ブラックギルドを追放された錬金術師の私、免許を剥奪されて追放される~実は世界最高レベルの実力でした~

ラチム

第1話 突然の解雇&免許剥奪

「レイリィ、君の失態は見過ごせん。よって追放とする」


 錬金術師ギルドの支部長に執務室で冷淡に宣告された時、頭の中が真っ白になりかけた。

 言葉を返す前に、傍らにいた先輩のゲリッツさんが口を開く。


「当然だろう。お前のせいで私の面目は丸つぶれだ。誤った素材の選定をしてくれたおかげでなッ!」

「な、なぜですか! 私が!?」

「町長婦人が依頼したビューティリング製作における下準備をお前に任せたのが間違いだった。とんでもないものに仕上がってしまったんだよ。

身に着けた婦人が体調不良に陥り、寝込んでしまった! あとで鑑定をしたら、体力が著しく低下する代物だったのだよ!」

「でも、ゲリッツさんは私に任せられないと張り切って……。それで今回は何も……」

「……は?」


 ゲリッツさんの平手打ちが私の頬を打った。痛みで涙が出る。


「言うに事欠いて貴様は! あれの下準備はお前がやったんだろう! よくも嘘をつける!」

「そ、そんな……」

「万年、五級の落ちこぼれのお前とは違ってな! 二級錬金術師の私がミスをするはずがないんだ! あるとしたらお前が勝手に仕込んだ事になる!」

「やってません! そのビューティリングを見せて下さい……いたっ!」


 支部長から額に投げつけられる。床に転がったビューティリングを拾うとすぐにわかった。

 素材のクイーンルビーが呪われている。なんでわからないんだろう。

 素材は目に見えるものだけじゃない。そういう素材の本質を見抜いてこその錬金術師だってお父さんも言ってたのに。


「それのどこが呪われているというのかね? 君ィ」

「支部長、これどこで仕入れましたか! たぶん、前の持ち主が他界してます!」

「そんな事はどうでもいいのだよ! 問題は君が自分のミスを棚に上げている点だ!」

「どうして信じてくれないんですか……。私、今日までほとんど休まずにずっと働いてきたのに……」

「フン! 雑用程度で仕事をした気になるんじゃない! まったく、これだから平民の女は……」


 錬金術師はほとんどが貴族出身だ。知識や技術、良質素材のほとんどを上流階級が独占している上に養成学校への入学には多額の費用がかかる。

 とても平民が入る隙なんてなかった。それでもお父さんは錬金術師だったし、私も学校も行かずに勉強した。

 学校もいってない平民が受かるはずがないと笑われたけど、私はなんとか試験に合格したんだ。

 晴れて錬金術師になって早二年。この支部で休まずに先輩達の雑用周りをこなしていたのに。


「今までもひどい仕事ぶりだったが、今回の件はさすがに見過ごせん。本部にすべて報告したところ、無事これが届いたのだよ」

「免許停止……処分通知……」

「二年も経つのに四級への昇級試験すら受けられない。雑用ごときで仕事をした気になっている。平民のガキが試験を合格したと聞いて少しは期待したのだがねぇ?

そこのゲリッツを見たまえ、君ィ。彼は貴族出身だが、たった数年で二級まで上り詰めたのだ」

「でも、私に試験を受けさせていただけなくて! 他の仕事だってさせてもらってません!」


 また平手打ちをしてきたのはゲリッツさんだ。頬を抑えて堪えてる私に容赦なく罵声を浴びせてくる。


「この期に及んで支部長の非か、貴様はァ! 実力が足りてない奴に誰が試験を受けさせるか!」

「その通りだ、君ィ。今回は町長婦人……大口の依頼だったというのに、まったくやってくれたよ。ゲリッツのような将来有望な者の信頼まで失われたのだ」


 文句一つ言わないで頑張っていれば、いつか認めてくれると思ってた。いつか本格的な仕事をさせてくれると本気で思った。

 それが今、ここで何もかも終わろうとしている。


「本日をもって君を解雇とする。あー、もちろん寮も今日中に出ていってもらう。ま、でも問題なかろう。何せ君は女だ」

「支部長の言う通りだ。女なんぞ、とっとと男でも作ってガキでも産めばいい。もしくは体を売れば稼げるのだから、楽なものだろう?」


 何も言い返せずに私は執務室を出た。ドアの奥から二人の笑い声が聴こえてくる。


                * * *


「町長に用が? あいにく留守中だが?」

「先日、納品されたビューティリングに関してお話をしたいのですが……」


 訝しむ使用人だけど、何とか町長に取り次いでもらえた。出てきた町長は明らかに不機嫌で、私を見るなり怒鳴り散らす。


「貴様、あのギルドの錬金術師か! 今更、何の用だ!」

「その件は申し訳ありません! あのビューティリングに使われていたクイーンルビーは呪われていたんです!」

「はぁ……?」

「奥様を蝕んでいるのは呪いなんです。今ならまだエクソシストギルドに行けば間に合います。どうか急いで下さい」

「何を言い出すかと思えば、よくもそんな言い訳ができるな!」

「お願いです!」


 頭を下げたけど、突き飛ばされてしまった。門から締め出された後、町長はまた私を睨みつける。


「お願いです! 信じて下さい! 錬金術師が作ったもので不幸になる人が出るのはとても悲しいんです!」

「もう二度とその顔を見せるな! ギルドにも頼まんぞ!」

「手遅れになる前にどうかお願いです!」

「フン……!」


 激しい金属音を立てた門が閉められる。ポツポツと雨が降り始めたけど、私は叫び続けた。声が枯れるまでずっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る