第91話・歩行者天国で女の子におんぶしてもらう優越感

 女の子に「おんぶして」とお願いして、即答で断られるケースには、実は、背の高い身体大き目の女の子に断られるケースが多く、小さい女の子や華奢な女の子は

「できるかな、やってみようかな」と言ってくれることが多い。第8話で初めてボクをおんぶしてくれたコスプレ女子のミユキもデートのたびに

「また、おんぶですかぁ。いいですけど私、歩けませんよ」と言いながらも、ボクのワガママを受け入れて、おんぶしてくれる。

 この日は、人通りの多い歩行者天国のド真ん中で、頼んでみた。

「ミユキは、おんぶして歩いてくれないから、ここでしてほしい」

「いいけど・・・こんなに人目の多いところで恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしいよ。でもその恥ずかしさも快感なの」

 ミユキは非力で華奢なので、ボクも飛び乗りはせず、街路樹の柵の上から、ソローっと抱き寄せるようにミユキの背中に乗った。この最初の乗り位置をズリオチしにくい高い位置にすることが、非力な女の子に乗るときには大事。

 ミユキは、おんぶはしてくれるが、歩くのは転ぶのが怖いからできない、とのことで、ボクをおんぶして、その場に棒立ちだ。この「棒立ちおんぶ」は、女の子の髪やコスプレ衣装をじっくり堪能できる良さもあり、またおんぶしてくれてるミユキの感情を、より直接的に肌感覚として感じ取れる、しっとり感のようなものもある。

 おんぶしてくれる女の子が、かわいいコスプレしてくれてるのは、ボクにとっては萌えポイント急上昇なのだ。それは「私かわいい女の子よ」とアピールしてくれてる女の子がおんぶしてくれるって点。どう見ても力強い女子プロレスラーでは萌えないのの逆だ。ミユキの今日のオレンジの制服のようなコスプレは彼女の自作だ。コスプレの女の子に乗ることができることによって、そのコスプレは、着てる女の子だけのコスプレではなく、乗ってるボクのためのものでもある。ボクのためにミユキは衣装を作って着てきてくれたという幸せ。

 そんなコスプレ女子の上からの眺めは夢心地で、ボクの太い両足を持ってくれてるミユキの細腕が微妙にときどき動くのを感じ取ることもでき、ミユキの細腕が頑張ってくれてんだなぁ、と。ただ棒立ちしているだけでも、70キロのボクをおんぶしてる女の子にとっては大変な重労働なんだろうな、ということは、ミユキの頭の角度からもわかる。疲れてくると、だんだんと、ミユキの顔が下向きになってゆく。

 そんな我々おんぶカップルが今回は、街路樹の隣にただ棒立ちしているもんだから、歩行者天国を歩く人たちから、なにかのアピール展示芸とおもわれていたかもしれない。だが、展示芸にしては、下で支えているコスプレ女の子は、下を向いてしまっていて、体力的に、かなりツラそうだし、とか感じたかもしれない。

 かわいい衣装を着た女の子がツラそうにおんぶしている男は、ボクのような冴えないおっさん。おんぶしてどこかへ行くわけでもなく、なにかの宣伝してるわけでもなく、この2人はなぜここでおんぶカップルとして棒立ちしているのだろうか。なにかの罰ゲームだろうか、と。

 ミユキのおんぶに乗ってるボクとしては、おんぶフェチなので

「このたくさんの人がうごめいてる歩行者天国の中で、女の子のおんぶという極上の幸せを味わえてるのは、この中でボクだけだぜい」という優越感。歩いてる人々よりも自分の目線が高いところにあるのも、優越感をよりわかりやすいものにしている。

「見ろ、、ボクには、こんなふうにおんぶしてくれる女の子がいるんだぜい」という優越感も。しかもコスプレの華奢でかわいい女の子が、だよ。

 この優越感は、誰かを打ち負かす必要のない優越感なので、誰かに劣等感を強いているわけではない点が「勝手に優越感」って感じで平和で能天気でいいでしょ。結果的には、他の女の子の歩くおんぶよりも、かなり長い時間、ミユキは、棒立ちおんぶをしてくれたことになるかもしれない。ミユキちゃん、ありがと。。

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