第23話 誇り
時は過ぎ、何度も冬を乗り越え、暖かい春がやって来た。
桜が舞い、ピンク色の絨毯を作る道を、スニーカーで歩く人影が二つ。
――ピンポーン。
都心から離れ、自然の多い地方。そこのメインの住宅街から少し逸れて静かな場所にあるオシャレな家のインターホンを鳴らす。
「お待たせ、理歩ちゃん、総太。ここまで来るの、大変だったでしょう? さ、中に入って入って」
家の中から顔を出したのは真っ白なシャツとパンツを身につけた誠士郎。
ともにやってきた理歩と総太を笑顔で迎え入れる。
「おじゃまします」
「おじゃまー」
理歩たちは中へと足を踏み入れる。そして案内された部屋で、ソファーに座る。
部屋を見渡せば、どこもかしこもオシャレな家具や雑貨でまとまっており、誠士郎らしさが見えた。
誠士郎は理歩と仮同棲したマンションはすぐさま手放し、この土地に引っ越し一人で暮らしていた。都会と比べて静かな世界。自然を感じられる生活にもだんだんと慣れたようだ。未開封のまま積まれた段ボールの山があったマンション生活時代と比べれば、今のこの部屋がとても綺麗に片づけられているので、生活に馴染んでいる様子がうかがえる。
「はい。どうぞ。焼きたてだよ」
誠士郎はコーヒーとともに、クッキーを持ってきてテーブルに置く。
「料理に目覚めたのか?」
「うん、まあね。一人でもやっていけるように、色々勉強して作ってたらはまっちゃって」
理歩はクッキーの一つを取り、食べてみる。
チョコチップが入ったクッキーは甘く、おいしかった。
その様子を見て、誠士郎は小さな声で「あ」と声を上げる。
誠士郎が驚いたことに気づいた総太は、理歩の左手を誠士郎に見せるようにとる。
「へっ。お察しの通り。俺たち、結婚しました!」
理歩の薬指には、リングが一つ。総太と同じデザインのものだ。
窓から入る日光でキラキラと光を返していた。
「おめでとう。僕も二人が結ばれるなんて、嬉しいよ」
誠士郎はくしゃっと笑う。
「ありがとう」
理歩は少し顔を赤らめながら、礼を返した。
「サンキューな、誠士郎。で、俺らを呼んだってことは、なんかあったんだろ?」
思い出したかのように話しを切り出した総太に対し、「そうだった」と誠士郎は理歩たちの向かいのソファーに座ってふぅと息を吐いてから本題に入った。
「果歩ちゃんの件なんだけど……」
ごくりと理歩は唾をのむ。
忘れてはならない妹の死に関する話。犯人すらわからず、理歩の未来を捻じ曲げた一件の大本になった。
それについて、今に至るまで理歩は何も知らない。だが、誠士郎はずっと調べ続けていた。
不安になる理歩の手を、総太がしっかりと握る。大丈夫、一人じゃないと言われているようで、理歩はその手を握り返した。
「端的に言えば、犯人、捕まったよ。やっぱり……僕の家が絡んでた。全部っ、僕の……」
悔しそうに握り拳を作る誠士郎は深々と頭を下げた。
自分が果歩と関わらなければ、こんなことにならなかった。
そう思ってしまうのは、誠士郎だけじゃない。誠士郎と果歩を結んだ総太にも重くのしかかる。
「頭を上げてください。誠士郎さんと出会えて、果歩は幸せでしたもん。だって、果歩の手帳。ずっと誠士郎さんとの思い出がたくさん書かれていましたし」
「理歩ちゃん……」
「果歩はいないし、もう会えないことは悲しいけど、私たちは生きていくんです。果歩の分も」
しばらく見ない間に、理歩の心は強くなっていた。
それもずっとそばにいてくれた総太のおかげだ。
一人じゃない。辛いときに頼り、頼られる彼がいる。それだけで、理歩は前を向いて進むことができた。
「……ありがとう」
誠士郎は少し、心が救われた。
そしてしっかりと顔を上げ、一つの提案をする。
はっきりとした内容ではないが、それを聞いた理歩たちは一瞬戸惑ったものの、すんなりと受け入れる。
「果歩ちゃんにも誇れるようになるよ、僕は」
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