過酷な運命

 カイルは父親に似て大きくたくましく成長し、立派な猟師になりました。そして気だての良くて可愛い村の娘と結婚しました。

 やがてカイルに娘が生まれ、アルルは孫娘にノンナという名を付けました。

 息子夫婦と孫娘と一緒に、穏やかな日々を過ごし、アルルはずっとカイの帰りを待っていました。しかしなかなかカイは帰ってきません。

 もう帰って来ないのではないか……そう弱音をこぼすと、ベルはいつも優しく慰めてくれました。


 そしてカイが旅立って25年が立った頃、やっとカイが帰ってきたのです。アルルは大きく驚きました。カイの左腕がなくなっていたのです。


「邪神に左腕が呪われて、仕方なく切り落としたんだ。でも大丈夫。この腕以外は元気だから」


 残された右腕で優しくアルルの頭を撫でると、アルルは泣きながらカイに抱きつきました。


 それからアルルとカイは、息子夫婦と孫に囲まれて幸せに暮らしました。カイはだいぶ年老いて、歩く時には杖が必要になっていました。

 これほど老いて、片腕しかないカイが旅立つ事はないだろう。そう思っていたので、カイとアベルは穏やかな残りの人生を、のんびりと楽しむつもりでした。




 しかしある時また村に天使が舞い降りたのです。


「勇者よ。東の国に邪神が復活しました。東の国の民は亡霊達に襲われて苦しんでいます。今度こそ邪神を滅ぼす為に、旅立ちなさい」


 カイは驚きました。老いた体を見下ろし、天使にこう言いました。


「私は左腕を失いました。もう杖をつかないと歩く事も出来ません。こんな体で戦いになどいけません」


 女神は微笑するとカイに近づいて、カイの左肩に手を置きました。するとカイの肩から突然光がでて。気がつくと腕が元通りになっていたのです。


「勇者よ。勇者の剣を持ちなさい。そうすれば貴方は若い頃のように元気に走り回れるでしょう。さあ旅立ちなさい」


 カイが勇者の剣を手に取ると、重い剣を持っても全く気にならない程体が軽くなりました。

 カイはアルルを見つめました。アルルの顔には深いしわが刻まれて、カイもアルルももう年老いたのだと気がつきました。

 もし今度旅立てば、アルルが生きているうちに帰れないかもしれない。

 そう思うと今度こそ旅立つ事が出来ませんでした。


 アルルと結婚してから40年近くたちます。しかしアルルと過ごした時間は3年にもみたないのです。長い時間待たせてばかりだったアルルの最後も看取れないなんて、そんな酷い事はできません。


「天使様……どうかお願いがあります……」


 カイは何かを天使に願って旅立ちました。カイが天使に何を願ったのか誰も知りませんでした。

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