第七話

 涼音はきちんと聞いてくれた。

 俺は引っ越すことに決まったこと、なかなか言い出せずにまごついていたこと、そして里香との一件も出来るだけ細かく話した。

 話終えると、涼音はどこか憑き物が落ちたような表情を浮かべた。


「そっか……。ごめんね、私の早とちりで」

「いや、俺が悪い。さっさと引っ越しのことを伝えていればこんなことにはならなかったんだ」

「ううん、そんなことない。私がちゃんと落ち着いて聞いてれば良かっただけのことだよ」

「そんなことは――」

「ま、それは置いといて……」


 涼音はパンッと手を叩いて話を切った。


「一応、確認だけど里香ちゃんとは本当になんでもないんだよね?」

「ああ、マジで何もない」

「じゃあ里香ちゃんにも謝らないとな。今日すっかり迷惑かけちゃったし」

「なんなら俺から――は言わない方がいいんだろうな」

「うん、これは私の問題だから」


 そう言うと涼音は歩き出した。


「帰ろ。なんだか疲れちゃった」


 落ちそうな気分を誤魔化すかのように、気楽な様子で歩き出す涼音。

 だがそんな涼音の背中に、俺は声をかけた。


「待ってくれ」

「ん?」


 涼音がくるりと振り向く。


「ごめん、まだ伝えてないことが一つだけある」

「え、な、何?」


 狼狽した顔でこちらを見る。何を言われるかわからないんだろう。

 俺も伝えるべきかわからない。でも、全部話すと言った以上、これも黙っているわけにはいかない。そう、決めたのだ。


「俺、涼音のことが好きだ」

「――え?」

「この前は告白を断ってごめん。離れることがわかってたから受けられなかった。でも、それはやっぱり違うかなって思ったから」


 涼音は黙って聞いていた。


「今までずっと好きだった。受けてくれなくてもかまわない。でも、もしこんな俺でもいいと思ってくれるなら、俺と付き合ってください」


 二人の間を沈黙が満たす。

 気の遠くなるような時間が流れるし、逃げ出したくなる。

 あぁ、くそ。だめだったかな。今さら遅いって言われるかな。この三日で嫌と言うほど泣かしたからな。


「…………ずるい」

「え?」

「ずるいって言ったの! そんなの……断れるわけないじゃん。私だってずっと……好きだったんだから」

「すぐにいなくなるけど、いいのか?」

「もう一生会えないってわけじゃないでしょ? もし先に引っ越しのことわかってても私は告白したよ!」

「じゃあ、いいのか?」

「……うん、うん。よろしくね」


 もう何度目になるかわからない涙を涼音は流す。だが、今回の涙だけは今までのものとは違って暖かいものだった。

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