2017.11.15 何色の何



 今日はいいことがあった。


 ちょっとくらいいいことがないと、人生やってられないよね。


 はあ。


 女の子っていいね。




 早朝から荷運びの仕事があって、フラフラになって帰ってきて、シャワーして着替えて、事務所でテレビ(ビギナーズ園芸みたいなやつ)を見ながらうとうとしていた時だった。雅火さんが来た。なんか疲れてたせいか、スーツ姿がやけに色っぽくてよかった。

「ミキくんお疲れー。お昼食べた?」

「まだです」

「じゃあ一緒に食べよー。うどん茹でるね」

 で、うどん食べた。ほうれん草とかまぼこ入りの質素なやつ。ほんとは若い男なら、疲れたらガッツリ肉とか食べたいもんなんだろうけど、元インテリアたる俺には消化する体力もなくて、むしろありがたかった。それに「疲れてるでしょ?」って、俺のにだけ卵入れてくれてさ。ほんとになんなの。

 できれば料理してる姿も見たかったけど、そこは怠くてソファから起き上がれなかった。無念。もっと体力つけよう。


 早めのお昼を食べ終わって、午後には事務所に誰も来ないのもいいことに、ソファでしばらくだらだらした。雅火さんもラフな格好に着替えて、猫みたいに丸く寝転んでいた。ただ例によって格好が大きめに開いたトレーナーなので、ブラの紐(水色)がめちゃくちゃ見えて、ダメだと思いつつもついじろじろ見てしまって、とうとう目が合ってしまったので観念して聞いた。

「……それ、見せてるんですか?」

「不快ならしまうけど?」

「しまうって」

 言い方がおかしくて、ちょっと笑ってしまった。確信犯だったんかい。

「もっと見せてって言ったら、見せてくれるってことですか?」

「お金払ってくれたらね〜」

「ですよね〜」

 がっついてると思われたくなくて、そんな返しをしたけど、本音を言えばいくら払ったら見せてもらえるか聞きたかったところ。

「こんなとこやめてジゴロにでもなれば? 君、才能あるよ」

「それは雅火さんでしょ。キャバ嬢とかやったら超売れそうなのに」

「正気で言ってる? こんなブス誰も買わないって」

「えー、めちゃくちゃ可愛いですよ」

「お世辞やめて。マジで。次言ったら殺すからね」

 別にお世辞ってわけでもなかったけど、そんなことを言われた。百人いて百人振り返るほどの美人かどうかはわからないけど、少なくとも俺にとってはときめく顔だ。しかもびっくりするくらいタイプど真ん中。正直殺されてもいい。なんて。

「すいません」

 と俺が謝ったら、

「……いや、こっちこそごめん。強く言いすぎたね」

 とか言う。優しい。泣ける。ますます好き。


 お昼の情報番組を見ながら、なんとはなく世間話をした。

 しかし世間とは隔絶されているような仕事の我々だけれども、果たしてこれを世間話と言っていいのやら。

「ねえ、昨日大丈夫だった?」

「あのゴリラ先輩のことですか? 昨日は普通でしたよ。自傷行為とかは特に」

「それもあるけど、ミキくんは平気だったのかなって思って」

「あ、俺ですか? 俺はまあ、大丈夫でしたよ。仕事はほとんど先輩がやってたから、正直見てるだけだったというか……担いだり運んだり、掃除したりはしましたけどね」

「そっか。君は強いね」

 君「は」、というのが引っかかったので少し聞いてみると、前にあのゴリラに同行した人は、あまりのショックで夜逃げしようとして、上の人に見つかり、大変なことになったそうだ。どうなったのかはあえて聞いていない。ただ、俺は夜逃げとかしないでとりあえず頑張ろう、とは思った。もしかすると、「3代目」とか言ってたのもそういう関連のことなのかもしれない。

 あとは特に話すこともなく、二人でテレビを見た。くじで引いた3色の色でコーディネート対決する……みたいな番組をやってて、お題が「鎌倉デートに着ていく服」だったので、雅火さんもデートとかするのかな〜、なんて思った。聞けなかったけど。


 夕方になると上の人が帰って来て、また掃除と雑用をやらされた。でも、癒されたあとなので全然苦じゃなかった。

 明日はまた荷運び系の仕事が入ってるらしい。

 だからまだ夜だけど(眠れることはないけれど)、これを書き終えたら一応寝転がって、体力は温存しておこうと思う。

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