この恋は近くて遠い
人口が半分になったA市、西暦20XX年。突如として起こった事件に市民は大きく動揺した。しかし、市は人口半減の影響で余った予算を駆使し、とあるオブジェクト群を創りだした。
“消え失せた人々”。そう呼ばれるオブジェクト群は、消失した人口分のマネキンたちだった。作成当時は強いバッシングを受けたが、その圧倒的な人数と、人間と見まごうほど高いクオリティを誇るマネキンによって瞬く間に黙らせられた。そして今や、A市は芸術の街として年間100万人以上の観光客を迎えている。
僕は“消え失せた人々”を眺めていた。厳密には、たった一人を。
淡青のワンピースにつば広のストローハットを被った女の子。上を向いた顔は小さく、くりくりした目や程よく上がった口角からは女の子の溌剌さが強く伝わってくる。正直、めっちゃ可愛い。一目惚れだ。
でも僕は、彼女に触れることすら叶わない。街のルールで“消え失せた人々”には触れてはならないとされてるから。とても脆いらしく、もし触れると壊れて粉々に崩れてしまうのだとか。それに、街のルールを破ると酷い罰が執行されるという噂もあるから、僕は迂闊に彼女に触れなかった。
ああ、一度でいいからその頬に触れたい、どうせ伝わらなくてもいいから好きだと言いたい。ピュグマリオンのように、動き出したらいいのにな。
腕時計を覗いた。もう時間だ。ルール通り、帰らないと。僕は家に向かって地面を蹴った。
腕時計ズレてることを思い出した。えっと、今の時間は・・・・・・。あと十秒じゃないか! 時間になってしまったようだ。強烈な眠気に襲われる。
僕は振り返った。彼女をアフロディーテかと錯覚した。
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