第94話・2種類のおんぶ感触を体験させてくれた女性

「重いですか?」

「重いに決まってるじゃないですか、何キロあるのよ?」

「70キロ」

「えーっ、わたしそんなに重いの担いでんのーー」

「ありがとう。重いのに、おんぶしてくれて」

「な、なんで・・、なんで、私におんぶしてなんて頼んできたのよ?」

「素敵な女性を見かけると、おんぶしてほしくなっちゃうんです」

「まったく、迷惑ですよ」

 そりゃ、あらためて言われなくてもわかるくらい迷惑なことだよね。知らない男にいきなり「おんぶしてください」って言われるなんて。にもかかわらず、こうして、おんぶしてくれちゃう女性が存在していることが、ボクが、女の子大好き人生を断ち切れない理由の大きなひとつ。

「迷惑ですよ」「私、なんで男なんかおんぶしてんだろ」と言いながらも、おんぶして、こうして歩いてくれてる。長身女性さんの歩き方はカツカツと一定のリズムで安定感があったので、乗っていて安心感もあり、その安心感と、彼女の着ているダウンジャケットのふわふわ感触に沈むボクの身体、その相性というか相乗効果というか。

 おんぶしてくれてる女性の体形は細身なのに、ふわふわ感と暖かみがボクの身体を

70キロの体重をガッチリと受け止めてくれている。寒い冬の日の、モコモコ防寒着レディーのおんぶ、乗り心地は格別のお得感。女の子の上に乗れてるだけで幸せなのに、その女の子の上にふかふか座布団を敷いて、その上に座らせてもらってるような特等席感。

 前話でも述べたように、ダウンジャケットのおかげで、女性との肌の密着感は損なわれるのだが。ダウンでは、女の子の体温による暖かみは乗ってるボクにも伝わってくる、これがコートだったら、暖かみを感じれないのだろうか、などと想像してみる。せっかく今この目の前の女の子が、おんぶしてくれてて大満足してるのに、違う女の子に違うシチュエーションでおんぶしてもらえたときの心配してるって、なんてボクは彼女に対して失礼な脳みそしてるんだろ・・ごめんなさい。

「もう体力限界よ、ここで降りて」

という女性の声で、ボクは現実に引き戻された。

 あっ、そうだ。ボクが空想と妄想で夢うつつになっているあいだ、女の子はボクをおんぶして、寒いビル風の中、歩いていてくれてんだった。夢うつつから現実に戻されると、冬の風が寒かった。おんぶから降りて

「寒いよー」というと、女性は

「私は汗かいちゃってちょっと暑い」と、ダウンジャケットの前ファスナーを開けたので、ボクは「寒いからちょっと着させて」と、彼女のダウンジャケットを脱がせて借りて自分が羽織った。

 女性は「えーっ、それもってれたら寒いよー」と。

ボクは「暖かくしてあげるー」と言いながら、彼女の背中に飛び乗った。

「ちょっと、もう、おんぶは重いから・・」と言いながらも、ボクの両足をホールドして、おんぶの体勢でまた歩き始めてくれた。上に乗ってるボクは彼女のダウンを羽織ってるから暖かくて、しかも、彼女の身体との密着感も「これこそ女の子のおんぶだ」感あって最高。ダウンと女の子の身体に挟まれた空間は、その女の子のベッドで彼女に抱かれながら寝ているような「受け入れてもらえてる」感に包まれていて、男としてはこの上ない幸せ。こんな暖かみのある幸せを、こんな寒い冬のビル街で「ボクひとりだけ」が味わえている・。

 しかし、10メートルも行かないうちに

「あっ、ダメだ、ヒザが上がらない。さっきと比べてぜんぜん力が入らない」と、歩道上にしゃがみこんでしまった。しゃがみこんでしまった女の子の背中に、ボクはダウンを羽織ったまま覆いかぶさり続けたいともおもったが、それは本気で叱られそうなのでやめた。

 2度目のおんぶって、1度目の筋肉疲労がまだ残っていて、本人も自覚してなかったくらい「ガクッ」とくるって、過去にも何人かの女の子にそれやってしまったことをおもい返した。

「ありがとう、ヒザにくるまで、おんぶしてくれて・・・。乗り心地最高に気持ちよかったです」

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