第6話 所長室へ

 リサラを無理矢理連れ出すように廊下に出た俺達は、のんびりと研究所内を歩いていた。


「センパイ、まず何処の研究室に向かうんです?」


「んー、それなんだけどさ。順番に第四から第一まで研究室巡りしてこうと思ってたんだけど、全部回ってくのは面倒に思えてきたんだよねー」


 目的地を聞いてきた隣を歩くカティアに答えると、後ろを歩くリサラが呆れたような声を漏らした。


「面倒って、まだ部屋を出たばかりじゃないですか……」


 リサラが指摘したように、俺達は部屋を出てからまだ5分も経っていなかった。


「だってさー。一個一個それぞれの研究室を回ってたら、絶対その度に文句を貰う事になるじゃない?」


「まぁ、間違いなく文句を言われるでしょうね。押し付けられてた仕事も全部終わってませんからね」


 俺の言葉を聞いて、容易にその場面が想像できたのか、リサラは肩を落としながら苦い表情を浮かべた。


「折角今まで代わりに仕事をやってきてあげたのに、最後まで文句を言われ続けるのは流石にしゃくだなーって思ってさ」


「じゃあ、どうするんですかセンパイ?」


「ここの入館証も返却しないといけないし、所長に仕事と一緒に押し付けちゃおっかなーって。それなら文句を言われるのも一回だけで済むじゃん?」


 かなり良い案だと思ったが、ここでカティアが俺の腕を両手で掴みながら不満の声を上げた。


「えぇ~! よりにもよって所長のとこに行くんですかー!?」


「いや、だってここの入館証を返すなら所長相手じゃないとダメでしょ? ……というか、カティアって所長の事そんなに嫌いだったっけ?」


「そりゃ嫌いですよー。あの人、いっつも仕事しないで寝てるだけなのに、無駄に偉そうにしてるだけじゃないですか」


「うん。まぁ、その通りなんだけどさ……」


 それにしては、カティアはかなりラウスの事を嫌っているように感じた。それこそ、もう生理的に受け付けないレベルの嫌いっぷりである。


 そんな事を思っていたら、カティアの話はまだまだ続きがあった。


「それにあいつ、ずーっといやらしい目で私の胸を見るんですよ! もう鳥肌立つくらい気持ち悪かったんですよ、あれ。そんな思いしたら誰だって嫌いになりますよ〜! リサラも分かるよね?」


 俺の腕から手を放し、服の上からでも分かるほど大きな自分の胸に手を当て、カティアは後ろを歩いていたリサラに同意を求めた。


「っ……!」


 話を振られたリサラは急に立ち止まって、ブルブルと身震いをして、ギュッと自分の体を抱きしめた。


「あ、あれを思い出させないでくださいよカティア! 鳥肌が立ったじゃないですか……!」


「てへ〜っ♪ ごめんね、リサラ」


 リサラが声を荒げ、カティアは可愛らしく舌を出した。


 どうやらラウスの視線は女性からすると、思い出すだけでも鳥肌が立つくらい無理な物らしい。最早呪いか何かの類なんじゃないだろうか。


「そんなにラウスの顔を見たくないなら、カティアは部屋の外で待ってて良いよ? よく考えてみたら、あいつと無理して顔を合わせる必要もないし……」


 だが、カティアは俺の提案に首を横に振った。


「別に良いですよ、センパイ。もう顔を合わせることがないと思えば我慢も出来ますし。それに、いざとなったらセンパイを盾にするので大丈夫です!」


 そんな言葉と共にグッと親指を立てるカティア。


「盾って……まぁ、いいや。それじゃ所長室に向かうよ」


「はーい!」


「はーい……」


 カティアの元気な返事とリサラの疲れた返事を聞きながら、俺達は所長室へと向かうのだった。

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