第2話 助けてくれたのは、いかつい顔の騎士団長でした
「セリーナ、泣かないで。大丈夫よ」
涙を流す私に、そう声を掛けてくれるレイラ。きっとレイラも物凄く怖いはずなのに、こんな時まで私を気遣ってくれるなんて。
「ありがとう、レイラ。そうよね、泣いていても仕方がないわね。しっかりしないと」
それでもやっぱり怖い。これからどうなるのだろう…そんな思いから、レイラに寄り添う。ふと周りを見ると、他の人たちもすすり泣いていた。
しばらく進むと、急に馬車が停まった。何やら外が騒がしい。そして次の瞬間!
ガチャガチャ
荷台の鍵が開く音が聞こえる。もしかして、目的地に着いたのかしら?恐怖から震えが止まらず、必死でレイラにすり寄った。レイラもやはり怖いのか、かなり震えている。
バァーーーン
「おい、やっぱりここに人質が閉じ込められていたぞ!!」
あの制服は、王宮配下の騎士団のものだわ!という事は、私たちは助かったのね!
「もう大丈夫だ!すぐに解放してやるからな!」
そう言って私の縄を解いてくれる男性。その逞しい姿を一目見た瞬間、一気に鼓動が高鳴り、頬が赤くなるのを感じた。
「騎士団長!革命軍どもを全て捕まえました!」
「わかった、こっちの人質たちも、すぐに家に帰れる様手配してくれ」
「は!!」
どうやらこの人は騎士団長の様だ!どおりで勇ましくてカッコいいのね…素敵だわ!!うっとりと騎士団長を見つめる私に
「ルシータ、何をボーっとしているの?早くこの荷台から降りましょう!」
レイラに引っ張られ、荷台から降りた。忙しそうに部下たちに指示を出している騎士団長。そんな騎士団長にそっと近づく。
「あの、先ほどは助けていただき、ありがとうございました!よろしければ、お名前を教えていただけますか?」
「別に名乗る様な者ではない!国民を助けるのが俺の仕事だ!」
そう言って去っていく騎士団長。なんて素敵なの…
「ルシータ、大丈夫?あの人は確か騎士団長のトーマス・マルティネスね。相変わらずゴリラみたいな顔ね…」
「あの方はトーマス様と言うのね…それよりレイラ、あなた騎士団長様の事をご存じなの?」
そう言えばレイラのお父様は、騎士団を束ねる総騎士団長だったわね!お兄様も副騎士団長だし!物凄い勢いで訪ねる私に、若干引き気味のレイラ。
「ええ、知っているわよ…見た目通り、物凄く強いのよ、あの人!本当にゴリラみたいにね」
「ちょっとレイラ、あなたさっきからトーマス様の事を、ゴリラゴリラって失礼よ!それでトーマス様はご結婚されているの?恋人はいるの?」
「ちょっとレイラ!あなたまさか、騎士団長に惚れたとか言わないわよね!」
「そうよ!そのまさかよ!あぁ、トーマス様はなんて素敵なのかしら…あの分厚い胸板にダイブしたい…」
きっとがっちりと受け止めてくれるだろう。想像しただけで、鼻血が出そうだわ!
「嘘でしょう?生きた芸術作品と言われたジョーンズ公爵家のあなたが、よりにもよっていかついゴリラを好きなるなんて!さすがにあなたと騎士団長では釣り合わないわ!」
「やっぱり私には、トーマス様は勿体なさすぎるかしら…そうよね、あんなにも魅力的な男性が、私みたいな小娘を好きになってくれないわよね…」
あんなにも勇ましくて男らしくてカッコいいのだ!きっと私の様な小娘は相手にされないだろう。そもそも、もう結婚して子供もいるかもしれないわ…
「ちょっとルシータ!しっかりして!一応言っておくけれど、騎士団長は独身よ!そもそも、あの男に浮いた話など一切ないから!」
「そうなの?それ、本当?嘘じゃない?絶対に?」
物凄い勢いでレイラに迫ったせいか、若干引かれているが、今はそんな事を気にしている場合ではない!
「ええ…本当よ…」
「まあ、これは運命の出会いね!きっと神様は、私とトーマス様を出会わせるために革命軍を送ったんだわ。そう、私とトーマス様は赤い糸で結ばれているのよ!」
この運命を絶対に物にしないと!もう一度トーマス様に会って話してこよう。そう思い周りを見渡すが、トーマス様の姿はどこにもない。
「ちょっとそこのあなた、騎士団長のトーマス様はどちらに?」
近くにいた騎士団員に話しかけた。
「団長でしたら、革命軍たちを連れて一足先に戻りましたが…」
なぜか頬を赤らめてそう答える騎士団員。
「そう、それは残念ね…」
せっかくもう一度トーマス様とお話しようと思ったのに!まあいいわ、トーマス様の居場所は分かっているのですもの!明日にでも騎士団に会いに行けばいいのよね!でも、騎士団って関係者以外入れないのよね…どうしようかしら…
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