「第1章 図書委員での出会い」(1-2)

(1-2)


「はい。新藤さん、佐伯さん。来てくれてありがとう。まだ全員来てないけど、八分ぐらいで始まるから席に座ってて。一年生は奥の方ね。二人の前にビニールテープでクラスを書いているから、そこに座ってね」


「はい」


 新藤がそう返事をする。直哉も続いて頭を下げた。二人は、ドアの横に設置された下駄箱に靴を入れて、荷物棚に通学カバンを入れる。適当に筆記用具だけを抜いて、クラスが書かれた椅子に腰を下ろした。テーブルにはA4一枚のプリントが二枚置かれていた。


「なんか、緊張するね」


 席に座ると、美結が小さな声で漏らした。


「ああ。緊張する」


 普段、四角に囲われていない長テーブル。用意された自分達のクラスが書かれた椅子に知らない上級生委員の楽しそうな会話。中学でも経験しているので、根本は変わらないにしても、初めての雰囲気にはどうしても緊張してしまう。


 井原先生の話した通り、八分経過すると、空席だった席は全て埋まった。そのタイミングで、井原先生がカウンターから出る。そして皆の前で手を一回叩いた。


「はい。今年度も図書委員会がスタートしました。入学して間もない中、図書委員を選んでくれた一年生の皆、ありがとう。二年生、三年生の中には知っている顔もありますね。貴方達も選んでくれてありがとう。さて、主な年間の仕事は予め配布したプリントの通りです」


 プリントに書かれている仕事内容は、カウンターでの本の当番。本を棚へ返却。書架整理。そして仕事ではないが、プリントに書かれている中で目を引くのは、本を読むに来る生徒より、自主勉強に利用する生徒の方が多いという説明書き。


 その一文を読んで大学受験の存在が身近に感じた。この間、受験をしたばかりなのにもう、大学の事を考えなければいけないのかと小さな不安を抱く。


 その後は井原先生の進行の下、カウンターの当番を決めた。早く仕事に慣れてもらう目的で一年生から順番が回ってくるとの事。最後に次回の委員会の日程を決めて、お開きとなった。皆で協力して、四角になっていたテーブルを片付ける。片付けが終わり、井原先生が図書室のドアを開けると、待機していた生徒達が続々と入って来た。


 彼らは図書室を出ていく委員と入れ替わりに席に座っていく。


「んん〜、意外と長かったね」


 図書室を出ると、美結が背伸びをしながらそう言った。時間にして大体四十分程度、初回の緊張から実際より長く感じる。


「確かに俺も長く感じたよ」


 シンとした空気だった図書室を出て、階段を降りていくと、またすぐに部活の音が聞こえ始めた。直哉は教室に寄る事もなく下駄箱に向かおうとそのまま階段を降りる。


 おそらく隣で歩いている美結は、一度教室に戻るだろう。そうすれば、きっといつもの友人達が彼女を待っているに違いない。


 そんな勝手な想像をして、「また明日」と声を掛けようとすると、美結が「佐伯くん」と話を遮った。言い掛けて止まった直哉に構わず、彼女は言葉を続ける。


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