレイを始めて下さい。


黒男(A)「うううううううん。……ここはいったい、どこだ? よくわからないけど、あたりを調べてみよう」


――あなたが立ちあがると、すぐに気づくことでしょう。

 目の前に、床の上で転がされている一人の男の姿があることに。


黒男「おや? こいつはいったい、何者だろう? とりあえず調べてみるか」


――男は一見、眠っているようですが、……その喉元に深々と一本のメスが突き刺さっており、床はいま、ドス黒く変色した血で濡れています。


黒男「わあーっ! 死んでるー!」


――と、いうことで、はい。

 まず試しに、【1D6-3点】の狂気値を加算してください。0点以下の場合は、何もしなくて結構です。


A「りょーかい。【ダイスロール:2】」


――では、0点以下なので狂気値の加算はなしです。黒男は割と冷静ですね。


黒男「目が覚めたら死体があったけど、まあ、こんなこともあるか♪」


――いや、そこまでじゃないだろうけど……。


A「えっと。他に何か、気がつくことはありますか? 手持ちのものとか。部屋のこと、死体の様子など……」


――そうですね。では、調べたいところを指定して、”五感”でチェックしてください。難易度は”簡単”ですので、大失敗ファンブルさえ出さなければ成功します。


A「はあい。ではまず、……南無南無……ご遺体の様子から。【ダイスロール:5】 まあ、余裕ですね」


――あなたは、慎重な手つきで死体を表向きにします。すると、とある事実に気づくことでしょう。男の顔に、奇妙な仮面が被せられていることに。

 仮面は、へらへらと笑っている、軽薄そうな男を模したものだとわかります。


黒男「なんだぁ、これ?」


――さらに、彼はどうやら、自らの血でダイイングメッセージのようなものを書き残していることに気づきました。

 その内容を確認すると、英文字で『DEATH』とあります。


黒男「妙だな。これから死ぬ者が……このようなメッセージを遺すものだろうか?」


――そこでようやく、あなた自身もきづくことでしょう。あなたの顔にも、仮面が被せられていることに。


A「ふーむ。仮面が、二つ……」


――はい。


A「でも、仮面被せられてるとかそんなの、起きた瞬間にわかるものでは?」


――良いところに気がつきました。どうやらそれは、現実味がないほどに軽く、装着感がないようですね。


A「何かの魔法がかかっているのかな。どういうデザインですか?」


――仮面の表面はつるつるしていて凹凸もなく、手触りだけではどういうデザインかわかりませんね。


A「部屋の中を見回しても、鏡のようなものはない?」


――ありません。


A「なるほど。それではまず、死体に突き刺さっている刃物を引き抜きます」


――あなたはメスを引き抜こうとしますが、ぜんぜん抜けませんね。


A「フルパワーを見せてやりますよ。……黒男のな!」


――でもそのキャラの”筋力”、最低値だよ? たぶん、きみより喧嘩弱いレベル。

 まあ、どうしても抜きたいなら、”筋力”の行為判定をしよう。難易度は”難しい”で。


A「つまり、大成功クリティカル出すしかない、か」


――そうですね。合計15以上を出す必要があるので、非力な黒男は奇跡を起こすしかない。


A「もちろん、チャレンジしましょう! 私、ナイフ技能を取ってしまったからぁ! 刃物系の武器がぁ、どーしてもほしい! 【ダイスロール:10】」


――失敗です。


A「はい! せっかくとった《ナイフ》スキル、さよなら!」


――あなたは、どうにかメスを引き抜こうとします。が、硬直した屍肉に固定されてしまったそれは、びくともしません。


黒男「やれやれ。ジム通いした方がいいかな。……さて次は、室内を探索するか」


――そう思いながら、あなたは部屋を見回します。

 どうやらその部屋、窓は全て鋼鉄で塞がれていているようで、外の様子を伺うことはできませんね。

 部屋に通じる扉はただ一つだけで、そこだけ施錠されていないらしく、半開きになっていることがわかりました。


黒男「とりあえず、窓を叩いたりしてみよう」


――窓を叩くと、手が痛いだけですね。


黒男「お――――――――――い! だれかあああああああああああああああ! 助けてくれぇえええええええええええええええええ!」


――黒男の声が、空しく室内に響き渡りました。


黒男「仕方ない。とりあえず部屋を出てみるか。……ってか僕、独り言多いな」


――そうですね。


黒男「……ふっ。天才は孤独だ。知性が高すぎると、自分同士でお喋りするしかないのさ」


――それでは、あなたが扉を出ようとすると、その表面に、古びた羊皮紙が貼り付けられていることがわかるでしょう。内容を読み上げます。



『おまえは だれだ?

 おまえの しょうたい きづかぬかぎり

 ここから でること できないよ』



黒男「…………ふうむ。なるほどなるほど。Cパターンね」


――Cパターン?


黒男「DパターンとFパターンだったらアウトだったけど、Cパターンならたぶん、大丈夫だろう。あるいはZパターンの可能性もあるが、まあ恐らく、Cパターンだろうな、この展開は」


――ああ、それっぽいこと適当に言ってるだけね。


A「失礼な。黒男は人類の中でもかなり上位に入る、”知力12”の持ち主ですよ」


――……プレイヤーの知性の方が追いついていないような……。


A「あ、そうだ! ねえGM、《読心術》で、この羊皮紙を書いた人の心理状態を調べることはできますか?」


――ほう。面白い。


A「スキルって、こんな風に使って良いんですよね?」


――もちろん、構いませんよ。……ただし、文字だけで判別するのは難しいでしょう。ですので、判定は”知力”で、難易度は”神業:22”で決定します。

 ”神業”は、そのステータス最大値のキャラクターが大成功クリティカルを起こしたときのみ判定に成功する難易度です。


A「黒男の知力を持ってすれば……いける!」


――さて、それはどうでしょう。

 なお《読心術》は、GMがダイスロールして、出目を伝えず内容のみ伝えます。

 【シークレットダイス:??】 ……ふむ。

 ではあなたは、一つの事実に気づきます。


 流石に、文字からその人の人となり全てを知ることはできません。

 ただあなたは、なんとなく気づくことができるでしょう。

 その、一文字一文字、丁寧に書き込まれた文字を見るに、これを書いた者はどうやら、あなたを導こうとしているようです。


 数多の苦難が待ち受ける、探索の旅路へと。


【To Be Continued】

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