第三話
「ね、ねえ、凌太。今日一緒に帰ってもいいかな?」
帰りのホームルームが終わり、教科書を鞄に詰めていると、既に準備を終えたらしい涼音が訪ねてきた。
やはりまだ昨日のことを気にしているのだろう。伺うような視線だ。
「あぁ、一緒に帰ろうぜ」
少しは不安を振り払えれば、と努めて軽い調子で答えて、一緒に学校を後にする。
帰りの道程を半分ほど歩いたが、俺たちはこれまでほとんど何も話していなかった。
絶対に今日言おう、と心に決めたのだが、如何せんそのきっかけがない。
まずは軽く世間話でジャブを打って……と思って話しかけはするのだが、涼音の反応が鈍すぎるのだ。朝はこんな感じじゃなかったのだが、一体何かあったのだろうか。
違和感を覚えたまま歩き続けたが、もう一〇分もしないうちに家に着いてしまう。そろそろ言わなければならない、と決心して口を開く。
「なぁ――」「ねぇ――」
思わずお互い顔を見合す。
「な、なに?」
「涼音こそ、なんだよ?」
「いいよ、私のは大したことじゃないから! 凌太から言って!」
「いやいや、ずっと何か考えてたじゃん。言いたい事あんだろ。言えよ」
自分のことは棚にあげて促すと、「それじゃあ……」と涼音が意を決した様子で話し出した。
「もしかして里香ちゃんと……付き合ってるの?」
「――は?」
なんだこいつ、何言ってんだ。
思わぬ問いかけに頭が真っ白になりながらも否定する。
「いやいや、そんなわけねえじゃん」
「嘘! だって昼休み屋上で抱き合ってたでしょ!」
「あ、あれは里香が転びそうになったのを支えただけで……」
「じゃあなんでわざわざ二人だけで屋上に行ったの?!」
「それは……」
何と言っていいかわからず言い淀むと、涼音が悲しそうな表情をした。
「やっぱりね……。それなら早く言ってよ……。そしたら昨日告白なんてしなかったのに……二人のこと、ちゃんと応援したのに……」
「違う、そうじゃない」
否定したいだけなのにどうにも言い訳くさくなる。
俯いた涼音の目からぽろぽろと涙が落ちた。拳は硬く握りしめられ、真っ白なんだか真っ赤なんだかよくわからない色になっていた。
「だから違うんだって! 話聞いてくれよ!」
「二人のこと大事な友達だと思ってたのに……。もう知らない! 話しかけないで!」
「待っ――」
伸ばした手は空を切り、涼音は走り去ってしまった。
俺は追いかけることも出来ずに、その場に佇んだ。
「どうすんだよ、これ……」
思わず仰ぎ見た空は俺の心境を反映したかのような夕焼けに青藍が混じった不穏当なものだった。
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