腐った世界の歩き方

@gmgd767667

1話、俺という少年

 俺に名前はない。それは、農民という身分だからだ。農民になど、名はいらないと、世界が判断している。俺は、今日も、泥にまみれた道を歩く。

 

 ◯










「優しさなんてなんの意味がない」


 その少年、虚をつかれたよう表情を晒しているだろう。友達だと思っていた人間が、己の個人情報を集める人間だったのだから。


「優しさは、肯定するものがいてありうるものだ。なぜ、そんなことをしたんだい?んんっ!?」


 俺は、何も言えない。


「力をもつ者が偉いのではない、正しく使う者が偉い、とこの学園の校長は言ったみたいだけど、それ嘘だビーンっ!力もつ者が偉いんだよォ」


 俺は、何も言えない。


「これから、死ぬだろけど、せいぜい頑張ってね」



 ◯


 俺という少年は、酷く空虚な人生を送っていた。農民の親の元に生まれ、体を酷似する毎日。それゆえに、学園というものに興味を持ってかれた。友達、恋人。作れると思って、受験勉強に奮起した。そして、受かった。そして、友達が出来た筈だった。


「はぁはぁ」


 追ってから逃げる俺。路地裏にきたが、どうやらここに行かせるのが目的だったらしい。男は、黒服に身を包んでいる。こいつの目的は、分かっている。俺の臓器だ。友達だと思っていたあいつは、俺の情報をダシに、今頃金を受け取っているだろう。


「恨むなら、生まれを恨め」


 臓器は高く売れるものだ。だが、貴族などの生まれのものは、標的にされない。騎士団を囲っているからである。ようは、何もない生まれである後ろ盾のない価値のない者が、標的にされるのだ。


「糞が」


 俺は、空に向かって呟く。恋人は、とうの昔に諦めた。だが、友達に裏切られるのは辛いものがある。


「なぜ、こんなこと」


 もうじき死ぬ。だが、もうどうしようもない。俺は、目前に迫る刃を前に目を瞑る。だが、


 刹那、鉄が交わる音が響く。


「まだ、諦めるは早いけど?」


「へ?」


 目前には、さっきまでいなかった人がいる。性別は、女である。豪華な服装を纏っていることから、相当の家柄であることが伺える。手には、磨かれた剣がある。


「ここは、貴族区間。戦闘されると、周りに迷惑がかるのよ。言っとくけど、あんたの為ではないから。さっきと逃げなさいよ」


「で、でも」

 

 逃げていいのか?少女1人を残して。俺の頭にそんな疑問が浮かぶ。


「悩まないで。うじうじする男は、私は嫌いよ」


 その少女の圧に俺は、圧倒される。だが、俺は逃げるという判断を下すことができない、それは、俺が弱いからである。


「なら、借りよ」


「借り?」


「あんたの境遇は、分からないけど、借りよ。強くなったら、返しにきなさいよ。私の名は―」


 名を言う前に、男が少女の懐に潜り込む。だが、男の短剣が何もない何かによって弾かれる。

 

「名を言う暇ないみたいね。―風よ、従いなさい」


 ◯


 気づけば、夜になっていた。周辺の家には、明かりがなく、酷く物騒だ。俺は、あの少女がどうなったか何も知らない。だが、返しにきなさいと言うことは、勝つ前提で話が進んでいたことになる。なら、俺は前へ向こうと思う。だが、前向きになれない。学園には、友達だった奴がいる。俺が死んでないことが分かればすぐに、元手に報告する筈だ。なら、どうすればいいのか?


「冒険者ギルドか」


 俺の眼に飛び込んできたのは、冒険者ギルドと書かれた看板である。あたりから、喧騒らしい音が聞こえる。木造だからだろうか?冒険者ギルドの話は聞いたことがあった。学園に通う学生が、学費を払う為に冒険者ギルドに登録し、小遣い稼ぎをするという話は聞いたことがある。

 

 ―いくか


 そう決めると、俺は冒険者ギルドの扉を叩いた。


















  

 

  




 








  





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る