驚き


義母とマチルダとロジャーが同時に叫び、その他、会場の全員が、私の顔を見た。


やめて。見ないで。私は醜いの。


「君は美しいよ」


フィル王子が力づけた。





回り中が、ざわざわしていた。


「どういうことなの?」


「今さっき、婚約破棄された令嬢と同じ名前じゃない?」



義母とマチルダは、私をじろじろみていた。


訳がわからないとでもいったように。


まるで私に見覚えがないみたいだ。



「あの…お義母様、マチルダ……」



これはまずかった。


声と口ぶり、それと怯えっぷりに二人は、姿形は違っても、私だって気が付いたみたい。



しまった。

二人とも、絶対に怒るわ。


どうしてかわからないけど、私に何かいいことがあると、いつもすごく怒るのよ。



特に怒ったのはマチルダだった。


マチルダは「厚かましい!」と大声で叫んだ。



「あんたみたいなデブで醜い娘が、王太子殿下の婚約者ですって? 出て行きな! ふざけるんじゃないわよ。どうして物置小屋から許可なく出て来た? ちゃんと食わせてやったのに、なんだね、その態度は!?」


それから、フィル王子のところへ飛んでいくと、


「こんな娘なんかをお選びになるくらいなら……もっともっとふさわしい娘がおりますわ。例えば……わたくしなんかいかがですかしら?」


としなを作って言った。



しかし、王子の目は冷たかった。




「何を言っている。娘は美しさだけじゃない」


フィル王子が、思いがけないことを言いだした。


ま、まあ、私をダンス会場に連れて行こうと言ったくらいだから、殿下は美人かどうかなんて、あまり気にしない方……


いや待て。確か、着替えを手伝ってくれた侍女は、すさまじいくらいの美人だと言ってたわ。



周りの人たちは、口をあんぐり開けて、私と殿下をかわるがわる見ているわ。



「フィル王子……これだけの美人を連れてきて、それはないと俺は思うぞ?」


小さな声でロジャー様がぼそりというのが聞こえた。



王子は言葉を詰まらせた。


どうしてそばに行きたかったのか、その気持ちの名前は知っていたが、自分がダーナのどこが気になるのか、理由については説明できない。



「娘は……ええと、ダーナは……ダーナだからよいのだ!」


聴衆は黙った。


ここで、のろけを聞こうとは思わなかった。




しかし、王子を正気に戻らせたのは、義母の公爵夫人がにっこり媚び笑いを浮かべて言った言葉だった。


「この娘はずっと物置小屋で暮らしてきたような娘なのですよ? 殿下にふさわしくありません。私どものマチルダの方が……」

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