腐った世界の歩き方

@gmgd767667

1話 この世の現実

 この世は、2つの人種に分かれる。それは、主人公かそれに従う者たちだ。授業の休み時間に入る。当然、群れを作り、騒がしくなる者も出る。されど、彼らは主役に足りえない


「あーん」


 寝るフリをしながら、視線を向ける。そこには、女に囲まれる男がいた。彼の名は、分からない。知らない。けれど、勉強ができ、運動能力がすこぶる高い。そして、顔が整っている。これだけでも十分だ。けれど、これだけでは女に囲まれる理由にはならない。それは、

 

「すんごっ、もうBランク冒険者じゃん」


 女にそう言われると、その男は豪快に鼻を鳴らした。そう。彼は、優れた冒険者であった。だから、女に囲まれる資格を持つ。彼は、主役の器である。


(なぜ、こんな差があるのかね。残酷なもんだね、神は)


 僕と、彼。同じ人間なのに、ここまで差が出る。それが、少し悔しく思う。


 ◯


 冒険者とは何か?


 一言で言えば、魔物を狩る者である。ちなみにだが、魔物はゲートというものから出現する。

 今から、300年前に現れた。それに対抗するように、冒険者という職業が確立した。


「おお、見たことあるぜ、あいつ。確か、日本ジュニア64位の―」


「日野琢磨」


「そう、そいつだった気がする」


 僕は、学校の帰り道をとぼとぼと歩いていた。そこで、爆音が鳴り響いた。その場所にいくと、冒険者と魔物が戦っていた


 炎を剣に纏う少年と体躯のでかい犬がぶつかる。少年の剣が、犬を捉えるが、その犬の纏う鎧によって弾かれる。


「逃げましょう、変異種です。勝ち目がありません」


 彼の後ろの治癒者が撤退を勧める。それもそうだ。彼は、期待のホープだ。死なせるわけにはいかないだろう。その分、僕たちはどうなるのか分からんけど。


 少なくとも、僕が彼の立場なら逃げる。だが、

 

「駄目だ。ここを離れたら、民が死ぬ。それだけはは、許してはならん」


 そこには、信念があった。またしても、僕には、ないもの。彼もまた、主役になりうる者。稀にだがいる。彼のような、他人の為に我が身を犠牲にできる愚かものが。


 「伝達を頼む。いいか?」


 治癒者は、視線を彷徨わせる。それも仕方がない。ようは、自分を見捨てて逃げろと言われているのだ。結局、彼女は伝達に向かった。どうやら、彼女は、普通の人間だったようだ


「集え、炎。我が身を、燃やせっ!」


 刹那、炎が爆せる。全身が炎に包まれ、剣を振る。だが、剣は散る。だが、諦めない。剣はなくとも、拳で、犬の鎧を殴る。それを繰り返す。でも、限界がくる。恐らく、時間制限がある『スキル』だったのだ

 

 彼が崩れ落ちる。そして、犬もまた同じ。だが、誰も彼の所業を見ていない。みんな、この場を離れていたから。


「なんで、命をかけるのか理解できない。赤の他人の為に」


 僕は、理解ができなかった。守るべき民とは言っても、他人だ。自分を犠牲にする意味が分からなかった。


「俺には、これしかなかったからね」


「え?」


 少年は、微笑んだ。


「家が貧乏だった。勉強ができなかった。運動神経も悪かった。おまけに、顔も悪い。そんな俺にも、奇跡がおきた」


 ああ、理解した。してしまった


「力が宿った。僕は、生きる理由を見つけたんだ」


 民を守る。それが、彼の生きる拠り所になる。なった。


 「ごめんなさい」


 彼を、愚かだと思ってしまった。僕は、思わずこんな言葉を漏らす。


「僕は、変わりたい」


 糞みたいな日常。この日常を壊す何かがほしい。生きる理由がほしい。意味がほしい。少年は、こちらをずっと見る。―そして、言葉を紡いだ。


「なれるさ、君の健闘を祈るよ」


 彼は、死んだ。それだけである。

 


 ◯


 学校の休み時間に入った。だが、ある話題で持ちきりだった

 それは、


「おいおい、ジュニア64の日野琢磨が死んだってよ」


 冒険者が死ぬのは、珍しくない。けれど、期待された若手が死んだこともあり、大きくニュースに取り上げられていた。


 「海斗は、死なないよね?」


 「当たり前だろ。あんな雑魚と一緒にすんな」


 女に囲まれた男がそう言った。僕は、何も言えなかった。睨みつけるだけで。


 ◯


 さっきのことをあり、僕は地を踏みつけるように目的の場所に向かっていた。そして、ついた

 

―冒険者ギルド


 繁華街の中央にある建物だ。扉を開けると、僕は、受付嬢の下に向かう


「お願いします、登録」


「駄目」


(は?)


 意味が分からない。


「なんで」


「才能ないから」


「は?なんでないって、分かるんですか?」

 

「なんとなく、感」


「どうかお願いします」


 僕は、自分を変えたい。だから、頭を下げる。けど、


「駄目。どっちみち、あんた死ぬわよ。あとで、後悔するって」


「いいですよ、責任は自分で取るんで」


「あのさ、そもそも―」


「よい」


 左隅には、階段があった。そこを、でかい男が降りてくる


「は?あたしが決めてるんだけど」


「試験を受けさせる。それで、決める」


 刹那、場が静まる。けど、そんなのどうでもいい。


「分かりました」


 道はある。 


(今度こそ、足掻いてやる)


 ◯


 武器を選んだ。いろんな武器があったけど、剣を手に取った。


「はぁ、まじだりぃ。てか、俺に太刀をいれるとか、無理だろ。普通に考えろや」


「分かってます」


 僕は、駆ける。そして、剣を振るう。だが、


「おせぇ」


 軽々と避けられる。そして、僕の目前に、大剣が迫る


「オラァ」









は、そこにいた。その少年は、細長く狭い道を



歩く。足取りは、重々しく、すこぶる鈍い。道は、整備されておらず、少年が地を踏むごとに埃が舞い上がる

 だが、仕方ないことであった。ここは、農村である。この道は、畑仕事を行う『物』たちと畑を繋ぐ道でしかない。

 ゆえに、整備する必要がない


「どけよ、塵がァ」


 少年とニヤついた笑みを浮かばす男がぶつかった。少年は、睨みつけるが迷わずに道を譲る。すると、男は、安心したような笑みを晒した

 

 少年に『名』はない。彼は、農奴であった。少年が生ける世界では、農奴とは最下層に属する身分であり、人にとって安らぎをもたらす存在でもある


 少年は、男が先をいくと舌を鳴らす。舌を鳴らすのも、仕方がない。あの男は、わざと少年にぶつかり、日頃の鬱憤を発散したのである。まぁ、少年もそれを分かっているのであるが。


(僕は、どうにかしてる。本当に)


 少年の頭には、さっきの男の姿はない。視線の先には、泥まみれで、やせ細る子供たちが整列する姿があった。―その先には、広大に広がる畑がある

 

 それを見る、少年の瞳は虚ろなものであった


 ◯


 今日は、年に一度のみの収穫祭であった。この農村に住む者たちが身分関係なく、収穫を祝い、集う祭である


「さぼるなァ、お前らぁ!」


 されど、扱いは違う。変わる。それが、身分というものである


「ひっ」


 怒鳴り声を上げる男がいた。その男は、子供らの前に出ると、蹴るやら、殴るやらを繰り返す。異常である。これが、日本なら誰かが止めるに入るだろう。だが、誰も止めない。止める気がない。大半の者が、見て見ぬふりをしている。上の身分の者に限っては、笑い声を上げている者すらいる。


 この惨状が、農村が無法地帯であることを示す



 だが、


 それを見て、歯を食いしばる少年が1人いた


(なんで、僕は『こっち側』にいるんだっ)


 少年は、見て見ぬふりをしていた。もちろん、正義感はあるだろう。だが、それ以上に、恐怖が勝ってしまう。少年は、動けない。動かない。悪くはない。誰も責められない。少年は、唯の人だった。ただ、それだけ。そもそもこの状況を止められる者など―


「いや、おかしくね。他にも、手を動かしてない奴いんじゃん。なんで、そいつらだけ叱られてんの」


 いない―筈であった。少なくとも、少年は知らない。男の前に、1人の少女が前に出る


「なんだ、お前」


「‥‥俺か?まだ、名もなき農奴よ。けど、いずれ―」


 ―魔王を倒し、勇者になる者だ


 彼女は、そんなことを言った


 ◯



 結論をいうと、丸く収まった。その少女は、男を止めた―などではなくむしろ痛々しい姿にされてしまった。だが、少女は諦めずに子供たちの盾となった。その姿に、男は叱ることを止めた。―その理由は、


(彼女は、流民だ。つまり、殺せない)


 後から知ったが、彼女は流民だった。男が裁けるのは、この民の者だけ。流民であった彼女は、殺してはいけない存在であった。彼女は、村に滞在していた医者に治療を受けている。その事もあって、子供たちは、助かった。だが、


「なにしてくれんだよ、あいつゥ」

 

「分かるわ、無駄な正義を振りかざしやがって」


 農奴の身分を持つ者にとっては、その行為が不快に思ってしまう。彼女は、正義を執行した。―だが、その正義が正しいとは限らない


 (彼女は、確かに正しかった。そうじゃないのか?)


 その男の溜められし怒りは、何処にぶつかるのか?


 それは、農奴である。少年は、2人の子供の死体をみる。


 ―目を背けられなかった

 

もし彼女が動かなかったら、この死体はなかったのかもしれない。少年は、そんなことを思ってしまった


 ◯

 

「まだ、甘いねェ。君ぃ」 


「すいません」


 少年は、剣を握っていた。向かいにいるのは、彼の師であった。だが、少年と師の視線は合わない


「君は、本当に甘いよ。剣には、性格が乗る。その性格は、戦士として命取りとなる。ほら、今日だって、あの子たちに同情したろ」


「‥‥‥」


「いらないんだよ、そういうの。彼らは、死んでもいい『物』さ。君が、情を向ける必要なんて―」


 これである。


 ―選民思想


 彼の師は、農民であった。広い土地を持ち、財力だけでいえば、そこらの貴族を凌ぐ。ゆえの、思想である。少年も理解はしている。できる。だが、やはり好きになれなかった


「平等ですよ、価値」


「違うさ。なら、君と僕の価値は同じかい?えぇ?」


 少年は、押し黙る。剣に秀で、広大な土地を所有する師と何もない自分。どっちに価値があるかなんて分かりきっている。

 ごめんなさい、と少年は謝まる。そして、頭を下げようとする。


 だが、


 刹那、声が聞こえた


「同じだろ」


 少年は、ハッとする。そこには、魔王を倒すと宣言した少女がいる


「‥‥同じ?君は、本当にそんなことを思っているのかな?―勇者の真似後はよしたまえ」


「思っているよ、価値は平等だ。それに、俺は魔王を倒して、勇者になる。―真似事じゃねェ」


 師は、少女の言葉に気圧される。その光景に、視線を離すことをしない『物』がいた。―それは、少年である。

 少女は、眼を向ける。―その少女の視線の先には、『少年』が立っていた


「俺の手を取れ」




 少年は、少女の手を取る。その結末は誰にも分からない



 


 































  

 

  




 








  





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