第5話 隷属の首輪をつけてしまった

「とにかく、体が冷えてるだろうからこれでもかぶってろ」


 オレは自分の上着をソフィアにかける。

 ソフィアは少し驚き、照れた様子で上着にくるまる。


「……大翔の匂いがする」

「匂いを嗅ぐなこの変態がっ!」

「あはっ、そういうのも悪くないなあ。ゾクゾクしちゃう♪」


 どうやら本当に変態だったらしい。


 あとは飲み物を何か……。

 体を温めるなら紅茶がいいかな。


「ほら、これでも飲め」

「ありがと。相変わらずだなあそういうとこ」

「はあ?」

「そうやって私を救ってくれるとこ。あー、あったかいっ」


 ソフィアは「はーっ」と幸せそうなため息をつく。

 体に熱が戻ってきたのか頬が少し赤みがかっていて、とろんとした目つきも相まって妙に色っぽい。


「おまえ本当、いったい何なんだ?」


 会社の奴らが差し向けたのでなければ、いったい何の用があって魔女のコスプレなんてしてオレの家にやってきたのか。

 頭はおかしいけど黙ってれば美人だし、相手が悪い奴だったら――


「もーっ! まだ信じてくれてないの? 私、魔女なんだってば! 本当に正真正銘、本物の魔女なんだよっ」

「あのなあ。オレはもう25だぞ? 魔女なんて言われてそうですかって信じるわけないだろ」

「……でも、本当に魔女なんだもんっ」


 今度は拗ねだした。

 こいつはあれか?

 なんか「〇〇星からきたお姫様です☆」みたいなタイプの人間か?


「だったら証拠見せろ証拠」

「むー。いいけどほかの人には言わないでね?」

「言うかっ!」


 オレまで頭のおかしな奴だと思われるのはごめんだ。

 まあそもそも話す相手もいないけどな!


「それなら!」


 ソフィアはそう言うと片手を前へ伸ばし、30㎝ほどの杖を手にした。

 全体が木でできており、指揮棒のような形をしてい――


 って嘘だろおい!?


「おま、それ、今どこからどうやって」

「? どうやってって、魔法だけど」


 ソフィアは当然のことのようにそう言って杖を掲げる。

 すると彼女の足元に、紫色に輝く魔法陣が現れた。

 そして何やら聞き取り不可能な言語を高速でつぶやいたかと思ったら――


 そこに黒いチョーカーのようなものが現れた。


「……え、ええと?」

「まず、この首輪を私につけて」

「え? お、おう」


 オレはソフィアの首に手をまわし、チョーカーの金具を留めてやった。

 魔法ってもっと全自動だと思ってたけど、案外手動なんだな。


「できたぞ。これでいいのか?」


 オレがそう言って手を離した瞬間。

 チョーカーが強い光を放ち、そして消えた。


「――え?」

「はいっ! これで契約完了っ!」


 は?


「ちょっと待て。契約って何だ」

「さっきのは隷属の首輪っていって、つけられた側はつけた相手の使い魔になるんだよっ」


 おいいいいいいいいい!


「おまえ何考えてんだ! というか使い魔ってなんだよ」

「使い魔はねー、まあ簡単に言ってしまうと奴隷ってことかなっ! 私が魔女だって信じてくれた?」


 どう考えてもドヤ顔で言うことじゃない。

 というか奴隷って。

 仮にもこんな人間――ではないにしても人型の生き物を奴隷って。


 オレはそんな変態じゃねええええええええ!!!

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