第20話 人生最大のモテ期の様だ~トーマス視点~

早速翌日、稽古の指導をジョセフに任せて、食堂にやって来た。食堂にはルシータ嬢の他に、噂好きなおばさん達が沢山いる。さすがに食堂に乗り込む勇気がなくウロウロしていると、ルシータ嬢が出て来た。どうやら、野菜を取りに行く様だ。これはチャンスだ。でも…


中々話しかけられない。結局ルシータ嬢の後を、後ろから付ける。これではまるで変質者だ。畑でトマトを貰ったルシータ嬢。重そうにトマトを運んでいる。


よし!気合いを入れてルシータ嬢に話しかけた。俺の顔を見ると、それは嬉しそうに笑った。チクショー、可愛すぎる!


気合いを入れ直し、歌劇のチケットを渡した。最初は驚いていたが、最後は嬉しそうに受け取ってくれたルシータ嬢。よし、今度の週末にでも一緒に行こう!そう伝えようとした時だった。


「見つけましたわ!私の運命の人!!!!」


叫び声と共に、俺に抱き着いて来た令嬢。む…胸が当たっている…

急いで彼女を引き離した。この令嬢は…全く記憶にない…


そんな俺にあろう事かプロポーズしてきた令嬢。どうやら、俺が革命軍から解放した人質の1人だった様だ。嘘だろう…ルシータ嬢だけでなく、他の令嬢にまで好意を抱かれるなんて…


でも、俺にはもう心に決めた人が居るんだ!そんな思いから、彼女の気持ちは答えられないと伝えた。なんだかその場に居づらくて、そのままその場を離れた。そう言えば、ルシータ嬢はあの令嬢の事を、“バイレディーヌ伯爵家のセーラ様”と言っていたな。


バイレディーヌ伯爵家と言えば、爵位はそこまで高くないが、代々続いている名門だ。今度はそんな令嬢が俺の事を…なんだか頭が痛くなってきた。とりあえず食堂にトマトを届け、稽古場へと戻った。


「トーマス、きちんとルシータ嬢に気持ちを伝えたか?」


ニヤニヤしながら俺に話しかけて来るジョセフ。


「気持ちは伝えていないが、歌劇のチケットは渡せた。ただ…」


まさかバイレディーヌ伯爵家のセーラ嬢に告白されただなんて、何となく言い出せない。


「ただ、どうしたんだよ!」


言葉を濁す俺にイライラしたのか、強めの口調で聞いて来たジョセフ。その時だった。


「騎士団長様、見つけましたわ!」


再び物凄い勢いで俺の方にやって来るセーラ嬢。稽古場に入ってこようとするセーラ嬢を止める騎士団員たち。


「ちょっと何なの、あなた達!私はバイレディーヌ伯爵令嬢よ!何てことするのよ!お父様に言って、あなた達のお家を潰すわよ!」


なんて物騒な事を言うのだろう…そもそも、この騎士団は身分の高い貴族も多い。下手をすると、伯爵家が潰されるぞ…


「セーラ嬢、悪いがここは関係者以外立ち入り禁止だ。見学なら、あの見学場所に行ってくれ」


物凄く顔が引きつっているジョセフの妹が座っている場所を指さした。


「分かりましたわ、騎士団長様がそうおっしゃるなら」


そう言って見学席に座ったセーラ嬢。でも、事ある事に稽古場に乱入してくる。そしてあろう事か、近くにいた騎士団員に飲み物を持ってこいやら、椅子が硬いからクッションを準備しろやらほざき始めたのだ。


怒りが爆発しそうになったところで、お昼休憩に入った。


「おい、お前まさかセーラ嬢にも好かれたのか?マジかよ…セーラ嬢は我が儘で世間知らずだが、美ボディーの持ち主だ。絶世の美女のルシータ嬢に美ボディーのセーラ嬢が、まさかゴリラのお前を好きになるなんてな…」


頭を抱えているジョセフ。俺だって信じられないんだ!


「それでお前、どうするつもりなんだよ。どう考えても今が人生最大のモテ期だろう?まさかセーラ嬢を選ぶとか言わないよな!」


「俺はルシータ嬢が好きなんだ!それにセーラ嬢にはきちんと断った!」


「セーラ嬢には伝わっていないんじゃないのか?」


確かに、あの様子では伝わっていない様だな…もっとしっかり伝えないと駄目だ!なんだか疲れたな…こんな時は、ルシータ嬢を見て癒されるか。そう思って食堂に向かったのに、何を思ったのか俺を見つけたセーラ嬢が隣に座って来た。


クソ、これではルシータ嬢に変な誤解を与えてしまうではないか!とにかく、急いで食事を済ませて食堂を後にした。そして午後の稽古が始まった。相変わらずわがまま放題のセーラ嬢。


さすがの俺も我慢の限界だ!


「いい加減にしろ!ここはお嬢様の遊び場ではない!騎士団の真剣な稽古場だ!邪魔をするなら今すぐ出ていけ!!!」


セーラ嬢を怒鳴りつけた。


「まあ、なんて恐ろしい方ですの!もういいですわ!お父様に言いつけてやるんだから!」


そう言って去っていくセーラ嬢。


「公爵令息のトーマスに怒鳴られたっていくら伯爵に言ったとしても、何にも出来ないだろうに…あの子、少し頭が弱いのか…でもトーマス、よく言った!さすがにあの態度は良くないもんな」


そう言って俺の肩を叩いたジョセフ。少し可哀そうだが、これでもう俺の事は諦めるだろう。そしてセーラ嬢と入れ違いで、ルシータ嬢が入って来た。久しぶりに稽古場にやって来たルシータ嬢に、俄然張り切る団員たち。もちろん、俺も張り切る!


やっぱり俺はルシータ嬢がいい!美しい笑顔で稽古を見つめるルシータ嬢を見て、そう確信したのだった。

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