色づく世界は青く淡い
モレリア
短編 朝の青い空気と空
ピピピピ、ピピピピ
アラームが鳴り、体を起こす。
3時30分
我ながら早起きすぎる。
なせこんなに早く起きたのかというと5時から朝練がある。
まぁこの理由は早く起きる理由には十分だし、あながち普通である。
しかし、普通ではないことがある。
それは今の状況。
そう、今は修学旅行の真っ最中なのである。
うちの顧問いわく
「修学旅行の3泊4日。他の学校は練習しないだろう。だからこそ差がつく。だから朝練と夜練を行う」
だそうだ。
初日の昨日は夕飯後ホテル周辺の散策の時間があったのだが我々サッカー部の9人は当然その時間はホテルの廊下で筋トレである。
散策から帰ってきた面々は奇怪な眼差しを俺たちに向ける。
まるで「修学旅行にまで来てなにしてんの……?」と言いたいばかりに
いや、そんなこと俺たちが1番思ってるわ!!
こっちはお金を払ってまで修学旅行に来てるというのになんで練習しなきゃならないのだろうか……
それもボールが使えるならまだいい。
ただただ走り、ただただ筋トレ。それだけ。
考えるほどに疑問が芽生える。
考えるのやめよう……
はぁぁと深くため息をついてルームメイトを起こさないように気を付ける。
夜更かしをして恋バナ。
なんていう定番イベントは当然できない。
22時には眼を閉じた。
スーツケースから練習着を取り出して着替る。
11月の京都の朝は冷える。
自分の手に息を吹きかけながら小走りでエントランスへ。
まだ誰も来ていない。
そりゃそうか。
開始は5時。
現在時刻は3時50分。
心配性だから早くアラームをかけすぎた。
でも、遅れるよりはマシだからな。
背に腹は変えられないということだ。
まだ薄暗いエントランスでストレッチをして他のメンバーを待つ。
固まってまだ寝ぼけている筋肉を起こしていく。
この緩やかな痛みが心地よい。
10分くらいたっただろうか。
階段のほうから足音が聞こえる。
「え、まさか先客がいるとは……」
足音の正体は女バスの副部長の
黒髪ボブで身長は150㎝。
バスケをやるには小柄だが、その実とてもすばっしこい。
現在同じクラスでとてもフレンドリーなためよく話す。
「おはよう、一千華」
手を挙げて、うっすと応えてくれる。
「いやー早いねー」
「それはお互い様」
「たしかに」
一千華も隣でストレッチを始める。
「てか、
「んーまぁ毎日風呂上りにストレッチしてるからね」
足を130度くらいひらいて前に倒れながら答える。
中2からずっとストレッチは欠かさず行っているからか筋肉系のけがはない。
それに股関節の可動域が広がったことによってキックの飛距離・精度も向上した。
誰でも実践できるからストレッチは個人的におすすめ。
とそんなことを考えて横を見てみると一千華の姿がない。
「えいっ!」
一千華は俺の背中側に回り一気に体重をかけてくる。
俺の上半身が地面にぺたりとつく。
「おぉーーすごい!痛くないの?」
「痛くないね。むしろ気持ちいいよ」
決して強がっているわけではない。
他人に押してもらえるとより力がかかるためストレッチがはかどる。
「私もお風呂上りにストレッチしようかな~」
お風呂。お風呂か。
お風呂という言葉をなぜか異様に意識してしまう。
「あ~今私がお風呂入ってるところ想像したでしょ」
ニヤニヤとその顔を近づける。
「してないわっ!お風呂上りの一千華はどんな感じかな~って考えただけ」
「いや、そっちかい!?」
お風呂上がりの髪が濡れている女の子いいですよねー。
「でも毎日ストレッチしたら身長伸びるかもよ?」
「伸びるかなーって身長いじるな!」
頭にチョップをくらう。
こういうやり取りができるくらいには仲がいい。
「よく女バスは朝練に参加しようと思ったね」
朝練に関してはサッカー部は強制だがそれ以外の部活の参加は自由。
自分達から修学旅行の朝練に参加したがる物好きはいない。
そう思っていたが目の前にいた。
「だって楽しいそうじゃん」
とびきりの笑顔で応える。
ま、まぶしい……
「全然楽しくないよ……」
「あははは、サッカー部は夜練もあるしね」
その元気が羨ましい。
一千華は教室でも明るく元気でいつも誰かしらと話している。
それはただ本人が楽しいからそうしていると俺は思ってた。
サッカー部の練習が午前中で終わったある日曜日。
体育館では女バスが練習試合をしていた。
なんとなく気になった俺は体育館の外から少し覗いていくことにした。
俺が見たとき一千華はベンチ。
ユニフォーム姿で汗をかいていたから交代した直後なのだろう。
試合が進み、相手がタイムアウトをとり、ブザーが鳴る。
一千華はそれがまるでわかっていたかのようにタオルとドリンクをあらかじめ用意し、それを試合に出ているメンバーに渡し、1人一人に声をかけていた。
試合にでているときも声を出しながらチームメイトが助かるようなポジションをタイミングよく取っているのがバスケをやったことのない俺にもわかった。
それは決して目立たないのかもしれない。
けれど一千華が誰よりも周りを見ていることだけは確かだった。
だからこの明るさも俺を元気づけるためなんだろうな。
「あーご褒美があればめちゃくちゃ頑張れるんだけどな……」
俺はなんとなくつぶやく。
それを聞いて一千華は唇に手をあて考える。
と何かを思いついたのかちょこちょこと歩き、こちらに向かってくる。
そして俺の耳に手をあて口を近づけ。
「じゃあ今日私とツーショット撮るってのはどう?」
そうささやく。
俺は疑問を口にする。
「ご褒美だよ?」
「こんな美少女と写真撮れるんだからご褒美じゃん!」
「美少女?」
「美少女じゃん!」
軽快なやり取り。
この距離感とリズムが心地よい。
「てか、昨日だって2人で撮ったけどね」
「そんなの何枚あってもいいし、背景が違うの!」
ストレッチをやめて立ち上がり、お尻の埃を叩いて払う。
「その約束絶対だからな」
「あたぼーよ」
一千華は胸を張ってこぶしで叩く。
「それと」
「いつもありがと」
彼女は少し驚いたような表情を見せる。
そして少し笑いながら。
「こちらこそ」
階段から足音が聞こえる。
ぞくぞくと朝練に向けて集まってくるだろう。
それは2人の空間の終わりを告げる。
外には少し青い空が見えた。
そんな気がした。
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