31 最後の希望
「うわあぁぁぁ!」
「逃げろーっ!逃げろーっ!」
悲鳴を上げながら、逃げ惑う人々。性別年齢関係なく、みな鬼気迫る形相を浮かべて一心不乱に駆けている。
しかし――
「ぎゃあ!」
「がふっ……」
ある者は触手の串刺しとなり、またある者は光球により消し炭となり。5分と経たぬうちに、辺り一帯は死体と瓦礫の山と変わっていた。
「生体反応の消失を確認」
そう機械的に呟き、歩き出すのはマリス。
彼女は今、宣言通り人類殲滅を開始していた――
「……ひでぇ」
モニターに映されたその光景に唖然となり、汗を垂らすのはスクト。
サクヤによってキュリオのラボへたどり着いた彼は、この惨状を初めて知ることとなっていた。
「これが大体2日前の映像。これ以降は中継機器飛ばしてもことごとく壊されて確認できてない」
キュリオによる手当を受けながら、苦い顔のスクト。
無慈悲な殺戮を繰り返すマリスへの怒り、そして――疑念からくる表情であった。
彼にはどうしても、信じられなかったのだ。
「アイツは確かにいろんな厄介ごとに首を突っ込む性質だった。だが、殺しをやるような性格じゃなかったはずだろ……それが何で」
アイツ――すなわちケイトが無差別な殺戮を行っているという事が。
そもそも、彼らはあれがケイトではなく、その見た目をしたマリスであるという事を知らない。そう考えれば、その疑問も納得のいくものであった。
「……心当たりなら、ある」
「何だと?」
そんな中、ふいに呟いたキュリオの一言に食いつくスクト。
彼女は眼鏡の位置を直すと、言う。
「僕が捕まってたあの時、どうやって助かったかってまだ話してなかったよね」
「ああ……そういやそうだな。だが何か関係あんのか?」
「うん、多分。あの時マリスが突然許さない、って怒り出して、秘書さんを殺したんだ。で、人の姿を取ってどこかに走ってった」
「は?いや待て。マリスって……あの魔法具……スマホだっけか?に入ってるシステムの名前だろ。それがひとりでに動いて人の姿になっただと?」
「そう。僕も信じられなかったけどそれが事実」
「ワケわかんねぇ……」
あまりにも突拍子のない事実に、頭を抱えるスクト。
そんな彼らを見ていたサクヤが、口を開く。
「……暴走。そう言いたいのだな、キュリオ」
「うん。それで合ってるよお爺ちゃん」
「待て、二人で納得すんな。俺にもわかるように説明しろ」
「まぁ慌てるんじゃないスクト君」
サクヤの言い分をまとめるならば、こうだ。
マリスは人工知能――使用者であるアヤツジ・ケイトによるコントロールが必要不可欠な《道具》である。
しかし、彼女にはとある機能があった――《学習》だ。ありとあらゆるものを取り込み、変化してゆく機能。
もしも彼女が《感情》を――それも《負の感情》をラーニングしてしまったとするなら。
進化した人工知能は自立的な思考が可能になり、《道具》としての範疇を超え《個》となった。
それを説明するならば、暴走と呼ぶ以外にはない。
何らかの理由で《怒り》を覚えたマリスはその情動のまま突き進み、ついには人類殲滅という結論へ至ったという訳だ。
「何だ……なら、話は早えぇじゃねぇか」
それを聞いたスクトは拳を掌に打ち合わせ、うって変わって何の悩みもなさそうに言い放った。
「どうしたのさ、急に」
そんな彼の変化が理解できず、尋ねるキュリオ。
スクトは言う。
「つまり、アイツをぶっ潰せば丸く収まるって話だろ?」
「そんな単純な……それにケイちゃんがどうなったかもわかってないんだよ?」
「どちらにせよ、そうでもしなきゃ被害が増える一方だ。誰かがやんなきゃなんねぇんだよ」
そう言いつつスクトは立ち上がり、二人を見る。
「なら……俺がやる。奴をぶっ壊して、この世界を救ってやるよ」
そのいつになく真剣なまなざしに、二人もまた覚悟を決めた。頷きあうと、3人はそれぞれ準備へと取り掛かる。
こうして、この世界に残された最後の希望は動き出した――!
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