第六話

 案の定、次の日の朝、涼音は家に来なかった。

 何度かメッセージを送ってみたが反応がなかったので、やむを得ず涼音と同じクラスの里香を通して確認すると、学校へは来ていたので少し安心した。

 ちなみに里香にはすでに昨日、誤解されたことと、母さんを通して引っ越しのことがバレたことを伝えてある。その件で里香も何度か涼音に話しかけてみたようだが、空振りに終わったようだ。


 帰りのホームルームが終わるや否や、すでにまとめてあった荷物を持ってダッシュで涼音のクラスへと向かう。教室まで辿りついたところで、足早に飛び出してきた涼音と出入り口で出くわした。ぎりぎりだったな。危ない。


「涼音、今日一緒に――」

「やだ!」


 俺を振り切って早歩きで行ってしまうが、今日こそは振り切られるわけにはいかない。

 昇降口で靴を履きかえる時間すら惜しい。あいつ、靴履くのめっちゃ早いし。

 少し踵をつぶしたが、ギリギリ同じタイミングに間に合った。


「なぁ、聞いてくれって」

「着いてこないで!」


 涼音は駆け出す一歩手前のようなスピードで歩く。こいつの運動苦手設定どこ行ったんだよ。こっちの息が切れそうだわ。


「ちゃんと説明するから!」

「昨日おばさんから聞いたから! これ以上聞くことなんて! 何もない!」


 なおも足早に立ち去ろうとする涼音だったが、もう埒があかないと強引に手を取り、途中にある河原に引き込んだ。


「ねぇ! 離してよ!」

「うるせえ! ちょっとは話聞け!」


 俺の怒鳴り声にびくりと身体を震わせて涼音の動きが止まった。「あ、いや、その、ごめん」と思わず謝る。


「……なんでよ……」涼音が俯いて、ぼそりと呟いた。


「今まで何も話してくれなかったのは凌太じゃない……。 なんで、なんで私が怒られないといけないの? もうわかんないよ。もう何も考えたくないよ……」

「ごめん……本当にごめん……」


 目に大粒の涙をためたまま、こっちを真っ直ぐに見据える涼音。


「ねぇ、なんで引っ越しのこと、話してくれなかったの? 黙っていなくなるつもりだったの? それと里香ちゃんと付き合ってるっていうのは私の誤解なの? でも里香ちゃんには先に引っ越しのこと話したんだよね? もう何もわからないよ……」


 わあわあと泣き出した涼音を抱きしめる。身を捩って抵抗されたが、こちらが力を緩める気がないとわかると、やがて涼音も力を抜いた。

 少し落ち着いたところで身体を離す。


「ごめん、ごめんな、全部説明するから……聞いてくれるか?」


 ゆっくりと言葉を紡ぐと、涼音はこくりと頷いてくれた。

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