第4話シズと宮司

 森守神社の宮司、鷲宮司わしみや つかさには、シズの見えているものは見えないが、村の空気が淀みはじめていることには気づいていた。


「宮司さま」

シズは拝殿の前を清めていた宮司に声をかけた。


「おや、シズ、早起きだね」

「おはようございます。お話ししたいことがあって、朝御飯の前に来ました」

「私に話か」

「はい、信じてもらえないかもしれないけれど、なんだか、悪いことが起こりそうで」


 シズは宮司に、自分が幼い頃から、草木や風など自然の意志が感じられることを明かした。

そして、加見かみノ森の上空で起こる不思議な現象のことも。


「前に見た時、裂け目の刃は、黒い靄を噛み砕いて、白い光にしていたんです。それが、先日は、裂け目が閉じてしまって、黒い靄は集まって膨らんで弾けました。そのままどこかへ飛んで行ってってしまったんです」

「それは……」


 シズの話を聞いた後、宮司は長いこと黙ったままだった。

信じられない気持ちと、神域の木が伐採されて何もないはずがないという気持ちとがせめぎ合っていた。

やかて、心を決めたように、シズに向き直った。


「おそらくだが、その不思議な光景は、加見ノ森が村を護るためにケガレを払ってくださっていたのではないかと思う」

「ケガレ?」


「村や村人にとって悪いもの。病気や災害や、人の悪い心など色々だ。この村は穏やかで、人の心も温かい、それはもしかすると、加見ノ森が悪いものを浄化していたからかもしれないね」


宮司は拝殿に向かって、鈴を鳴らし、拝礼して柏手を打った。

「祓らえたまい、清めたまえ、かむながら守りたまい、さきわえたまえ」

シズも隣に並んで拝礼した。


「森の木を伐採したことで、怒りをかってしまったのではないかと思う。怒りを収めるにはどうしたら良いのかわからないが、私はこれからも心を込めてお祓いをしよう。祝詞をあげて、神様に話しかけようと思う」


「はい。私も毎日拝礼にうかがいます」

シズも頷いた。

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