02 レイヴンズ
あれから数時間は経っただろうか。俺は今――
「そんじゃ、話してもらおうか?」
目の前にいるこの男……『レイヴンズ』と名乗った組織の一員に、取り調べを受けていた。
「まず、あの魔法具を出せ」
「魔法具……?」
「しらばっくれんな、あの四角い板切れのことだ」
「……どうぞ」
俺は少しためらってから、スマホを机の上へと置く。
男はよし、と一言呟いてから、スマホを持ち上げ、しばらく眺めていた。
そして、眉をしかめつつ問う。
「……おい、こいつをどこで手に入れた?」
「……故郷で作ってもらいました」
異世界から持ち込んだ、なんて言っても信じてもらえるはずはない。とりあえず、嘘でごまかす。
「ふぅん……ほれ」
そう言って、彼は俺へスマホを返す。
「ま、いいだろう。今回は正当防衛と人命救助に免じて不問にしといてやる」
「ありがとう……ございます?」
「何だ、不満か?」
「い、いえ。そんなことは」
この人、圧が強いな――そう思いつつも、笑顔を取り繕う。
これ以上揉め事を引き起こすのは勘弁だ。
「力を持ってはしゃぐのはいいが、使い方は間違えんな、とだけ言っとくぜ」
「え?」
「わかんねぇか?下手すりゃ今頃、お前が豚箱行きだったってことさ」
「ああ、はい……そうですね」
そう言って男が立ち上がり、去ろうとした瞬間。
「あっ……」
腹の虫が、大きく鳴いた。
「……ハァ、昼飯ぐらいなら奢ってやるよ。長いこと拘束したのはこっちだしな」
「あ、どうも……すいません」
「おら、来い」
ともあれ、今日の食事にありつけるのは嬉しい。
呆れつつも歩き出す男の後ろを、俺はついてゆくことにした――
※
「それじゃあ、いただきます」
「おう」
所変わって、ここは食堂。昼時だからか、人で賑わっている。
目の前にいるこの仏頂面の男――カイセ・スクトは、辺りを見回す俺をよそに昼食を頬張っている。
「あの……一ついいですか?」
「ふぁんだ」
「《レイヴンズ》……って、何なんですか?」
「んぐっ……あ゛ぁ!?冗談言ってんのか?どこの田舎から出てきたんだよ……」
「いやはや、お恥ずかしい……」
「ま、いい。なら簡単に説明してやるよ。俺たちは――」
――対魔獣・対魔法犯罪用特殊部隊、《レイヴンズ》。
それが、この組織の名前らしい。
民間人へ危害を加える存在を鎮圧し、治安維持を行う目的として作られた組織のようだ。
俺が持つこのスマートフォンも、そう言った組織から仕入れたものではないかとの疑いがかけられていたらしい。
今回は俺の助けたあの少女の――正確に言えば少女の家の強い要請により不問にされたようだが、下手を打てば俺があらぬ疑いをかけられていたかと思うと……正直ぞっとする。
『使い方は間違えんな』
あの言葉が何度も、頭の中で浮かび上がってくる。
今後は気を付けることにしよう――そう強く誓った。
※
「じゃあな、2度と来んじゃねぇぞ」
「そう願います」
それから数十分後。俺はスクトさんに見送られ、レイヴンズの屯所を後にすることになった。
しかし、文無しには変わりない。
はてさて、どうしたものかと内心悩んでいると――あるものが目に入った。
「……馬車?」
屯所の門から少し離れたところに、馬車が停まっているのだ。
それだけなら別に珍しくなさそうな光景なのだが……あれは明らかに場違いだと、確信できた。
なぜか?それは車の部分が、とんでもなく豪華だったからだ。どこからどう見ても、貴族とかが乗ってくる奴だろ、アレ。
そしてもう一つ、妙なものが視界に入った。
誰かが、手を振っている?
「あ!」
数秒考えて、はっと思い出した。あれはあの時、ナイフを持っていた男に捕まっていた少女だ。
彼女はこちらが気づいたことを知ると、より一層強く、手を振った。
どうやら、俺を呼んでいるらしい。
俺はとりあえず、そこへ向かうことにした――
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