第8話

「やだぁキモいよぉ…。ゴミが唾撒き散らしながら、大きな声で喋ってるぅ…♪」


さっきまでのあなた、そのゴミに大きな声で話せってブチギレてたよね…?


「まったくだよ。空気の読めないゴミなんだから。今は魔法使いも魔王様と結婚するかどうかっていう、大事な話の最中なのに…」


確かにそれも大事な話ではあるけど、今はもっと大事な話があると思うよ?

嫁(仮)も空気読も?


「中古便器の分際で主人公をゴミ扱いすんじゃねぇよっ!! ゴリラ女もちょっとイイ体になったからって調子に乗んなっ!!」


おいおい主人公(笑)。

キレるのはいいけど、調子に乗ってそんな事を言っちゃったら…。


「……中古便器だぁ?」


あーあ、魔法使いがブチギレモードに戻っちゃった。


「…だからゴリ聖とかゴリラってなんなのさ…」


ごめんよ嫁(仮)。

俺が後でちゃんとゴリラの事を説明して謝るから。

好きな人を相手に小学生みたく素直になれなかった、童貞拗らせすぎのおっさんを許しておくれ…。


「お前もだこのキモハゲがムゥ!!?」


「このゴミ…!! マジうっざ…!!」


「ムムー!!? ム、ムーッ…!!」


黒ガムテープが、主人公(笑)の鼻以外をビッチリと包み込む。

これからその主人公(笑)にお話があるのに、口を塞がれたら困るなぁ…。


「ねぇ魔王様? やっぱコイツ殺そ? もう殺そうよ? それがダメなら死ぬ手前、死ぬ手前まででいいから、あのゴミをすりおろしちゃダメ?」


…やっぱあのトゲトゲは、すりおろす用のヤツで正解だったか。


「…まだダメです。話が終わるまでは待ってろって」


「そんなぁ…。じゃ、じゃあ先っちょだけ!! 先っちょだけでいいから!! 」


うーん…先っちょだけでもすりおろさせてやりたいのはやまやまなんだがなぁ。

それでゴミに発狂されたら困るし…。


…仕方ない。

このまま我慢だけさせるのは可哀想だし、ここは魔法使いのご機嫌でも取ってみっか。

面倒だけど。


「…なぁ魔法使い。中古便器なんて言われた事は気にすんなって。あのゴミに汚された前の魔法使いの体は、ぐちゃぐちゃなったり魔族になったりでリセットされたんだぞ? 洗脳が解けたのがその証拠なんじゃない? そう考えると、俺は今の魔法使いの体は新品で、中古でも便器でもないと思うのよ。そんで新品になったついでに、洗脳されてた時の事は悪い夢だと思って忘れちまえばいいじゃん。洗脳なんて自分本来の意思じゃないんだから、それでいいっしょ。だからそんなイライラする必要は無いって、な?」


面倒なのに先代魔王が如く長話してやったんだから、これでなんとかと納得してくれい。


「…う、うん♪ ありがと、魔王様…♪ ちゃんと今の新品の体は、魔王様に捧げるからね…♪」


それは別に俺じゃない人に捧げたっていいんだけど…?


「…ま、まぁその辺はちゃんとしっかりバッチリキッチリ熟考したりなんかしたらいいんじゃない…? つーかさ、このままグダグダしてたらゴミが弱っていくだけだし、さっさと話を終わらせちまうおう…」


「はーい♪ わたし、黙って旦那様の話が終わるのを待ってまーす♪」


何で急に魔王様から旦那様に呼び名が変わってるのデス…?

俺、ちゃんと熟考しろって言ったよ…?


「そっか、やっぱり魔法使いもなんだね。なら後で聖女も含めて、嫁同士でキッチリ話をしないと」


…あの、正妻な嫁(仮)さん…?

旦那の意見もちょっとは聞いてみないかい…?


「だね♪ あっ、聖女って頭イッちゃってるらしいけど、どのくらいイッちゃってるのぉ?」


「…目が覚めたらわかるよ。とりあえず今は、魔王様の話が終わるまであたし達は黙っておこ…」


「はーい了解♪ それじゃ、話せるように口の拘束だけ解除してから黙りまーす♪」


お願いしゃーす。


「…おいゴミ、解除した後にまた舐めた事言ったら…わたしが考え付く最大限の苦しみを与えてやるから、覚悟しとけよぉ…♪」


「……ムグ…」


おやおや?

主人公(笑)君ったら急に大人しくなっちゃって、どうしたんだい?

すりおろすとか最大限の苦しみってワードで、心が折れちゃったとか?


どうせ死ぬって逆ギレして更に絶望するくらいなら、誠心誠意な謝罪からのワンチャン減刑ルートを選択した方が良かったのにねぇ…。


「それじゃ、ホイっと♪」


「……うぅ…なんで、こんな事に…」


うんうん、なんでこんな事になったのか、俺としっかりお話しましょうね。


「さて、主人公君。嘘を言わずに俺の質問に答えろ。そしたら答え次第で命は助けてやる」


「旦那様!?」


「魔法使いダメッ…!! シー…!! 答え次第って言ってるでしょ…!!」


「っぐ…!!」


まぁ、主人公(笑)を殺したくて殺したくてしょうがない魔法使いは納得できないわな。

まぁその辺はちゃんと考えてあるから、今は黙ってお口にチャックしといてくれ。


「……本当にか?」


「本当本当、だからちゃんと嘘をつかずに質問に答えろな」


「わかった…」


よし、そんじゃサクサクと話を進めていきますか。


「じゃあ最初の質問な。お前って日本からの転生者?」


「…そう、おっさんと一緒で、日本人だよ…」


やっぱりな。

さっきラノベみたいにとかなんとか、めっちゃ日本人って感じの事言ってましたし。


「どうやって転生したんだ? そこ詳しく」


「…死んだら薄暗い部屋に立ってて、目の前に女神様が居たんだ。そこで異世界を救ってくれって頼まれて、女神様から力を貰う為の儀式をしてから、この世界に転生した感じだよ…」


「なるほど…儀式ってどんな儀式?」


「…? セックスだけど…?」


「マジかよ」


なんだその羨まし…けしからん儀式は。


「…え、まさかおっさんはしてないの?」


俺はそんな不純な儀式なんかしてません。

現在進行形でバリバリ拗らせ童貞のままでございます。

後ろで見ている嫁(仮)の視線が気になるので、そこはキッチリと否定させていただきますね。


「俺は女神になんか会ってないんでね。そんな儀式なんかヤるわけがない」


「じ、じゃあおっさんはどうやってこの世界に来たんだよ!? 勇者の力だって…!!」


「まぁまぁ、その辺は最後に教えてやっからさ。まずは先にお前が女神から貰った力の、詳しい説明をプリーズ」


その力で魔法使いをどうやって洗脳していたのか…俺、気になります。


「…僕の力は、自分の…アレを体内に取り込んだ女を、洗脳できるって感じで…」


「…アレって何よ?」


「…精液」


…キミ、エロゲ風異世界ならガチで真の勇者になれたのに…。

この世界だと俺レベルの戦闘力がなきゃ、勇者なんてとてもとても…。


…いや待てよ?

先代魔王のババアになんとかごっくんさせる事ができれば、ワンチャンあったか…?

うーむ…でも、しわしわなジジイをババアだと見破るのが鬼畜難度だからなぁ…。

股関にも立派なブツが付いてるし…。


「ざっけん、モガァァッ!!?」


「シーだってば魔法使いっ!! 気持ちはわかるけど我慢してっ!!」


嫁(仮)、魔法使いを止めてくれてありがと。


しかしまぁ、初手はお酒に混ぜられてのごっくんか。

強めな酒に薄目の液を混入なら、ちょっと変な味程度で気づかず飲んじゃうのかもね…。

女神から貰った力だから、色々と耐性がある魔法使いでも洗脳できたわけだ。


「なるほど。その力で聖女も洗脳してた?」


「…してた」


やっぱりなぁ。

聖女も最初は俺に対する態度が普通だったような気がするもの。

でもそうなると、1つ疑問が浮かぶね。


「剣聖は洗脳してないんだよな?」


「…してない」


良かった。

嫁(仮)が知らないうちにごっくんしてなくて。

つーか、もし剣聖まで洗脳されてたら、俺辛い旅の途中で確実に心がへし折れてたよ。

洗脳してなくて助かりましたわ。

俺も魔王と敵対してた人類も。


「ちなみに、なんで剣聖は洗脳しなかったんだ?」


「…洗脳するのにも限界があるから。僕の力だと人として格上な魔法使いと聖女に、いくつかの事を洗脳するのが限界だったし、それに……」


「それに?」


「…その、洗脳するのに、定期的に精液を取り込ませなきゃいけないんだけど…。前の剣聖だと、ちょっと、勃ちそうもなくて…」


「ブッ殺ムグッ!!?」


「シーでしょ剣聖」


魔法使い、嫁(仮)を止めてくれてありがと。


まぁ洗脳するのに限界がある上に、定期的に精液注入する必要があるんだったら、そこはセックスで注入したいもんね。

まぁ、ゴリラを除外するのは当然だろうよ…。

嫁(仮)には申し訳無いが、俺が主人公(笑)と同じ立場なら俺もそうしてたもの…。

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