第12話 深淵を喰らうもの4

 ウェステリアの街を出てから約2週間。

 ソルとルナは遺跡を踏破し、無事に街へと戻ってきた。

 往復路で屠ったダンジョン化した魔物――ダンジョンモンスターの魔石をギルドで換金し、遺跡の情報を売る。


「出発する前に寄ってくだされば、深淵の森の調査依頼が色々あったんですよ?」


 リタに何も言わずに遺跡に向かったことが不満のようで、ソルはネチネチとリタに責められていた。


「このゴーレムの魔石は大金貨4枚。フォレストリザードの魔石は大金貨1枚です。他の諸々は合わせて大金貨1枚、遺跡の情報は、金貨3枚です。この情報だって、事前に言ってくだされば依頼がでてましたので大金貨1枚になるところでしたのに、もったいないことです」

「わかったよ、リタ。黙って行ってすまなかった」

「何を謝ることがあるのです? 私は自業自得ですとお伝えしているだけです」


 ダメだ。こうなったリタは下手に刺激しないようにするに限る。


「そうだな、反省するよ」

「当然です」


 リタは大金貨6枚と金貨3枚を金庫から出すと、ソルとルナの前に置いた。

 ソルはそれを袋に纏めると、袋を全てルナに渡した。


「お前のハコにしまっておけ。そうすればスリにあうこともないだろ」

「あ、はい」


 ルナはソルに言われるままに、貨幣袋をハコへと収納した。

 その流れるようなやり取りにリタの目が光る。


「……何かありましたね?」


 リタが目をキラキラとさせながら、二人の前に身を乗り出す。


「何だよ何かって」

「何かと言えば何かですよ!」

「あの、リタさん――」

「はいぃぃぃ!」


 ルナが話しかけるとリタの目がギョロリとルナをとらえる。

 その形相に恐れを抱きながらも、ルナは淡々と返答した。


「力を合わせ、共に、無事に、遺跡を踏破することが出来ました。ご心配をおかけしました」


 ペコリとルナが頭を下げる。

 するとリタもこれ以上は聞くまいと思ったのか、ニコリと笑うだけで、深く追及することはなかった。

 そんなリタを背に、ソルとルナは宿へと戻る。


「お前のことだから、リタに変なこと言うかと思ったぞ」

「ソルさんもお疲れでしょうから、やめておこうかと」

「……成長したな」

「足りません。もっともっと褒めてくれていいんですよ?」


 褒め言葉をねだるルナをスルーしながら、マスターにも色々と聞かれるだろうなとソルは覚悟した。

 そしてそれは案の定、という結果となる。


「はい、ソルさんの上級麦酒です」


 ソルがルナの隣に座ると、もう上級麦酒が用意されていたのか、ルナがさっと木杯を渡してくる。

 それを受け取ると、ソルはルナとマスターの木杯に軽くぶつけた。


「お疲れ」

「かんぱーい!」

「ごち!」


 三者三様の言葉が響き、ソルはとりあえず目の前の麦酒を飲み干した。


「あぁぁぁぁぁうめぇぇぇぇぇぇ!!」


 約2週間ぶりの酒である。

 美味くないわけがない。

 魔石のおかげで懐は潤っているし、何より魔法も使えるように――


「あ、ルナ」

「ひゃい!」

「なんだよひゃいって」

「いえ、すみません。まだ慣れなくてですね」

「何がだ?」

「その……ソルさんに名前で呼ばれるのがむず痒いと言いますか、嬉しいと言いますか」

「あーそういえばソル、お前ずっと嬢ちゃんのことアイツとかお前とか言ってたもんな。今回の冒険で距離が縮まったってことじゃねぇか! いいことだぜ! ゲハハ!」


 そうだっただろうか。

 ソルはあまり意識していなかったが、こういうのは言われた方がよくわかっている。

 むしろ――


「あまり意識していなかったが、それはすまなかった。失礼なことをしたな」

「えぇ!?」

「おぃ、どうしたんだ!? 明日は雪でも降るか?」

「何でだよ!」

「マスターさん、こうなんです。遺跡を踏破してから、ソルさんがやけに優しくて怖いんです」

「はぁ? 俺は元々優しいんだよ!」

「はい、知ってます」

「んぐっ」


 ルナが笑顔でソルを見つめる。

 急に認められたことで、妙に気恥ずかしくなる。


「あ、照れてますね? 褒められて照れてますね? いや〜お可愛いですねぇ」


 くそ。相変わらず腹立たしい。


「ほら、マスターさん、これが、ソルさんが私に優しい理由なんですよ?」


 そう言ってルナは手のひらをマスターに向ける。

 左手の人差し指で、右手の薬指を指差し――


「ふふふ〜これ、ラブリングって言うんですよ〜。恋人の証なんですって〜困っちゃいますね〜まさかソルさんが私のことをそんな風に見ていたなんて照れますねぇ〜」


 などと宣い始めた。


「はぁ!?」


 自分で勝手につけておきながら、虚言も甚だしい。

 ソルもたまたま指輪が通るのが薬指がちょうどよいサイズだったから薬指に通したが、それが間違いだった。

 指輪自体は装着後、指に合わせてサイズが変わったため、小指でも良かったのだ。失敗した。


「そう、その辺の話だよ、俺が聞きてぇのは。バッチこいオラァ!」


 何故かマスターはそれを鵜呑みにしてテンションが上がっている。


「いやおかしいだろ、冒険の話を聞けよ!ってそうじゃない。ルナ、酔っ払う前に言っておく!」


 空の木杯をテーブルにタンッと置いて人差し指を突きつける。


「あ、プロポーズですか?」

「違ぇよバカ。明日、朝イチでギルドの訓練場貸し切って検証するからな、そのつもりでいろ」

「どの道、ソルさんと別行動する気ないので、そんな改めて言わなくても――」

「嬢ちゃんはソルの恋人だしな」


 マスターが悪ノリを被せてくる。


「そうなんですぅぅぅ!」


 そうなんですじゃねぇ!

 とソルが声にならない叫びを上げながら、ソルとルナの初冒険の祝勝会は夜遅くまで続くのだった。



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