第93話・冬のビル風と戦う女性におんぶしてもらった

 冬の寒いビル風が吹きすさぶ交差点。スクランブル交差点を足速に歩くひとりの長身女性。その女性の纏っている長めのスカートが、風にたなびいて、女性の足のところでパタパタパタッてなってる様が、妙に色っぽい。その女性は、もともと細くスラッと長身ではあるが、長めスカートのパタパタ効果で、さらに細い体の女性に見えてしまうところが、ビジュアル効果というところだろうか。

 その長身女性はそのまま、どこかのビルに入ってしまうかと思いきや、ビル風がそこそこ強く吹いてる歩道上で立ち止まり、スマホ見始めたので、ボクに、話しかけるチャンスを与えてくれた。こういうことに、ボクは、運命の出会いを感じちゃう極楽トンボな人生観。

「風にスカートがたなびく、あなたの立ち姿、すごく色っぽくて、グッときちゃったもんで、こうして声かけしちゃったもんで、すみません」

 ボクは街中で女性に声をかける際、怪しい者ではないですふうにせず、「怪しい者なんです、すみません、貴女に感じてしまって・・・」ふうとし、ひとことめから、単刀直入、正直に言うことにしている。そんなボクのアタックを嫌がる女性は、サッと立ち去ってゆくので、お互いに、時間と労力の無駄遣いが少ない。

 今回の女性は

「えっ、スカートが? そうなんですか、初めてそんなこと言われました」と。

「風にたなびくスカートの生地が薄めで軽いところが、可憐なイメージ創出なんですよ。冬の風に負けない可憐な女性って。可憐な女性、華奢な女性が、強く生きてることに、ボクは色気を感じちゃうフェチなんですよ」

「わからなくはないわ、そういうの」

「女性のファッションって、他人からどう見られるか、他人にどういう感情を沸き立たせるかを考えたうえでのチョイスだと思うんですが、貴女のその、薄く軽い生地のロングスカートをこの寒い真冬の日にって、ボクがさっき言ったような可憐さを意識してましたか?」

「可憐さは意識してないわ」

「ですよね、貴女は、芯はかなり強い女性だと感じるので、可憐さやか弱さなんかで自己表現はしないだろうな、と。その、意識してないとこ、がいいんですよ、男心としては萌えるんです」

「こんな手抜きの安いスカートに萌えるって・・」

「そのスカートに、ではなく、そのスカートでその女性がなにをするかです。貴女は、風の強いところに立ち続けていた」

「そういうところに?」

「で、おねがいがあるんですけど、ボクをおんぶして、ビル風の強いこの街を5分くらいでいいのであるいてほしいんです。可憐にみえるけど芯の強いあなたのような女性におんぶしてもらえたら、最高に萌え萌えになれそうで」

 ボクは、女性の返事を待たずに「じゃあ、乗りますよ」と言ったと同時に、彼女の背中に飛び乗ると

「えっ、ホントに乗ってくるか」と言いつつも、両手でボクの足をちゃんと支えてくれた。スカートは薄手だったが、上着はダウンの入った防寒着だったので、ボクは、ふかふかのダウンの上におんぶしてもらうことになり、この「ふわふわ」な感触の乗り心地も浮遊感あって、なかなか良いなと新発見。

 ダウンの上からだと、女の子の身体との密着感が遠のくわけだが、なんだかんだいっても、70キロのボクの体重の重みがあるわけだから、すぐにダウンのふわふわ感は押しつぶされ、ボクと彼女に挟まれた部分のダウンはすぐにかなり暖かくなってきて、さすがダウンの保温効果だ。

「あっち、丸井の交差点まで歩いてよ、ちょっと歩けば身体暖かくなると思うし」

「それより、なんで私、知らない男の人なんか、おんぶしてんだろ?」

と言いながらも、女性は丸井のほうへ向かってコツコツと靴音を立てて歩き始めてくれた。やっぱりボクの見込んだとおり、足腰の強い女性の歩幅の広い安定した歩みをしてくれてる、乗り心地はかなり極上。。これはナイスなおんぶガールを見出したもんだと、彼女のスカートをパタパタさせてくれたビル風に感謝。

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