第162話 リズ姉とコラボ回④-アニモリと紅カレンの零した言葉-
紅カレンの呑んだくれイップス克服のために集結した二期生の三人。
けれど全員心身ともボロボロだった。
頭が働かない。そもそも呑んだくれイップスの意味が分からない。
悩みに悩んだすえに出した結論とは……。
真宵アリス:「とりあえず私を捕獲しようとしたらしいです。そのせいで私は事務所内で虫取り網を持った先輩方から逃げることに」
リズ姉:「お酒に関することだからアリスちゃんに頼るのは間違いないけど」
真宵アリス:「不本意です!」
――ぺちぺち。
リズ姉:「それにしてもなぜ虫取り網?」
真宵アリス:「キツネ先輩が前日深夜までアニモリをやっていたせいですね。私も配信で見てました」
リズ姉:「アニモリ? それはアニマルの森のことかな? キツネ先輩はレビュー書くから数重視というか、日常系のやり込みゲームはあまりしないイメージだったけど」
真宵アリス:「アニマルの森とは別ですね。最近発売されたばかりの新作ゲームの略称。アニモリはアニマルの森のパロディ? ライク? オマージュ? 出発点は確かにアニマルの森だったはずなのに、完全に異形となり果てたなにか。キツネ先輩に配信依頼があったみたいで」
リズ姉:「……アリスちゃんの口ぶりからだと、そのゲームの内容が非常に不安になるんだけど」
真宵アリス:「正式名称は『熱くなれアニキの杜』です。舞台は森や島ではなくスポーツジム。集めるのは個性豊かな動物たちではなくボディビルダー。まさに怪作でした」
リズ姉:「かの大企業に怒られて販売停止になってしまえ!」
真宵アリス:「開発元はリズ姉の親族の会社です」
リズ姉:「なに販売しているの叔母さん!?」
真宵アリス:「『杜』の漢字が木と土ではなく、さかりと書いて『盛り』だったら、依頼を断っていたとキツネ先輩も配信で言っていました」
リズ姉:「……十八禁ではないのね」
真宵アリス:「筋肉という名の肌色成分多めなので十五歳指定ですけど、内容はスポーツジム運営シミュレーターです」
:紅カレンを救うために集結したボロボロな三人組
:ダメな気しかしない
:とりあえずで捕獲対象になるアリスwww
:酒関連だから間違いじゃない
:バッカスだからな
:未成年(笑)
:とうとうアニモリキターッ
:押す!
:押す!
:雄!
・
・
・
:なんか急にコメント欄が漢臭くなったwww
:翠仙キツネの配信で血迷った結果アニモリを購入した中毒者だな
:面白いの?
:買え! マジ面白いから
:名前に反してゲーム性は良くてボリュームあってお手頃価格でなにより配信映えしてたぞ
:バズってる
:本当に売れているから世界は恐ろしい
:買って損のない面白さは保証するがパッケージの時点でネタに走っているから購入に勇気がいる
:通販サイトでプロテインとシェイカーとセットで売られるゲーム
:タンパク質がついてお得だな
:リズ姉の叔母さんの会社なのか
:エロゲーだけじゃ生きていけないご時世だからコンシューマーでゲームを出したんだよな
:第一弾でこれほど話題になるなら今後も期待大
真宵アリス:「ジムの設備を強化するためにはお金がいる。お金を稼ぐにはジム会員の月謝がいる。ジム会員を集めるには名声がいる。名声を高めるためにはボディビル大会に優勝する必要がある。優勝するためにはジムの設備を強化しなければいけない。基本はこのサイクルのゲームです」
リズ姉:「必要な要素全てが連動して作業サイクルを形成する。運営系シミュレーションゲームの基本よね」
真宵アリス:「ボディビル大会もカテゴリ別で、この大会はレッグのポイントが高いなど特色もあります。優勝を狙うなら大会の傾向をリサーチして、設備と指導方針で育てる筋肉を選ばなくてはいけない。難易度は高めの本格シミュレーションです」
リズ姉:「……叔母さん箱庭系のゲーム得意だったから」
真宵アリス:「ジム内に落ちているプロマイドの切れ端を発掘。その種類の全ての切れ端を集めると、レジェンドボディビルダーのポスターをジム内に飾れるようになる。飾ると特定の筋肉のトレーニング効率やジム会員のやる気がアップ。こうしたコレクションなどのやり込み要素もあります」
リズ姉:「…………叔母さんがコレクター気質なのよ」
真宵アリス:「ボディビル大会で発生するライバルとの一騎打ち。勝敗を左右するのは鍛え上げた筋肉だけではない。プレーヤーのかけ声がまさかの展開を生むこともある。このゲームの一番盛り上がるところでした。かけ声はジム会員との交流で集めることができます。常日頃から積極的に交流を持って、イベントをこなさなくては、必殺のかけ声に出会えません。キツネ先輩も思わず『リズ姉の身内びいきなしで良ゲー』と誉めてましたよ」
リズ姉:「ありがとう。……でいいのかしら?」
真宵アリス:「『タイトルもビジュアルもテキストも世界観も完全に色物なのに、シミュレーションゲームとしての完成度は高いとか……』と頭を抱えてもいましたけど。冒頭でコントローラーを投げようとしていたのに、結局エンディングまでクリアしてましたから気に入ったのでしょう。ゲーム開始すると、いきなり上半身裸でベンチプレスしている肉達磨なオーナーが現れるんです。別名マッチョたぬき」
リズ姉:「叔母さんが申し訳ありませんでした!」
真宵アリス:「別に謝らなくても。迷シーンが多くて配信映えするゲームでしたよ。キツネ先輩の配信動画もバズってます。トレンド入りする迷言が飛び出るほどです」
リズ姉:「……バズってトレンド入りは不安になるわね。ちなみになんて発言?」
真宵アリス:「『社長の息子が人身売買されとる。これは買わな』という発言です」
リズ姉:「人身売買? え……待って? ちょっと待って社長の息子って!?」
真宵アリス:「名前は透君で男の娘。有料のダウンロードコンテンツとして売られていたお助けキャラです」
リズ姉:「透君!? 理解が追いつかないから本当に待って!」
真宵アリス:「このゲームで唯一可愛らしい見た目のキャラです。『筋肉つけたくない』『プロテイン怖い』って言いながらジム内を逃げ回るだけなんですけど、ジム会員のやる気が爆上げされます。かけ声の『透くんに叫ばせる』は強いです!」
リズ姉:「叔母さぁーーーーーん! なに自分の息子切り売りしてるの!?」
真宵アリス:「開発時期的に例のボーイズなゲームよりも先にアニモリの開発が始まってます。たぶん本編に盛り込めなかったので、お助けキャラとして導入されたんですね。リズ姉の従弟さんゲームに登場するの二作目です」
リズ姉:「……冷静な分析ありがとう。まさか従弟の叔母さんのブランドのレギュラーキャラ化疑惑に戦慄していたわ」
真宵アリス:「話を戻して虫取り網の理由ですが、アニモリのジム会員スカウトが少し特殊なんです。ジム会員を引き連れて街に出て、虫取り網で拉致。そこから連れてきたジム会員による説得。ジム会員の名声値が低いと断られてしまいます。たぶんキツネ先輩も脳にかなり負担がかかっていて、正気ではなかったんでしょうね。まさかアニモリのやり方で私を仲間にしようとするなんて」
リズ姉:「それで虫取り網で捕獲か。なんか色々とごめんなさい。アリスちゃんにもキツネ先輩にも迷惑をかけて。今度じっくり叔母さんと話すから」
:普通に面白そうなのが草
:丁寧にユーザーが望むシミュレーションゲームの基本を押さえているからな
:説明だけで狂気があふれ出る
:ゲーム性の高いバカゲーはニッチな人気あるから
:有名タイトル以外だとこれぐらいぶっ飛んでないと売れない
:今までにないタイプのゲームを作っているだけ偉い
:キャラクターもテキストも演出もぶっ飛んでいてマジで配信映えしてたからな
:見たい人はキツネのチャンネルに行けばいい
:あと筋トレやダイエットやスポーツジムやボディービルの知識がプロ監修のガチだから勉強になる
:一緒にトレーニングモードでフィットネスゲームとしても役立つからな
:かけ声シーン見てみたいw
:なぜ今まで本格的なボディービルシミュレーションゲームがなかったのか
:あってたまるか!
:息子を人身売買www
:ダウンロードコンテンツで切り売りされる男の娘w
:透君買った
:唯一の癒し要素だからしゃーないw
:だが男だ!
:男だからいいんだろ
:こんな可愛い子が女の子のはずがない
:親の命令でジムに通わされている死んだ目の男の娘とかそのまますぎて草
:だからアリスは虫取り網で襲われたのか
:キツネも頭の中がアニモリに侵食されていたんだな
:虫取り網で拉致からの恐喝とか完全に犯罪だよな
:むきむき詐欺
真宵アリス:「別にいいんですけどね。私もつい先輩方の変なノリに付き合って、はしゃいじゃいましたし。同罪です」
リズ姉:「はしゃいだ?」
真宵アリス:「ついにドッキリが仕掛けられたのか! ……と思い込んで、カメラを探しながら事務所内を駆け回ったんです」
リズ姉:「アリスちゃんまたドッキリを疑ったの!?」
真宵アリス:「だって急に虫取り網を持った先輩方が襲い掛かってくるんですよ? ヴァニラ先輩は二メートル級のぬいぐるみを召喚するし、師匠は大仏だし、キツネ先輩は土下座だし」
リズ姉:「なんで事務所内でロールプレイングゲームのボス三連戦に遭遇しているんだろうね……」
真宵アリス:「今度こそ絶対にドッキリに違いない! ちゃんといいリアクションを取らなければ! とか色々考えますよね? カメラ探しますよね?」
リズ姉:「アリスちゃんはアリスちゃんでなぜドッキリを待ち望んでいるのかしら? 未成年にはしないと事務所からはっきり言われているのに。……前回に引き続きドッキリと言われた方が納得できる混沌だけど」
真宵アリス:「土下座のあと正気に戻ったキツネ先輩から、カレン先輩の状況を聞きました。『それを最初に説明して』とか『今回もドッキリじゃなかったの!?』とか色々と思うところありましたけど」
リズ姉:「結局、二期生の先輩方のために呑み会用の料理を作ったんだよね。偉い偉い」
真宵アリス:「大したメニューは作っていませんよ。塩だれのやみつきキャベツ。いぶりがっこ。キュウリの浅漬け。イカの塩辛。ザンギ。フライドポテト。シーザーサラダ」
リズ姉:「あっ! そのメニュー」
真宵アリス:「どて焼き。明石焼。お寿司。パンケーキ。海鮮茶漬け。さすがにカレーは作ってません」
リズ姉:「第一回目の隠れ家居酒屋アリスのメニューだよね。今回の先輩方の配信だとメニューの詳細までわからなかったけど」
真宵アリス:「今回はそういうリクエストだったので」
リズ姉:「十分に大したメニューだと思うわよ。実際アリスちゃんの料理のおかげで、カレン先輩はイップス解消できたわけだし」
真宵アリス:「うーん……それはどうでしょう。たぶん私が手伝わなくても二期生の先輩方が集結しただけで解決していた気がします」
リズ姉:「どういうこと?」
真宵アリス:「私の料理を食べて、お酒を呑んだカレン先輩の第一声が『ああ……楽しいな』だったんです」
リズ姉:「二期生の先輩方の緊急呑み会配信は楽しそうだったね」
真宵アリス:「『美味しい』とか味の感想ではなく『楽しい』だった。つまりカレン先輩がお酒に求めていたのは楽しさ。だから私の料理はイップス解消にあまり関係ない。最初から二期生全員が集まって呑み会を始めたら、どんなおつまみセットでもイップスは解消できていたと思うんです」
リズ姉:「なるほど。最初の一杯でつい口から零れた言葉が『楽しい』……そっか」
真宵アリス:「カレン先輩がお酒を呑み始めた理由は、声優オーディションに落ちたヤケ酒だと配信で言っていました」
リズ姉:「だったね」
真宵アリス:「お酒キャラだったから虹色ボイス事務所にスカウトされた。そこから配信で受けるようにお酒と本気で向き合って勉強するようになった」
リズ姉:「カレン先輩はあれで努力家なのよね。配信でお酒の知識がないと恥ずかしいから、と銘柄や産地や水源の名前を必死で覚えた。配信で使えるかもしれないから利き酒マスターした。今は本人の趣味もあるだろうけど、呑み屋開拓だって最初は勉強のためだった」
真宵アリス:「そして最近は二期生四人で集まって頻繁に呑み会するようになった。その時々でカレン先輩がお酒に求めていたモノが違ったと思うんです」
リズ姉:「ストレス発散。調子をよくするためのカンフル剤。キャラクター確立のための教材。そして破綻しかけていた関係性を結び直した二期生の絆。仲間との楽しみ」
真宵アリス:「断酒して身体がリセットされた。改めて呑もうとしたとき、一人だったからお酒との向き合い方がわからなくなった。他の二期生のメンバーも色々お疲れで、呑みには誘えなかったのもありますね。カレン先輩の脳はお酒を仲間と楽しむモノだと認識している。それなのにカレン先輩は『久しぶりだ。さぞ美味しいはず』とお酒を味わうつもりで一人で呑んだ」
リズ姉:「皆で楽しんだお酒の味の想い出に、一人酒が負けちゃったか」
真宵アリス:「もしかすると一人呑みだったから、逃避のために呑んだ苦いヤケ酒を思い出したのかもしれません。それで身体がお酒を拒絶した。真相はカレン先輩しかわかりません。解き明かすのは無粋です。今は楽しそうにお酒を呑んでいるんですから」
リズ姉:「だね。お酒は楽しくて美味しければそれでいいの! それ以外の答えはいらない。さすが三期生のバッカスのアリスちゃん。お酒と呑んだくれに対する造詣が深い!」
真宵アリス:「不本意です!」
――ぺちぺち。
リズ姉:「それじゃあ今日はどんどん振り返っていこうね。次はアニバーサリー祭の裏側とか」
:またドッキリを疑ったのかwww
:アリスのエンタメ脳
:なぜドッキリと言われた方が納得できるシチュエーションに遭遇するw
:二期生の奇行が酷い
:二期生の呑み会配信で見たな
:隠れ家居酒屋アリスのメニューを再現していたのか
:美味そう
:ザンギ食いたい
:楽しいそうだったもんな
:ああ
:なるほどね
:どんな気持ちで呑むかどんなシチュエーションで呑むか
:最初は逃避のための酒だったか
:それがキャラクター確立のために
:実はカレンって努力家なんだな
:お酒の造詣が深いと思っていたけど裏ではちゃんと勉強していたのか
:酒好きは本当だろうけどやっぱりただ好きなだけでは配信のネタは尽きるからな
:それがいつの間にか仲間との絆の象徴か
:二期生の呑み会配信は本当に楽しそうだもんな
:久しぶりに呑んだら苦い想い出のお酒を思い出しちゃった可能性はあるな
:さすが三期生のバッカス!
:やっぱり酒のことならアリスだな
:実績が違う
:未成年なのにwww
・
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リズ姉:「あのときセツナちゃんがアリスちゃんに……あっ! もう配信終了時間」
真宵アリス:「いつの間にか終わりですね」
リズ姉:「案外想い出話って尽きないんだね。たった一年のことなのに」
真宵アリス:「この一年は濃厚でしたから。私の引きこもり一年間を語るのに五分もかかりません」
リズ姉:「五分って……まあいいや。最後は次の一年の目標を込めて、お別れの挨拶しようね」
真宵アリス:「次の一年の目標!? 聞いてませんよ!」
リズ姉:「目指せ皆の頼れるお姉さん! まだまだ頼りないかもしれませんが、そこは大目に見てね。虹色ボイス三期生のリズ姉と」
真宵アリス:「私が私であるために! 世界に反逆を目論む暴走型駄メイドロボこと虹色ボイス三期生の真宵アリスの二人がお送りしました」
アリス・リズ姉:「「皆様またお会いしましょうね」」
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
そんなわけ第一回目の三期生との二人だけコラボ回終了です。
リズ姉の成長と二期生の一年前のリベンジ回。
次話は不穏なリアル回。
来週は七海ミサキとのコラボ回の始まりです。
真宵アリスの成長した姿をお楽しみください。
応援や評価★お待ちしてます。
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