04 新たなスキル
『それでは、検証実験を開始します』
屋敷の庭。俺はスマホを手に持ち、よし、と意気込む。
それを椅子に座って見守る、エンデとセバスさん。俺は二人に頷き、言った。
「ヘイ、マリス。《
『かしこまりました。《生成》を発動します』
《生成》。そう名付けられたこのスキル。俺がこれを手に入れた経緯は、数分前に遡る――
※
『学習しますか?』
「え?」
あの石――メタモナイトを解析し終わった直後のこと。彼女は俺に尋ねてきた。
俺は返す。「してどうなるんだ」と。
彼女は応えた。『おそらく、武器の生成が可能になります』と。
俺は少し悩んだ。帯刀が当たり前のこの世界でこれから先生きてゆくためには、確かに武器は必要だ。
しかし《学習》モードは、あの時の一度限りとはいえ、見た感じ対象を――《火球》なら火球そのものをデータ化して取り込む必要がある。
人様の所有物にそんなことをしてもいいのか?そんなブレーキが働く。
俺は恐る恐る、尋ねた。
「あの……すいません。図々しいとは承知の上なんですけれど……」
「なんでしょう?」
「よろしければこの石、貰えませんか?」
瞬間、場の空気が静まり返る。
マズった――流石に失礼が過ぎたか……いきなり現れたどこの馬の骨とも知れぬ男に、こんな貴重なものを渡せるはずがない。
急いで謝ろうと口を開いた俺だったが――
「……構いません」
予想外の返答に、開いた口がふさがらなくなってしまった。
「え、今、なんて」
何度か頭の中で彼女の言葉を反芻し、やっと飲み込めた。片言の質問が俺の口から飛び出す。
「構いません。貴方ならきっと、これを正しく使ってくれると信じています」
そう言って、俺に笑いかけるエンデ。
セバスさんも、何も語らないながらに深く頷き、同意を示している。
俺は二人を交互に見渡し、言った。
「本当に、いいんですか」
「ええ。例え私たちが持っていても、使い道もありませんし。それならば、貴方に託すほうがこちらとしても嬉しいです」
彼女の言葉に、決心がついた。俺はメタモナイトを手に取り、スマホをかざす。
「ヘイ、マリス。《学習》してくれ」
『かしこまりました』
そう言うと、今朝と同じようにスマホから光が放たれ、たちまちデータの粒子となってメタモナイトが吸収されてゆく。
そして数秒の沈黙の後。
『ラーニング完了。スキル《生成》を取得しました』
新たな力を、俺は手に入れた――
※
そうして、時は現在へ至る。このスキルが一体どんなものなのか?それを探るため、ひとまず使ってみようという訳だ。
幸い、この庭は広い。少しぐらい派手に立ち回ったとしても問題はなさそうだ。
さぁ、どんとこい!
『何を生成しますか?』
「じゃあまず……剣で」
『かしこまりました』
マリスが言うと、空中に剣のホログラムが投影される。そして間髪入れずに火花が走り、だんだんと実態を形作ってゆき――
「おお……」
俺の手元には、剣が現れた。ずしりとしたその重量感が、本物であることを示している。
俺は何度かそれを振るうと、マリスへ尋ねる。
「これ、必要なくなったらどうするんだ?」
『使用者の手元を離れれば自然に消滅します』
「へぇ……」
俺は言葉通り、剣を地面に置いてみる。すると、
「あ、ホントだ」
数秒と経たないうちに剣は0と1の粒子となって、どこかへ消えてしまった。
「マリス」
『何でしょう』
「これってさ、作るものに制限とかあるの?」
『ありません。ですが推奨もしません』
「何で」
『生成する物質の質量が大きければ大きいほど、バッテリーを著しく消耗するうえ、生成時間もかかります。故に、緊急性を要する戦闘時には推奨できません』
「あーなるほど」
例えば戦車を作ったとすれば、その分バッテリーを食い、相応の生成時間を要する。
だが手元を離れれば消えるという性質から、基本的に使い捨ての運用が主になる。
そうするぐらいなら、次々に武器を生成して手数で勝負したほうがいい、という事だろう。
まぁ、あんまり複雑な物を作っても扱い切れる気はしないから、やることもないとは思うが。
「よし、わかった。なら続きと行こうか」
『かしこまりました』
こうして、俺たちは数時間ほどこのスキルを試すこととなった――
※
「いやぁ、ありがとうございました。こんなにしてもらって……」
「いえ。助けていただいたことへの、ほんの気持ちです」
そして翌日。俺は屋敷の門を背にし、二人に見送られていた。
あの後結局一晩泊めてもらい、手持ちがないと知ると、なんとお金まで渡してくれたのだ。
その総額、日本円にして約3万円。節約すれば当分、生活に困ることはなさそうだ。
正直ここまで手厚くしてもらうとかなり申し訳ないが、ありがたく受け取ることにした。
「じゃあ、俺はこれで。何から何まで、ありがとうございました」
「こちらこそ。またいずれ、遊びにいらっしゃってください」
「ええ、必ず」
「では、お気をつけて」
「はい!」
そう言って、俺は屋敷を後にする。前を見ると、既に馬車が停められていた。
俺は乗り込むと、窓の外から二人を見て強く手を振った――
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