最果て砦の闘神
いまノチ
プロローグ
ワガママな公爵令嬢は、8歳の時高熱を出して前世の記憶が甦った。
混乱しながらも、自分がこの世界とは別の世界から転生した事を理解する。
だが、ただの異世界転生で無く、己の容姿や名前、国の名前、婚約者の王太子の名前でここが乙女ゲームの世界だと気付き血の気が引く。
何故なら、己の転生先の公爵令嬢は、所謂ヒロインを邪魔する【悪役令嬢】なのだ。
最後は断罪され、スカッとざまぁされる役割だ。
そんなの絶対に嫌だ、と公爵令嬢は嘆き、断罪されないように動き出す。
その過程で前世で最推しだった第二王子と仲良くなり、王太子の側近(攻略対象)達とも親しくなった。
だが、婚約者の王太子は中々会えず、会っても義務的で、第二王子や側近達に相談するが関係は改善出来ない。
結局ヒロインが現れ王太子に接近し、王太子もそれを受け入れてる。
ゲームの様に傲慢でワガママでなく、ヒロインを虐げる等の悪いことはしてないから大丈夫かと思っていたが、パーティーで衆目の中、やった覚えのない罪を挙げられ婚約破棄されてしまう。
公爵令嬢は呆然としてしまったが、彼女の味方となった第二王子や、攻略対象達が助けに入り、逆に王太子やヒロインを糾弾して、断罪した。
公爵令嬢を気に入っていた王も王妃も怒り、王太子を廃嫡し、兵士として最果て砦に送り、ヒロインは修道院行きになった。
そして、公爵令嬢は第二王子に告白され、そのまま婚約し、ハッピーエンド。
そんな物語。
の、世界だった。ここは。
所謂、悪役令嬢転生もの。婚約破棄もの。ざまぁもの。
そんな物語の一つ。
ざまぁされ、廃太子となった王子は魔物から国を護る防衛砦に追放されて、番外編でちらりとその後が書かれている。
一兵士として扱っていいという王からの命で、誰からも助けて貰えず、美しい容姿から、力の強い兵士達の性処理道具にされ、心を病み、最期は魔物の跋扈する森へ武器も持たずに消えていくーーーー
そんな運命にある王子が前世を思い出したのは、最果て砦に向かう護送車の中だった。
ただ、婚約者だった公爵令嬢とは違い、王子の前世はこの世界の過去に生きた人間だった。
群雄割拠の時代。戦乱の世の中。数多の戦場を駆け、あらゆる武術に優れた【闘神】と呼ばれた男。
「最果て砦、か」
ずっと無言で俯いていた王子がポツリと呟けば、監視で同乗している騎士が反応し、王子を見る。
王とは、国政を治める者であり、自ら戦場に出て闘う時代では無い。
たとえ戦に出たとして護られながら後方で指揮を執るだけだ。
故に、次期王たる王太子も、護衛術以外を習うことはない。
剣を振るっている時間などないとばかりに詰め込まれる勉強や公務。
そんな武を持たない王子を、一兵士として最前線ともいえる砦に追放など、公然に死を望まれていると言っているようなものだ。
故に先程まで己は酷く絶望していたというのに、前世の記憶が甦ってみれば、寧ろ良かったと思えた。
ぐっと、手を握り締める。
身体の奥底から沸き上がる力を確かに感じた。
これは、前世の己の力。
【闘神】と謳われた男の力。
闘いが全てだった。強者との魂のぶつかり合い。それこそが最も【生きている】時間だった。
「シュラ殿下。もうすぐ到着する様です」
護送車の外を警護する騎士が外から声を掛けてくる。
殿下、と敬称されるのは未だに王子という身分故だ。砦に着いたら、王子だろうと一兵士と同じ扱いになる。王直々にそう命じられており、不敬罪は適応されない。だったら平民に落とせばいいものを、最後の謎の親心なのか王子なのだ、まだ。継承権も、権力も無いのに。
顔を上げた王子に、同乗している騎士が息を飲む。
そこには、出発前からこれまでの道中ずっとあった青ざめた絶望の表情などはなく、不適に笑う紅顔があった。
人間、魔族、亜人、魔物、様々なものが争っていた時代。その中で最強と言われた人間の武将がいた。
壮絶な最期を迎えた彼の死後も、【闘神】の逸話は語り継がれている。
ーーーまぁ、彼の近しいものは「あいつはただの戦闘狂だ」と笑っていたが。
雄々しい体躯の最強戦闘狂が、眉目秀麗な王子に転生した。
最強の力を有したままーーーーー
これは、そんな話。
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