第19話 訳知り
理歩の家を飛び出した誠士郎は、そのままひたすらに走った。
その後ろを総太が原付バイクで追いかける。
だが、体力も気力もすり減っていた誠士郎に追いつくのはあっという間だった。
総太が誠士郎の行く手を阻むようにバイクを止めて声をかける。
「誠士郎、どこに行くんだよ? お前、ここらへんの土地勘ねえだろ? 適当に探したって、見つからねぇよ。いくら田舎でもな!」
「わかってるよ、僕だって適当に探すのはダメだってわかってるって。土地勘だってないよ! ないけど、見つけなきゃ。総太は知ってるでしょ? 責任感の強い彼女だ。全部がダメになってしまったと知ったとき、どんな行動にでると思う?」
「んなの俺にはわかんねぇ……あいつが何考えていたのか、ずっとわかんねぇんだよっ」
息を切らしながら、誠士郎は言いきった。理歩のことを想い、血眼になっている。
総太は総太で、理歩を見つけたい。だけど、結局それができていない。そのことに踏まえ、誠士郎が抱え込みすぎていることに苛立ちが募っていたので、言葉が荒くなっていく。
「少なくとも、僕だったら……僕なら自分を責める。責めて、責めて、最終的に……僕だったら、死を選ぶ」
「おま、ちょ……それは……」
誠士郎は自分が昨日行ったことを思い出す。
最愛の彼女を失ったことで、もう全部が嫌になって、ゆえに死のうとした。
その証拠に首元にうっすら残る傷跡がある。それを指さすと、総太は目を見開いて動きが止まった。
「馬鹿野郎っ!」
「っ……! いったいなぁ! なにす……」
誠士郎の頬に、本日二度目の痛みが走った。
それは目の前の総太から受けた平手打ちだ。急にくらった痛みに、今まで通りの丁寧な言葉遣いすら忘れて、乱雑な言葉が出た。
頬を抑えて総太を見れば、目を潤ませ、今にも泣きそうな顔をしている。何年もの付き合いではあるが、そんな総太の顔なんて見たことがなかった。だから誠士郎はぴたりと動きが止まる。
「馬鹿だ! お前は!」
「はぁ!? 今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く探しに行かなきゃ! そんなこと言いたいなら後にしてよ!」
「今知ったんだよ! だから今言わせろ!」
「なんなの、もう!?」
路上で喧嘩し始めた二人。
その騒がしい声はあたりに響く。
しかし、傍を通る車も人もいない。田舎なこともあって、誰もそばにおらず、住宅からも離れているため誰も気に留めない。
それをいいことに、総太はさらに声を荒げた。
「なんで頼らなかったっ!? なんで何も言わなかった!? 俺が電話しなかったら、お前は……っ! 俺たちは困ったときにも、何でも話せるような関係じゃなかったのかよ……そう思っていたのは俺だけなのかよ……なぁ……」
誠士郎の胸元を掴む総太の声は、次第に弱弱しくなっていった。そしてしまいにはその手から力が抜け、だらんと離れる。
本気で誠士郎のことを心配していたのに、何も相談されなかったことが悔しくて、総太の顔に影がかかった。
「ごめ、ん……僕、そんなに考えてもらっていたなんて……」
総太の想いに気づいた誠士郎は、自らの行動を恥じた。
そして尚更、覚悟を決める。
「総太。総太の好きな子のためにもさ、急ごう? 僕、今、ふと思ったところがあるんだ。だけど、いまいち詳しい場所はわからない……協力、してくれる?」
そっと手を差し出すと、暗かった総太がゆっくりと顔を上げる。その顔、そして耳までもが真っ赤に染まっていた。
そして長く息を吐いてから、総太は誠士郎の手を取る。
バチンと音を立てて握手を交わす。男同士の力強いものだった。
「で、どこなんだよ。その場所っていうのは。多少ヒントはあるんだろ?」
「うん。それは――……」
誠士郎は可能性のある個所について総太に伝える。
はっきりとした場所はわからなくても、総太にはわかった。
「それなら、そこの角を曲がって真っ直ぐ……理歩ちゃんが歩いて向かったとすれば、もう着いてるかもしれねえ……」
「総太は先に行って! 僕も追いかけるから! 曲がって真っ直ぐでしょ!? わかったから!」
「お、おう……じゃあ、俺は先に行く。すぐ来いよ!」
「うん」
総太はバイクを走らせる。
その後を追うようにして、誠士朗も走るのだった。
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