15 戦い終わって
『……ッ!』
ディスプレイに明かりがともる。
電子音とともに起動を果たした彼女は周囲を見渡し、現状を確認する。
様々な機械や武器の試作品が雑多におかれたこの場所には、記憶があった。
『ここは――キュリオ様のラボ』
「目が覚めたみたいだね」
そう言って彼女を持ち、のぞき込むのはここの住人。
彼女は尋ねる。
『どうして私はここに?マスターはどこですか』
「そこで寝てるよ」
そう言って、彼女は液晶画面を右へ向ける。そこには、眠る主の姿があった。
その安らかな寝顔を見つつ、彼女は呟いた。
『バイタルチェック完了――すべて正常。……よかった』
「お、早速彼の心配かい?まったく、よくできた娘だ」
『マスターに仕える者として、当然のことをしたまでです。しかし――』
そう言って、しばらく黙り込むマリス。
「しかし、どうしたんだい?」
『ここまでの反動は、計算外でした。私のせいで、マスターに余計な負担をかけてしまうとは……』
「誰にだって、ミスはあるさ。この世に《完璧》なんて存在しないよ」
『しかし』
「それに完璧なんて、面白くないと僕は思うね」
『何故ですか?』
『だって、互いに足りないものがあるからこそ人はその手を取り合うんだろう?完璧って言うのは言い換えれば自己完結さ。誰の手も取らずに生きるなんて、そんなの寂しいじゃないか』
『寂しい……?』
「君だって、マスターが――ケイちゃんがいなければどう思う?」
『マスターが、いない?そのような状況は、想定にありません。いつだって私は、マスターの側に……』
「そういう事さ」
『?理解できません』
「フフ、まぁゆっくり考えればいいさ。それより――」
そう言って再び彼女はマリスを机の上へと置き、向かい合う。
「君のこと、もっと教えてくれないかな?いろいろデータが取りたいんだよね!」
『……ええ、構いません』
眼鏡を曇らせながら鼻息を荒げるキュリオ。
二人は小さな明かりが照らす中、語り合いを始めた――
そんな中、ふとマリスは思う。
(それにしても、あのイメージは一体……?)
※
「カイセ・スクト。ただいま到着いたしました」
所変わって。
荘厳な装飾に彩られたこの部屋に、スクトは立っていた。
その奥には、窓のほうを向き佇む初老の男の姿。
彼は背を向けたまま言う。
「ああ、ご苦労。報告は聞かせてもらった。しかし今回の件、《転生者》が引き起こした事件だったとはな」
「……その言い方、長官は何か知っていらっしゃるのですか?」
長官――そう呼ばれた男は、彼の疑問にただ一言応える。
「ああ」、と。
しかし――
「そんなことより……長官、か。随分堅苦しい呼び方だな?お前らしくもない」
「……」
その質問をはぐらかして切り上げ、彼は話題を変えた。
スクトの方へと向き直り、笑みを浮かべて言う。
暫し、押し黙るスクト。そして彼は言った。
「当たり前だろ。公の場なんだからな」
「……親父」
そう。彼の目の前にいるこの男は《レイヴンズ》の最高責任者にして、スクトの父であった。
「ふ、ようやくそう呼んでくれたか」
男は――カイセ・タダシは笑い、椅子へと座る。
「で、もういいか?こっちはもうクタクタなんだ」
「ああ。ゆっくり休め。戦士には休息も必要だ。わざわざ呼び立てて済まなかった」
「それにしても、何で急に俺を呼んだ?報告書はきっちり出しただろ」
「ああ、そんなことか」
彼は紅茶を手に取り、言った。
「久々に息子の顔が見たくなったのさ」
「ったく。職権乱用もそこまで行くと立派だな」
そうとだけ言うと、スクトは一礼して部屋を去る。
そんな彼の姿を見届け、一人残されたタダシは呟く。
「《転生者》か。やはり、私には奇妙な縁があるようだな……」
写真を手に取りつつ、まじまじと見つめるタダシ。
そこには肩を組んで並ぶ、二人の男の姿があった――
※
降り注ぐ雨の中。荒れ果てた道を往く、一つの影があった。
水たまりには、黒い異形の戦士の姿が映っている。
その手を血に染めた戦士は、あちこちに死体を横目に突き進んでゆく。その瞳に、立ちはだかる敵を見据えながら。
それはまぎれもなく――
「俺はてめぇを……ぶっ潰す……!」
「《マリス》ッ!」
カイセ・スクトの姿であった――
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