EX② 15.5 閑話・やって来ました海水浴

「いやっほぉっー!海だーーっ!」

「ちょ、待てコラ荷物置いてくな!」

「まぁまぁ、俺も持ちますから」

「ああ、悪いな。ったくアイツは……」


そんなこんなで数時間後――海岸へとやってきた一行。


「ね、ね、何しよう?」

「はしゃぎすぎだっての……まだ着替えてもねぇだろ」

「ふふーん、そう言われると思ってねぇ?」

「おま、何を!?」


シートを広げるや否や、得意げに鼻を鳴らしつつ、おもむろに服を脱ぎだすキュリオ。

ケイトとスクトは咄嗟に顔を腕で覆い、目線を反らす。


「既に下に着てきたのさ!どうだい?」


目線を戻すと、そこには水着姿のキュリオがいた。

フリルの付いた、ワンピースタイプの可愛らしい格好だ。

何故か誇らしげに胸を張る彼女を見て、スクトが呟く。


「……帰りの着替えはあるんだろうな?」

「ふふん、抜かりはないさ」

「ならいいけどよ……」


下に水着を着てきたはいいが、帰りの分の服を忘れてくるというのは、割とある話だ。

だが、その心配はなかったようだ。ドヤ顔のまま両手で指差しポーズを決めるキュリオを見て、少しため息をつくスクト。


「俺たちも着替えてくるから、大人しく待ってろよ」

「む、なんか引っかかるねぇ。さっきから君、僕を子ども扱いしてないかい?」

「してるに決まってんだろ」

「ちょっとぉ!?」


「俺も着替えてくるよ、マリス。君もここで待ってて」

『かしこまりました、マスター』


最早おなじみのコントを繰り広げる二人をよそに、マリスへそう言って、先に着替えに向かうケイト。


『あの』

「どうしたの?」

『……いえ、何でもありません』


背を向けた彼を、マリスが呼び止める。端末を持ち上げ尋ねるも、彼女は答えを濁してしまった。


「何か言いたいことがあるなら、言ってみなよ」

『大丈夫です』

「そっか……」

含みのある返しに少し首を捻りつつも、再び歩き出すケイト。

そんなやり取りを――


(ふーん、なるほどね)


しげしげと見つめるキュリオ。


――それはさておき。ここはレイヴンズが管理している海岸である。

よって更衣室があるのだが――加えて、まさか異世界に来てまで《海の家》を見ることになるとは思わなかったケイトは足を止め、目を奪われていた。


「うわ、焼きそばまで売ってる」

何だか懐かしく思える光景に両親と海を訪れた記憶が過り、少しノスタルジックな気分に浸るケイト。


「どうした?さっさと行くぞ」

「あ、はい」

そんな彼の背中を軽く叩き、言うスクト。彼はハッと我に返り、その後ろを追う――



「ねぇ、マリス」

『何でしょう』


それから数分、二人を待つ女性陣。キュリオはスマートフォンを手に取り、マリスに話しかけていた。


「ちょっと提案があるんだけれど……どう?」

『提案、ですか』

「そそ」

にやりと笑うキュリオに疑問を覚え、聞き返すマリス。そんな彼女に、キュリオの眼鏡がきらりと輝いた。


「ちょっと面白いこと思いついて、ね。できれば協力してもらいたいんだけれども」

『私に、ですか?』

「そう。君にしか頼めないことなんだよ。どうだい?多分、ケイちゃんも喜ぶと思うんだけど」

『マスターが……?』

「うん。きっと驚くし、喜ぶと思うんだよねぇ」

『話を伺いましょう』

「お、乗り気だねぇ。助かるよ。実はね……」


耳打ちをするかの如くスマートフォンを通話の形で持ち、小声で話すキュリオ。

彼女のたくらみとは、一体――?

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