第97話・おんぶの女性から食事ご馳走になった

 ボクは、カナコとの約束通り、シャワールームのカナコを覗いたり触ろうとしたりなどせず居間でおとなしく待ち、そのあとでボクもシャワーを浴びさせてもらった。ボクはベッドにかぎらず、女の子の個人的な生活空間に立ち入らせてもらえたことで「受け入れてもらえた」とシアワセを感じてしまう性癖なので、ひとりでシャワー使わせてもらえてるだけなのに、性的興奮の1歩手前になってしまった。

 ボクはシャワーから出るとカナコに言った。

「ありがとう。ボクは好きになった女の子に、ワガママに、あれやってこれやってってお願いして甘えたくなるんです。おんぶにしてもシャワーにしても、必要でとか助けを求めてではなく。。これしてくれたら、あれしてあげるという交換条件でもなく、ただ一方的に甘えなんですよ。だから女の子のがわとしては、イヤなことはイヤって断りやすいかな、と。そんなふうに断りやすいことなのに、断られないで受け入れてもらえると、もうすごく嬉しくて・・。だから、これからもボク、いろいろとお願いするんで。どうしてもイヤなことは断っても、でも、まぁいいっかぁということだっら叶えてほしい」

 カナコは、ボクに対して「あれしてほしい、これしてほしい」はひとつもない。ボくは「あれしてほしい、これしてほしい」ばかり。こういうのって相性いいよね。

「でね、カナコさん、ボクせっかくシャワー浴びて綺麗になったんで、汗で湿ってる自分の服は着たくないんで、カナコさんのトレーニングウェア貸して・・」

 なるほど、こういうふうに甘えお願いしてくるのね、っと言いながらも、カナコは、トレーニングウェアの上下を貸してくれた。ボクはカナコのトレーニングウェアに着替えると、居間のフロアーに座ってるカナコの太ももの上に向き合うように座って「抱っこして」とお願いすると

「クロはホントに甘えん坊ねぇ」と言いながらボクの背中に両腕をまわしてくれた。

「こういう甘えん坊の男ってどう? 抱き枕のぬいぐるみ代わりに、カナコさんのベッドにひとつ置きたくならない?」

「ぬいぐるみとしては重いよー」

「ダイエットするよー。あっそうだ、ボクは、カナコさんの作ってくれた食事しか食べないようにして、体重軽くするよ。今日の朝食は、なーに?」

「ええ? 食事まで出せっていうの?」

「うん」

「わかったわよ、食事の準備するから、私の上からどいて」と、抱っこは終わりにされてしまった。

 やることのなくなってしまったボクは、キッチンに立ってトーストを焼いたりしているカナコの後ろを、うろちょろしていた。カナコは

「なに、うろちょろしてんのよ」

「カナコさんの近くにいたいんだもん」と言いながら、カナコを背後から

抱きしめようとすると

「邪魔。あっちでおとなしく座ってて」

「ハイ」

 邪魔っ、とボクの求愛行為を払いのけるキリリッとしたカナコは、いま、ボクに食べさせる食事を作ってくれているんだよ。このような、払いのける行為と、甘えに応える行為のギャップと両立にボクは、カナコとのあいだに、なにか絆のような信頼感が育ちつつあることを意識できた。

 こういう気持ちになれるところが、女性に甘えたいフェチのボクとしては至福。

カナコとの出会いについては第37話で記したが、あの唐突で不自然すぎる無礼すぎる出会いが、こういうふうに暖かみのある発展を遂げるって、夢って、思えば叶うもんなんだね。

「なんか、カナコさんとボク、家族みたいで嬉しい・・」

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