第8話 俺の直情VS会社組織の企て
今、起きた。午前1時20分か。
寝過ぎたな。仕方がない…
台所の片隅の椅子。換気扇の下。
ここが俺の書斎だ。
煙草に火を付け、換気扇を回す。
ゴォー、ゴォーっと、換気扇の不気味な音が俺の肺から吐き出した紫煙を吸い込み始めた。
まるで俺の心の深淵から噴き出す「怒り」の声を吸い込むように。
今日は古傷の右膝が痛む。
身体はボロ雑巾だ。
コ○ナウィルスにやられ、4ヶ月寝たきりだった。
腎臓の静脈に血栓が出来やがって、血圧はとんでもない数値を表示する。
そして、コ○ナ鬱だ。
うつ病になったことがあるかい?
俺は2回目だよ。
怖いよ、うつ病は。
何が怖いかって?
先が怖いんだよ!
この先の出来事、何が待ってるか、それだけが怖いんだよ!
死など怖くない。
何故なら死が来る事は決まっているからだ。
必ず来るものは怖くないんだ。
見えない、姿の見えない何かが怖いのさ。
どんな風に怖いのかって?
兎に角、心臓の動悸が治らない。ドックン、ドックンと心臓の音がドラムの様に音を立てるのさ。
手首の脈も騒ぎ出す。血管が青く表出し、青い血が身体中を支配する。
全てが赤から青に変わり、そして、それが漆黒の闇となって行くのさ。
まぁ、一回、うつ病を患ってみれば分かるさ。
寝たきりだった俺は、復帰後、転倒した。
何も前触れもなく、転倒したんだ。
脚が折れるように、急に地面に叩きつけられた。
側頭部をコンクリートに強打し、意識が戻った時は病院のベットの上だった。
また、寝たきりに戻されたよ。
原因は、コ○ナによる4ヶ月の寝たきりにより、下半身、特に大腿部の筋肉量が通常の三分の一に減少し、体重を支えることができず、右大腿部筋肉断絶と右膝靱帯の断絶により地面に側頭部からのめり込むよう転倒したのさ。
この怪我も会社を辞めた原因の一つさ。
あれから一年経つが、未だに右膝が疼くように痛む。
話が逸れたな…
怒りのアーカイブ小屋まで話したところだったな。
そう、大学時代の暗黒の4年間に作り上げた「怒り」のアーカイブ!
20代はそれを封印して置いたが、やはり、30代になり、その「怒り」の出番が頻繁になって行ったよ…
会社組織との戦い。
やはり、社会の箱はどれも同じ構造で出来てやがる。
学校生活と同じように、人間組織である以上、会社組織も類に漏れず同じだった。
いや、学校生活よりタチが悪かった。
会社生活は人生の大半を占めるからな。
ここから30年間、俺は会社組織と戦い続けた。
俺の直情が通ずる限り、腐り切った会社組織、社会と戦い続けたんだ。
30歳になり、俺はある程度の会社の担い手となった。昇進、昇進を繰り返し、いつの間にか幹部社員候補となった。
すると、おい!、今まで俺に対して牙を向けて来なかった輩どもが、嘘のように、うじゃうじゃ、寄ってたかって姿を現し始めたのさ。
俺の心は大喜びさ。獲物に飢えていた虎が涎を垂らしながら舌なめずりするように獲物に眼光を照準したのさ。
まず、姿を現したのが組合野郎だった。
俺は他の新入社員と同様に入社時、一応、労働組合に入ったが、学生の頃から左寄りの考えは大嫌いだった。
勘違いするなよ。
俺の本性はレジスタンスであったが、あくまでも孤高の狼だった。群れてチャチャ入れるのは性分的にも反吐が出る。
だから、根本的に組合活動は大っ嫌いだった。
バブル景気で会社の業績も鰻登りの状態、組合幹部もベースアップにやきになっていた時代だ。
会社幹部との徹夜交渉、ストライキなど、俺ら若手の社員も駆り出された。
ほんま、アホらしかったわ。
出来高レースの組合交渉ほど無意味なものがあるか!
妥協線の折り合いは既に人事部と組合幹部で決着済みだ。
交渉参加者、全員がシナリオ通りの追及を会社側に発言して行く、正に猿芝居さ。
組合幹部はこのパフォーマンスに酔いしれ、会社との折り合いを付けたことにより、裏では会社から優遇されるといった腐った構造さ!
俺か?
寝ていたよ、交渉中は。
俺だけではないか、何も発言しなかった参加者は。
二、三歳上の組合役員が俺に注意をしてきた。
「何でも良いから発言してくれなくては困る」とね。
アホらしい。
交渉要員数を確保できただけ俺に感謝しろよ!と俺は思ったが、奴にはこう言った。
「仕事は実力主義です。お手手繋いで横断歩道渡るのは俺の心情に反します。仕事をサボるやつまでの分、俺は応援するつもりはありません。会社の言い分の方に一理あると思い、発言はしませんでした。」と
その組合かぶれは、俺に何も言えず、下を向いていた。
だが、俺の言ったことそのまま、組合幹部にチクリやがった。
組合役員の構造は、どの大手会社も同じく、高校出の現場労働者が大半である。そのため、閉鎖的な団結力を構築していた。
大学出に妬みを抱いていた。
ある組合かぶれの奴が俺が挨拶をしないと注意してきた。
俺は敢えて奴が俺を妬んでいるのが前々から感じていた。俺のことに悪意を抱いている奴にまで頭を下げるほど俺の心は広くなかった。
俺の悪い心は久々、喜んだ。
「鴨がネギを背負ってきた」と大喜びだ。
仕事で俺に勝てない分、組合精神や上下関係の尊さを仕切りに熱弁してきた。
ウザい!それに尽きた。
俺は奴にこう言った。
「俺に2度と忠告をするな!これは警告だ。俺は貴様ら労働組合が反吐が出るほど嫌いなんだよ。人に頼るな。仲間に頼るな。1人で俺と戦ってみろ!」とね。
この高校出の組合かぶれは、何も言えず、俺に自販機まで首を押さえられ身動きできなくされ、必死に頷いた。
腐れどもが!
俺の直情に意見を簡単に申すな!
この組合との決裂より、俺は会社から不本意にも認められて、人事部に抜擢されてしまった。
ここから、会社の腹黒さが如実に露呈されてくるのを俺は目の当たりにすることになる。
組織の箱はどれも同じで、厚底に盛ってるだけだ。
俺の直情と会社組織の保身に満ちた企てとの戦いが幕を切って落とされた…
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