07 月下の戦い
「ふぅ……」
脱出から数分後。結局正面突破することとなってしまったものの、難なく制圧し、一息ついていた。
しかし、先ほどからキュリオさんの様子がおかしい――この人は元々ヘンとは言え――どうも落ち着かない様子で何かを思い出そうとしている。
「うむむ……あ、そうか」
そして、その何かを思い出したようだ。手をポンと叩いたキュリオさんは、俺の服の袖を引っ張る。
「ケイちゃん、ちょっと」
「何ですか……あとケイちゃんって」
「この人たち、どっかで見たことあると思ったらさ……」
俺のツッコミも無視し、話し出すキュリオさんだったが、この後、とんでもない発言が飛び出すこととなる。
「これ皆、行方不明の届けが出てた人たちだよ……」
「!?」
「うん、間違いない。覚えてるもん」
そう言いながら指で頭をトントンとたたくキュリオさん。
同時に、俺の背筋に悪寒が走る。
俺は襲い掛かってきたこの人たちに、平気で武器を振るっていた。
何とか命を奪わずには済んだものの、もし、この人たちを殺めていたら――?
自分のしでかしたことに、震えが止まらなくなる。
「あんまし気にしてたってしょうがないよ。先、急ご」
そんな俺の背中をポンと叩き、キュリオさんは歩き出す。
俺もまた、慌ててその後を追った――
※
それから程無くして、入口まで来ることができた。ドアを開けると、月が高く昇っている。
しかし、何か妙だ。
あれから一度も、追手の姿を見ていない――こんなにあっさりと、脱出できるものなのか?
そう考えていると――
『危険、危険。防御姿勢を取ってください』
突然、マリスがアラート音とともに警告を発した!咄嗟に盾を生成し、キュリオさんの前に立って構える。
「っ!」
瞬間。強烈な風圧が俺たちを襲った。全力で踏ん張ってこらえるが、かなりきわどかった。
「……誰だ!?」
足音と金属音が、徐々に大きくなってゆく。何者かが近づきつつある証拠だ。
「キュリオさん!先に行っててください!」
「わかった!」
俺はキュリオさんをまず逃がすことにした。そして迫りくる脅威に備え、前を見据える。
すると――
「全く、使えん奴らどもだ……」
全身鎧姿の大男が、そう呟きながら歩いてくるのが見えた。
その手には、俺の身長と同程度――170cmはあろうかという巨大な長刀が握られている。
どことなく戦国武将を思い浮かばせるその鎧は、とてつもない威圧感を放っていた。
男は俺を刃先で指し、言う。
「小僧。命が惜しければ貴様の持つ魔法具を渡せ」
「……嫌だと言ったら?」
「こうするのみよ、ふん!」
そう言うと、男は手のひらから赤い波動を放ち、俺に浴びせる。
が、しかし――
「……?何だ、今の」
何も変化はない。
『先ほどの波動は、一種の洗脳魔法と考えられます』
「洗脳……ってことは、あの人たちはお前が!?」
「それならどうした!」
驚く俺をよそに、男は走り出した。その大きな歩幅故に、一瞬気がそれていた俺は一気に間合いを詰められてしまう。
しまった――そう思った時には遅かった。
「洗脳が効かぬならば、殺して奪うのみ!」
男が長刀を振るう。
「ぐ!」
咄嗟に盾で防いだものの大きく吹き飛ばされてしまった俺は、背中に地面を打ち付ける。
痛みをこらえて立ち上がる俺。
このままじゃいけない。戦わないと――
「……くそっ!」
だが、そんな俺の意思に反し、右手が震え始める。
もし、あの中身が人間だったらどうする?
俺は――人を殺せるのか?
俺がためらっていた、その時だった。
『……解析完了』
マリスが突然、そう言ったのは。
俺は解析モードを起動していない――まさか、自己判断で行動したのか?
しかし気にしている場合でもない。俺は結果を尋ねる。
「何かわかったのか!?」
『はい。あの者から生命反応は感知できません。あれは鎧に魔力を流し、外部操作で操っているだけです』
「じゃあ、つまり――」
『100%の確率で、生命体ではありません』
そうとわかれば、話は別だ。相手がただのラジコンならば――遠慮はいらない。
うって変わって、やる気が湧き出てくる。
「なら、遠慮なくやってもいいってわけだな……!」
『はい』
「笑止!小童が大口を叩くでないわ!」
そう言って、再び長刀を振るう鎧の怪物。凄まじい風圧が俺に迫りくるが――
『上段、回避してください』
マリスのナビゲートにより、今度はそれを難なく回避する。
そして今度は逆に――
「この野郎、お返しだ!」
「ぐぅ……!?」
《生成》で作り出したショットガンを腹へ押し当て、打ち出した。当然かなりの反動が俺を襲うも、それ以上に相手へダメージを与えられたようだ。
2、3歩後ずさると、うめき声を漏らして膝をつく男。不意打ちで放たれた一撃が、よほど効いたらしい。
「どうした?もう終わりか!?図体の割には大したことないんだな」
「ぬかせ!」
俺の煽りに反応し、男が縦に刃を振るう。
だが、その先に俺はいない。俺は素早く奴の股下をスライディングで潜り抜け、背後を取った。
そして手元に大型のハンマーを生成し、大きく振りかぶると――
「喰らえぇっ!」
勢いよく奴の背中へたたき込んだ!
よろめいた背中の鎧が割れ、紅い霧のようなものが漏れ出し始める。
「お、おのれ……」
『マスター、あの霧より魔力反応を検知。鎧を完全に破壊すれば、行動停止に追い込めます』
「よし!」
奴が膝をついているその隙に、俺は《火球》を発動。奴のひび割れめがけて集中砲火を始める。
「ぐおぉぉ……」
絶え間ない攻撃を受け続け、苦悶の声を漏らす男。そして――
「これで……最後だぁ!」
俺は一気に近づき、もう一度ハンマーを振り下ろした。その一撃により、ついに――
「ぬおぉぉぉーーっ!」
奴の鎧が、完全に砕け散った!コントロールを失い、只の鎧となって地面に散らばってゆく各部位。
それを動かしていた魔力の霧もまた、空へと四散してゆく。
「ぐうぅ……これで終わったと、思うなよ……!」
何とまぁ、ありがちな捨て台詞を残して――
そして完全にそれが消え去ったのを確認し、俺は思わずガッツポーズを取って、
「よっしゃあー!」
高らかに、そう叫んだ――
これで、ひとまず攫われていた人たちは助け出せるだろう。
あの子の父親も操られていただけだというのなら、取り越し苦労だったようだ。
俺は一気に緊張が解け、その場へへたり込む。
そんな俺を見て――
「いやぁ~、凄かったねケイちゃん!いいデータ、取らせてもらったよ」
駆け寄ってきたキュリオさんが、何とも嬉しそうに目を輝かせていた。
「はは、そっすか……」
そんなこの人の様子に呆れつつ、俺は月を眺めていた――
※
「……」
「どうした」
その頃、レイヴンズ屯所では。寂しげな顔で壁にもたれかかり、窓の外から月を見つめる少女の姿があった。
それを見つけたスクトは放っておけず、声をかける。
彼の人相から一瞬警戒するも、すぐに少女は口を開く。
「寂しいの」
「……そうか」
彼はそうとだけ言うと、どかりと彼女の横へ座り込む。
「……親がいなくなるってのは、辛いよな」
しばしの沈黙を破り、語り出す彼。
何も言わず、頷く少女。その眼には、涙があふれ出ていた。
「泣きたいときは泣いとけ。子供の特権だ」
スクトの言葉に、感情の堤防はついに決壊。少女は大声で泣き出すと、彼の背中に抱き着いた。
そしてしばらくして――
「寝たか」
泣き疲れたのか、彼女はそのまま寝息を立てていた。
そんな彼女を、スクトはおぶって歩き出す。
しかし、彼は気づいていなかった。
自身の背にいる少女の瞳が一瞬妖しく、紅く輝いていたことに――
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