女子がおっさんの目の前でスカートをまくりあげてタイツを直す現象

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

この現象に、ボクはなんて名前をつければいいんだろう

 妹と手をつなぎながら、駅を歩いているときだった。


 ランドセルを背負った少女が、急に立ち止まる。

 かと思えば、黒いタイツをふくらはぎから太もも、さらにスカートの中にまで手を突っ込んでまくり上げたのだ。 


「聞いていいか、リサ」

「なに、お兄ちゃん?」


 リサも、さっきの子と同じくらいの年頃である。

 親同士が再婚してから、産まれた子なのだ。

 ボクとは、一〇歳近く離れている。

 

   

「なんで女の子は、ボクのようなおっさんの目の前でスカートをぐわっとまくり上げてタイツを直すんだ?」

「知らないよ、すけべ」


 

 ボクが疑問を投げかけると、妹のリサは眉をしかめた。


 

「それも、リサみたいな小学校高学年から、中学生くらいの子が、だ」

「はあ? あたし以外の子を、そんな目で見てたの?」


 リサは気に食わなかったらしい。

 ボクが彼女たちをいやらしい目で見ていたと、誤解したみたいである。

 

「そういうエロい視点は、あたしだけにしな?」

「違う、そうじゃない」


 ボクは、弁解した。

 あくまでも、知的好奇心から尋ねているのだと。


「どうしてあんな小さい子くらいの女子って、急にタイツを引き上げるんだろうなーと思っただけ」


 恥ずかしげもなく、さも当たり前のような挙動だった。

 羞恥心より、気持ち悪さのほうが勝つのだろうか。


「わかんない。あたしもお兄ちゃんの前でタイツ上げるけど、そんな目で見られたことはないかな」

「妹だからね」


 リサが、つまらなそうにする。


「この現象に、ボクタチはなんて名前をつければいいのだろう?」

「名前必要なの?」

「『ネコが虚空を見上げる現象』にだって名前はあるんだよ?」

「それウソ記事だよ? 『ネコが臭いにおいに反応する現象』には名前はあるけど」


 いや、知ってるよ。フレーメン現象だよね?

 

「この謎が解明されない限り、永遠にボクの眼前でラッキースケベが繰り返されることになる」

「それはやだ。お兄ちゃんがロリになる」


 ならんけどな。

 

「リサもそう思うだろ? だから、学術的にも発表すべきなんじゃないかな?」

「そこまで大げさなの?」

「でも、小さい子の本格的な悩みなら、解決できたら喜ばしいんじゃないか?」

「かもね」


 話していると、突然リサが「ちょっと待って」と、唐突にスカートをまくりあげた。


 いかん、タイツ上げ現象だ。


 ボクはとっさに、コートで妹の姿を覆った。


 妹の痴態を晒すわけにはいかん。


「もういいよ。お兄ちゃん」

「うむ」


 妹と、ホームで分かれる。

 

 服飾業界には、この謎を早く解き明かしてもらいたい。


 我が妹が冬の度に、恥ずかしい目に遭うからな。



「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「キモい」

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