幼馴染に100回告白したら付き合ってくれるらしいので100回目は彼女に告白してもらうことにした

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幼馴染に100回告白したら付き合ってくれるらしいので100回目は彼女に告白してもらうことにした

「あぁ~彼女欲しい」


 日の出と同時にスズメがチュンチュンしている漫画を読みながら、俺――立花たちばな みおはぼそっと呟いた。

 その言葉に、同じく漫画を読んでいた幼馴染の和葉かずは 瑠璃るりが反応する。


「あんた、三次元には興味ないんじゃなかったの?」


「まあ、そうなんだけどね。ラブコメ読んでると、やっぱ青春したくなるよ」


「馬鹿じゃないの。ラブコメみたいな恋愛が現実で出来るわけがないじゃない」


「それは分かってる。ましてや俺だもんな。モテねえし」


 俺は大きくため息をついた。

 瑠璃の言うことは最もだ。

 三次元には興味なし、二次元こそ至高と公言する痛ヲタクの上に、瑠璃以外の女子とはまともに話せない。

 そんな俺に、青春ラブコメを体験させてくれる素敵な女の子など存在するはずがない。


「…モテないことはないわよ。結構ひやひやするし」


「ん?何か言ったか?」


「何でもない!それよりあんた、本当に彼女欲しいの?」


「欲しいっちゃ欲しい」


「どんな子がタイプなのよ」


「黒髪ロング。普段はコンタクトで家ではメガネ女子。家事が得意で勉強のできる子」


「要求多いわね。…てか、それまるっきり私じゃない!告白のつもり!?」


「ん?ああ、そういえばそうだな」


 確かに瑠璃は艶々の黒髪ロング。

 学校ではコンタクトで、今は家だからメガネをかけている。

 そして料理が上手で成績は常に学年TOP5と頭もいい。

 俺が言った条件に見事マッチする。するんだけど…


「今読んでた漫画の推しヒロインの特徴なんだよな。でも、確かに瑠璃っぽいかも」


 俺は作中のヒロインと、目の前に座る瑠璃を見比べてみた。

 うん。よく似ている。


「はぁ!?変な期待させないでよね!」


「は?期待?」


「ち、違うわよ!不快って言ったの!あんたのタイプだなんてこの上なく不快だわ」


 えらい言われようだ。

 瑠璃は日ごろから毒舌家だが、今日は特に手厳しい。

 かなり頭に来たのか、顔が真っ赤になっている。


「ともかく、今のあんたに彼女なんてできないわよ。絶対にね」


「うっ…手厳しいな。返す言葉もないけど」


「その高い理想を忘れるか、理想に会う女の子を見つけるまでもがき続けるか。どっちの方が確率高いかしらね?」


「言いたいことはよく分かるよ…。やっぱ理想が高すぎるのは良くないよな。瑠璃みたいな女子はなかなかいないし」


「ちょっ、あんたのタイプは漫画のヒロインじゃなかったの?」


「そうだけど。瑠璃も当てはまっただろ?」


「…それってつまり脈ありってことよね」


「何か言ったか?」


「何でもないっての!」


 どうも、さっきから小さい声で呟いてるような気がするんだけどな。

 しかし、深く追求したら余計に怒られそうなのでやめておいた。


「全くあんたは本当にしょうがない奴だわ」


「何を分かり切ったことを」


「開き直るな!まあいい。そんなダメ人間にチャンスをあげるわ」


「チャンス?」


 瑠璃は大きく深呼吸すると、ビシッと俺を指差して言った。


「私に告白しなさい!」


「は?」


「フッてあげるから?」


「…は?」


「それでもめげずに告白しなさい」


「……は?」


「100回、諦めずに告白できたら付き合ってあげないこともないわよ!」


「………はぁぁぁ!?」


 突然何を言い出すんだ。

 100回告白したら瑠璃が付き合ってくれるって?

 本当に言ってるのか…?


「なあ」


「何よ」


「もしかして、お前って俺のこと好きなの?」


「そそそそそそそんな訳ないでしょ!まあ、あんたが誠意を見せれば?考えてあげないこともないってわけ」


「お、おう」


 正直、瑠璃が何を考えているのかよく分からない。

 だけどタイプの女子が付き合ってくれるというのなら、こんな絶好のチャンスを見逃すわけにはいかない。

 俺は覚悟を決めて瑠璃に告白した。


「瑠璃。好きだ。付き合ってください」


 うわ。何これめっちゃ恥ずかしい。

 つい、顔が下を向いてしまった。

 恐る恐る視線を瑠璃に向けてみると、まんざらでもなさそうにニヨニヨ笑いながら、しかし辛辣な言葉を浴びせてきた。


「誰があんたなんかと付き合うかバーカ」


「ひどくね?」


「さ、これから頑張ってね」


「約束だからな。100回目にはオーケーしてくれよ?」


「付き合ってあげないこともない、よ。まあ頑張りなさい」


「あと、俺はバックハグとかの告白とかそういうカッコいいことはできないからな」


「漫画の読み過ぎよバーカ。誰があんたにそんなこと期待するかっての」


「…」


「…バックハグからの告白なんて即OKしちゃうじゃない」


「やっぱり何か言ってるよな?」


「だ~か~ら!何でもない!」


 しつこすぎたせいか、俺は顔を真っ赤にして怒った瑠璃に部屋から追い出されてしまった。

 あの、俺の部屋なんですが。


 とにかく、この日から瑠璃に告白しては罵られる日々が始まった。




 そして98日後。

 しめて99回目の告白。


「瑠璃。本当に大好きです。付き合ってください」


「あんたなんかが私と付き合おうなんておこがましいわ。恥を知りなさい」


 例によって玉砕した。

 瑠璃を飽きさせないようにパターンを変えて告白しているのだが、瑠璃も断り方のパターンを変えてきている。


 フラれればフラれるだけ何も感じなくなると思ったが、案外そうでもないらしい。

 むしろ日に日に心が痛くなっている。

 70回を超えたあたりでその理由に気が付いた。

「好きだ好きだ」と言い続け、瑠璃と付き合ったらということを考えるうちに、本気で瑠璃のことが好きになっていたのだ。

 だからこそ、本気で落としにかかる。

 だからこそ、本気で傷ついてしまう。


 明日は約束の100回目。いよいよ努力が実を結ぶ…かもしれない日だ。

 しかし、今まで通りの告白で瑠璃が付き合ってくれるとは思えない。

 そこで俺はとある計画を立てていた。




 翌日。


「今から告白をする」


 俺は瑠璃の目を見て言った。


「そう」


 瑠璃はそっけなく答える。

 しかし、しっかりと俺の方を見てくれた。


「今から告白するけど、その前に2つ確認しておきたい」


「何?」


「100回目の告白の後、付き合ってくれるんだな?」


「付き合ってあげないこともないだけどね」


「それでいい。それで2つ目」


 俺は計画を実行にかかった。


「瑠璃は俺のことをどう思ってるんだ?」


「…っ!?」


 もし瑠璃が俺のことを好きでないのなら、哀れみで付き合ってもらって嬉しくない。

 ただもし、もし好意を持ってくれているのなら、100回目の告白は瑠璃にしてほしい。


「瑠璃は俺のこと、好き?嫌い?」


「…」


 瑠璃はうつむくと、肩をプルプル震わせた。

 数秒の静寂の後、何か言葉が発される。


「…きよ」


「聞こえない」


「好きよ!好き好き好き好き大好きよ!どう!?これで満足した!?」


「お、おう」


「何よ『おう』って!笑いなさいよ喜びなさいよ!」


 そっけなく答えたものの、俺は心の中で渾身のガッツポーズを決めていた。

 瑠璃から好きだと聞けた。

 それで計画はほぼ成功したようなものだ。

 あとは、99回フラれたことへの小さな仕返しを完成するだけ。


「瑠璃、告白してくれたら付き合ってあげないこともないけど」


「はぁぁぁぁぁ!?」


 瑠璃は顔を真っ赤にして目を見開いた。

 そして勢いよく立ち上がり、どたばたと歩いて部屋の外に出ていく。

 バタンッと部屋の扉が閉められた。


「あれ…もしかしてやらかしたか?」


 俺は一人残された部屋で呆然とする。

 調子に乗り過ぎたのだろうか。

 瑠璃が怒って出ていってしまったのなら、もう可能性は残っていない。

 あと1回、素直に告白しておけば…


 と、部屋のドアが開き瑠璃が入ってきた。


「あ、瑠璃。調子に乗ってごめ…」


「澪。ごめん」


「…え?」


「私、本当に澪のこと大好きだから。だから…」


 よく見てみると、瑠璃の目から涙がこぼれ落ちている。

 声を詰まらせながら、瑠璃は言葉を紡ぎ続けた。


「その…私は素直じゃないから…。澪がタイプって言ってくれた時…すごい嬉しかったのに…意地張って変な条件出しちゃって…」


「瑠璃…」


「だから…本当は好きなの。お願いだからフらないでくださいっ…」


「え?」


「…え?」


「フる…わけがなくない?」


「……え?」


 瑠璃はボロボロ涙をこぼしながら、きょとんとした顔で俺を見た。


「私が99回もひどい断り方したから、嫌いになっちゃったんじゃないの?それで私に告白させといてフッてやろうと…」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て」


 とんでもない方向に話が進んでいる。

 いくら主人公がひねくれ系のラノベや漫画を読んでいる俺でも、そこまで性格の悪いことはしない。

 ただ純粋に、瑠璃からの告白の言葉が聞きたかっただけだ。


「瑠璃のことめちゃくちゃ好きだし。バリバリに付き合いたいよ?」


「…ホントに?」


 うるうる潤んだ不安げな目で見上げてくる瑠璃。

 普段とのギャップにやられると同時に、大変申し訳ない気持ちになった。


「ホントホント。瑠璃、付き合ってください」


 ああ、結局こうなるのか。

 100回目の告白も俺からしてしまった。

 そして瑠璃の目からは、ぽろぽろと大粒の涙が落ちている。


「怖かったんだから」


「ごめん」


「本当に不安になったのよ?」


「ごめんって」


「バカバカバーカ。澪の大バカっ!」


 そう言うと、瑠璃は俺に抱き着いてきた。

 俺の胸あたりに頭を押し付けてくる。

 涙やら鼻水やらが俺の服に染み込んでいく。


「浮気したら許さないんだからね」


「そんな勇気はないよ」


「1日1回は好きって言いなさい」


「それは今まで通りだな」


「こんな意地っ張りの私だけど、どうかよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 瑠璃の俺を抱きしめる腕にぎゅっと力が入った。

 俺も優しく抱き返す。


 何となく彼女が欲しいなぁと思ってから100回の告白を経て、俺は高すぎる理想にぴったりはまる彼女を手に入れた。

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