05 探し人、尋ね人

「う……」


呻き声を漏らしながら、ゆっくりと目が開く。

意識がはっきりしてくると同時に、だんだんと後頭部に痛みが走り出す。

頭を押さえ、降りながらそれを払うと、俺は周りを見渡した。

そこは――


「牢屋……?」


なんと俺は今、薄暗い牢屋の中にいた。

一体、何故?

頭痛をこらえつつ、思い返す――




「さて、と。帰ってきたはいいけどこれからどうしたものか……」


屋敷から馬車で町まで戻ったころ。太陽が高く昇った昼の広場に立ち、俺は一人呟いた。

これからの生活のための日銭は手に入れたものの、これだけではいずれ尽きる。

アルバイトでも何でもいいから、探さないとな。

そう思い、早速歩き始めた――矢先のことだった。


「あれ?」

自分がいる噴水のちょうど裏側から、かすかな鳴き声が聞こえてきた。

気になって向かうと、女の子が泣いているのが目に入った。

「どうしたんだ?」声をかける。

見たところ、7~8歳ぐらいだろうか。


「グス……パパが……いなく、なっちゃったの」

「何だって!?」

少女の口から飛び出したセリフに驚き、思わず叫んでしまう。

道行く人たちが目を丸くしているが、そんなことは関係ない。

こんな一大事、放っておけるわけがない。

俺はしゃがみ込み、言う。

「俺も探すの、手伝うよ」

「ほんと?」

「ああ」

そう答えると、少女の顔にかすかだが笑みが浮かぶ。

俺を見つめるその瞳は、期待に満ち溢れていた。


「ありがとう、お兄ちゃん」

彼女の言葉に、俺は笑顔で返す。

少女は懐から一枚の写真を取り出し、見せた。

そこには、仲睦まじい父娘の姿が映っている。


「必ず見つけよう」

こうして、迷子の少女の家族探しが始まった――



俺たちはまず、ある場所へと向かった。

そこは――


(まさか、こんな短い間にまた来ることになるとは)


レイヴンズの屯所だった。

こういう事件であれば、まず警察を頼るのが筋だ。

俺が足を踏み入れようとした、次の瞬間。


「うぉ!?」

「わっ!」


急に出てきた人影とぶつかってしまい、互いにしりもちをついた。

「すみません、大丈夫ですか」慌てて言いつつ相手を見る。


「あ゛?またお前か……今度は何やらかした」

眉間にしわを寄せる、その男は――


「……どうも、お久しぶりです」

カイセ・スクト――つい先日、俺に取り調べを行ったり飯を奢ってくれたりした人だった。


「そ、それより!この子の父親がいなくなったみたいで……何か知りませんか?」

俺は本来の目的を思い出し、口早に伝える。


「悪いが知らねぇ。だが……」


スクトさんが言うには、つい先日から行方不明者が多発しているらしい。

年齢、性別共にバラバラで法則性が皆無なことから捜査が難航している、とも。

とりあえず2次災害を防ぐため、少女はレイヴンズが預かることになった。

危険に巻き込んでしまう可能性が大いにあることから、俺もそれを承諾。

写真だけを彼女から預かり、行こうとすると――


「待て」スクトさんから呼び止められた。


「言っとくぞ。素人が首突っ込むんじゃねぇ」

「……でも」

「でももクソもあるか。お前が何者かは知らねぇが、今やろうとしてんのは子供のごっこ遊びだ。そんなもんで、俺たちの仕事を増やされちゃ敵わん」


その言い草にカチンときた俺は、つい怒鳴ってしまった。


「何ですか!?この子が泣いてるのを黙って見てろとでも!?」

「ああそうだ。一般人が手ぇ出すな」


しばらく、互いににらみ合う。そして、


「俺、もう行きますから!」

そう一言いい残し、この場を逃げ出すように俺は走り去った――



「あの!この写真の人知りませんか?」

そんなこんなで、夜。

道行く人も少なくなってきた頃、俺は通りがかる人々へ尋ねていた。

しかし、大体の人は見て見ぬふりで通り過ぎ、聞いてくれた人も「知らない」と言うばかり。

途方に暮れていた、そんな時だった。


「その人なら、見たことがありますよ」

通りがかった一人の男が、そう言ったのは。

「本当ですか!?」俺は食いつく。

「ええ。どこかでゆっくり話しましょう。こちらへ」

「はい!」


焦りが勝っていた俺は、ろくに警戒もせず、案内されるがままに男の後ろをついていった。


そして――だんだんと人気のない路地裏へと入ってゆく。

しびれを切らした俺は足を止め、聞いた。


「あの、そろそろ話していただけませんか?」

「まぁそう、焦らないでくださいよ……」


男が俺をなだめた、次の瞬間。


『マスター、後方より敵意を感知。回避してください』

マリスが、俺の頭の中で警告した――がしかし、一歩遅かった。


「う……ぁ」

振り向くよりも先に、俺の後頭部を強い衝撃が襲う。

視界がかすみ、意識がもうろうとする中、


「ふん、ガキが嗅ぎまわりやがって――」


そう吐き捨てる、鉄パイプを握った男の姿が見えた。それは、


「なん、で……」


あの子の、父親の姿だった――

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