第3話 クビ通告
エルメイン城でお姫様2人と別れた俺は魔導研究所へと戻ってきて、そのまま所長室へと向かっていた。
研究室が解散する事になったが、その後のことについては宰相から特に何も言われていなかったからだ。
「ラウス所長。いますかー?」
在室中という文字が表示されている所長室のドアをコンコンと軽くノックする。
しかし、暫く待っていても部屋の中から反応は全くない。
「この時間帯だからどうせ昼寝してるか……。仕方ない。魔法で起こしてあげるしかないな」
スッと所長室のドアのど真ん中に手を触れて、俺は半径15センチほどの魔法陣を展開していく。
「集え、雷の精霊。我が意思と共に雷撃を奔らせろ──術式展開」
そして、魔法陣を展開し終えた俺は、ドアから数歩下がってからパチンと指を鳴らし、魔法陣から所長室の部屋中に体が痺れる程度の電流を流した。
「い゛っっっっ! あ゛ぁ゛っっっっっっ!?」
刹那、部屋の中で悶絶するような男の声と共にドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
どうやら俺の予想通り、所長はお昼寝中だったようだ。
「っ……! やはりお前の仕業かディラルト!」
バンっと勢いよく所長室のドアが開かれ、姿を現した小柄な男は、俺の姿を見るや否やギロリと鋭い視線を向けてきた。
この男の名前はラウス・ゲッシルー。年齢は俺と同じで23歳。
この国の宰相であるラズミー・ゲッシルーの一人息子であり、この魔導研究所の所長である。因みに、俺とラウスは学生時代の同級生だったりもする。
「俺の仕業って……別に何もしてませんよ? 勤務時間中に昼寝をしてた罰でも当たったんじゃないですか?」
「はぁ、はぁ……しらを切るな! 周りにお前以外誰も居ないのが何よりの証拠だ! だいたいこんな事をするのもお前しか居ないだろう!」
俺は口笛を吹きながら両手を上に挙げて何もしてませんよというアピールをするが、ラウスには完全に俺が犯人だと思われていた。
昼寝の邪魔をされて腹の虫が収まらないのか、ラウスは更に俺の事を指差しながら怒号を飛ばしてきた。
「だいたい何の用だお前! この時間は俺が昼寝をする大切な時間なんだぞ! それを邪魔するな!」
「……うちの研究室が解散するの、所長なら当然もう知ってるでしょ。明日からうちのメンバーが何処の研究室に配属されるのか教えてください」
色々文句を言いたくなる気持ちを抑えながら、手短に済ませようと思って簡潔に要件をラウスに伝えると、何故かラウスはニヤリと勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「くく、くくく……ああ、その事か。喜ぶと良い、ディラルト。お前達が他の研究室に配属される事はないぞ」
「…………は?」
ラウスの口から発せられた言葉に思わず自分の耳を疑った。
今、こいつはなんて言ったんだ? 配属される事がない? それってつまり……。
「聞こえなかったのか? 要するに、お前らは明日からクビだって言ってるんだ。ほら、ちゃんとここに紙もあるぞ」
固まってしまった俺に対して、ラウスはニヤニヤとした表情を浮かべ、解雇通知書と記された1枚の紙を手にしながら言葉を続けた。
「いつもの余裕そうな表情はどうしたんだ、ディラルト? まさか自分がクビと言われるなんて微塵にも思ってなかったか?」
ラウスの言う通りで、俺は予想外の出来事に何も考えられずに固まってしまっていた。
そんな俺の様子を見て、ラウスは更に笑い声を大きくしてポンポンと馴れ馴れしく俺の肩を叩く。
「はは、はははっ! 残念だったなディラルト! あんなぽっと出の研究室であれ、折角この魔導研究所の室長を任されたのにクビにされるだなんてなぁ……。でも仕方ないよな。議会から研究室の解散を命じられるような無能な奴なんか、クビにされて当然だろう?」
ここで俺はゲッシルー親子の狙いに気付いた。
「……まさか俺をこの研究所からクビにさせる為だけに議会を動かして、第七魔術研究室を解散させたのか」
「あぁ、その通りだ! この魔導研究所に、この国の中心に「平民」などという存在など必要ないのだ! 高貴なる貴族だけの世界にお前は邪魔なのだ!」
俺の言葉にラウスは父親であるラズミーと同じようにこちらを見下すような視線で肯定した。
「俺達第七をクビにして……。俺達に仕事を押し付けてた連中だけで、この魔導研究所がちゃんと回ると思ってるのか」
「はっ! 無能なお前達で出来た事が、俺を含めた他の魔術師に出来ないわけがないだろう? 寧ろお前らよりももっといい成果を出せるに決まっている。俺達はお前と違って平民ではなく貴族なのだからなぁ!」
俺の問いに自信満々に答えるラウス。
「今更何を言おうがお前のクビは確定してるんだ! 分かったらさっさと俺の前から消えるんだな! この平民風情のろくでなし魔術師が!」
「ぐっ……!」
俺の事をバンっと強く突き飛ばしたラウスは通知書を俺に向けて投げ捨て、そのまま二度寝するつもりなのか所長室の中に戻っていった。
「いてて……。これはちょっと困った事になったな」
ゴツンと壁にぶつけた後頭部を抑えながら俺はのろのろと立ち上がり、硬く閉ざされてしまった所長室のドアを見つめながらポツリと呟いた。
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