第178話 真宵の桜色配信⑧-桜色セツナの叶えられた願い-
一年前が遠い過去に思える。
笑顔で過去を振り返ることができる。
それは今が幸せな証。
桜色セツナ:「一年前の私はアリスさんを救いたかった。……少し違いますね。絵本のことは忘れていた。しかし私はずっと心の中で魔法使いの女の子を救いたかった。透明な存在が本当に消えてしまうことを恐れていた。だから配信でアリスさんのことを語った。アリスさんの名前を連呼した。多くの人にアリスさんのことを覚えてもらおう。そうすればアリスさんは透明にならない。そんな願いをこめて」
真宵アリス:「だから私のことをよく話してたんだ」
桜色セツナ:「アリスさんを救うことができれば私の心も救われる。幼い頃の願いが叶う。魔法使いの女の子が救われる。たぶん無自覚にそんなことを考えていたのだと思います。そういう意味では私のアリスさんに対する執着は不純ですね。自分勝手で利己的です。幻滅しましたか?」
真宵アリス:「ううん聞けてよかった。どうしてセツにゃんはこんなに私を慕ってくれるんだろう? 疑問には思っていたから。理由がはっきりしてよかった。それに私を救ってくれようとしたんだから幻滅するはずがないよ。やっぱりセツにゃんは純粋で優しいね」
桜色セツナ:「……よかったです。アリスさんはこんなことで人を嫌わない。そう確信していましたけど。もちろん今は魔法使いの女の子とアリスさんを重ねていませんよ。アリスさんが最推しです。至高の存在です。初恋だったかもしれない魔法使いの女の子超えです!」
真宵アリス:「えっ超えちゃったの!? それに初恋って?」
桜色セツナ:「アリスさんラブです! だってアリスさんは魔法も使わずに自分で自分を救いましたから。アリスさんの収益化配信のおかげで、私の中の魔法使いの女の子が救われた。私の心も救われたんです。全てアリスさんおかげです!」
真宵アリス:「ラブ……またセツにゃんは。まあいいや。私の収益化配信は色々あったけど、女の子を救うような内容だったかな?」
桜色セツナ:「アリスさんの座右の銘。私は大好きですよ」
真宵アリスの座右の銘を桜色セツナが一音一音を大切に諳んじる。
『The Show Must Go On』
桜色セツナ:「あなたが望んでくださるならば私はショーを続けましょう」
真宵アリス:「……言ったね」
桜色セツナ:「続く言葉も素敵でした」
真宵アリス:「そうだったかな? ずいぶん情けないことを言っていたと思うけど」
桜色セツナ:「他の人から聞けば消極的に聞こえるかもしれませんね。でもアリスさんの想いがこもっていました。透明で儚い。けれどこのまま消えたくない。強い想いが伝わってきたんです。こう言っていましたよね」
『配信していて楽しかった。目的を果たしても辞めたくないと思った。これからなにがしたいのかもわかりません。ただ続けたい』
桜色セツナ:「この言葉を聞いて、私は安心したんです。アリスさんはもう大丈夫だ。消えたくないと。ここにいたいと。配信を続けたいと。ちゃんと自分の意志を言葉にできる。周りに伝えられる人だとわかったから。一人きりで泣き叫んで魔法を使う人ではない。そう実感できた。だから私は救われたんです」
真宵アリス:「……うん。そうだね。私は多くの人に話を聞いてもらえて嬉しかった。私の言葉がちゃんと届くことに感激した。存在を認められて消えたくない。続けたいと願った」
桜色セツナ:「結局、私はなにもできなかった。役立たずですね。アリスさんは自力で救われた。魔法を使わなくても救われた。魔法ではなく言葉だけで私はここにいると証明した。言葉だけど大勢の人の心を動かした。アリスさんは私がずっと聞きたかった言葉を口にしてくれたんです。アリスさんはもうショーの幕を降ろせませんよ? だって私がずっと望み続けますから。私がアリスさんを推し続けますから」
真宵アリス:「……もうショーの幕は降ろせないんだ。なら私もずっと全力で走り続けないとね。望んでくださるならば、みたいな弱気な言葉じゃダメ。望んでもらえるように、魅力的なショーの幕を上げるの。もちろんセツにゃんも協力してくれるよね?」
桜色セツナ:「はい。もちろん! 私だけではなく必ずリズ姉やミサキさん三期生全員で同じステージに立ちます! アニバーサリー祭で先輩方と一緒に虹色ボイス全員で素敵な舞台を作り上げるんです! もう次の一年に向けての走り出してますよ!」
:幼少期の願いか
:あかん……ちょっと待って……
:セツにゃんのイメージが変わる
:あの連呼にそんな意味があったのか
:ある意味正しい推し語りかもな
:透明にならないでほしいか
:他人のためではなく自分のためと言い切れる方が純粋だと思う
:初恋超え
:きたーーーーー!
:キマシ
:これはもう愛の告白だよな
:軽い感じで言っているけど純粋すぎて尊い
:てぇてぇ
:……語彙力なくす
:そういえばアリスは自力救済だったな
:そして魔法使いの女の子も救われたか
:The Show Must Go On
:消極的だけどアリスらしいよな
:望んでくださるならばか……今にして思うとまだ利他的なんだよな
:でもアリスが配信を楽しんでいて続けたいと思ってくれているのはわかる
:誰にも伝わらないように一人きりで泣いて消えていかれるのは悲しいから
:アリスはもう消えることはできないな……俺も応援し続ける
:俺も
:だな
:アリス推し!
:今日はアリスからポジティブな発言が飛び出すよな
:真宵アリスも桜色セツナも一年で大きく成長したんだな
:望んでもらえるような魅力的なショー
:今もだろ
:皆と一緒にか
:つい先日終わったばかりなのにもう次回が楽しみなんだが
:次のアニバーサリー祭はどれだけ大暴れするんだ?
:なんか泣いているのにニヤニヤしてきた
真宵アリス:「でもセツにゃんに一つだけ訂正」
桜色セツナ:「なにか間違いましたか?」
真宵アリス:「セツにゃんはさっき『私には何もできなかった』と言ったけど違うからね。セツにゃんがいたから。リズ姉やミサキさんがいたから。私は収益化配信のときに続けたいと思えたの。一緒に頑張ってくれる仲間の存在は大きいよ」
桜色セツナ:「……アリスさん」
真宵アリス:「それにセツにゃんは幼い頃の願いを叶えていることに気づいている? 相手は私だけど」
桜色セツナ:「私が幼い頃の願いを叶えている?」
真宵アリス:「セツにゃんは願ったよね。『魔法を使ってこの女の子に自分を取り戻させる』って」
桜色セツナ:「そうです。大事な願いだった。長い間、忘れてしまっていましたけど」
真宵アリス:「三期生全員で行ったグランピング配信を思い出して」
桜色セツナ:「グランピング配信ですか?」
真宵アリス:「あの日セツにゃんはスランプ中に私を助けてくれた。私は私でいい。そう言って私に自分を取り戻させてくれた。今日みたいに私の座右の銘を口にして、初心を思い出させてくれた。それじゃあ足りないかな?」
桜色セツナ:「……あ」
真宵アリス:「私は誰にも忘れられてないし、セツにゃんの記憶も失われてない。でもセツにゃんの言葉はちゃんと私の心に響いた。私が自分を見失わなかったのはセツにゃんのおかげだよ」
桜色セツナ:「そっか……私は子供の頃の夢も叶って……忘れ……られな……」
真宵アリス:「どうしたのセツにゃん!?」
桜色セツナ:「う……ぐず……アリスさん……ずるいです……ずっ」
真宵アリス:「えっ? えっ? タオルいる? 収録止めた方がいい?」
桜色セツナ:「ありずさんずっ……胸を貸しでくだざい」
真宵アリス:「りょ、了解!」
少しの無言の時間が続いたあとに綺麗な歌声が流れた。
真宵アリスの歌声だ。
想定外の事態を誤魔化すように。
桜色セツナの泣き声を漏らさないように。
穏やかな子守歌が配信に響きわたる。
:訂正?
:仲間の存在は大きいよな
:セツにゃんがなにもしてないはずがない
:よくぞ否定してくれた
:さすがアリス
:幼い頃の夢がかなっている?
:グランピング配信?
:そんなシーンあったっけ?
:アリスが個人配信のときに言っていたな
:スランプ中の話か
:自分らしさを迷子にしていましたとは言っていたな
:……おい
:…………これ以上泣かしにくるなよ
:………………こういうときのアリスは無自覚だから
:セツにゃんが泣いた
:そりゃあ泣くわ
:幼い頃の夢が叶ってたんだ
:セツにゃんおめでとう
:アリス焦ってる
:やっぱこいつ無自覚たらしか
:音なくなった
:……ん?
:歌声が聞こえる
:綺麗だな
:子守歌なのになんか涙が出てくるんだけど
:お願いだから今はしっとりとした歌を聞かせないで
:また涙腺が決壊した
:待って……ホントに待って……意図してないのわかるけど全方位に無自覚で泣かせにこないで
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真宵アリスと桜色セツナのオフコラボ動画配信。
二人の始まりと関係性が色濃く出た内容として多くのリスナーの心に刻まれ、語り継がれていくことになる。
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
この作品は毎週金土18時に1話ずつ、週2話更新を目指しています。
来週は3/17(金)一話更新 3/18(土)一話更新となります。
桜色セツナとのオフコラボ回完結です。
冒頭、玄関前で遺書を読み上げてシュレッダーをかけていたところからは想定できない内容だったのではないでしょうか?
来週は閑話と言いますか、真宵アリスと桜色セツナのオフコラボ回のこぼれ話を一つ入れます。
今回の内容は焦点をわかりやすくするために桜色セツナの話に絞りました。
そのため内容から漏れてしまったねこ姉とマネージャーにまつわる話です。
この二人の存在が真宵アリスにどう影響を与えたのか。
ただジェラート食べてしまったダメ人間ではないのですよ。
一度下げてから評価を上げる。そんなエピソードを用意していたのですが、話が桜色セツナからブレたので削除した内容です。
その次は最終章の最終ステージの幕開け……前のリアル回。
真宵アリスのぶち切れ回です。
虹色ボイス事務所で一番怒らせてはいけないのは誰だったのか世界が知ることになる。
以上、応援や評価★お待ちしてます。
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