第4-1 偶然か必然か

 修復士

 架空世界のバグを見つけ、違法行為をするクラスZの確保をするのが役目

 とは言え、普段は普通の高校生で宿題もこなさなければならない。


「…」


 架空世界にある棚島 和技わぎの部屋でシャーペン持つのだが、ノートに文字を書き進む事はなかった。


「しっかし、何であんなセコい事するかね。うちらが烙印のハンコ押されたら前科持ちになってしまうのに」


 架空世界とはいえ、事を起こせば罪となる。

 …のだが、それを口にしたのは机の上にいる茶トラの猫だった。


「俺はあんたがここにいるのが『なぜ』なんだが」

「和技ちゃんに癒しを与えようとな。ほら、この前、友達候補の子の記憶消しちゃったし」


 おっさん声で話す猫はノートの上に堂々と横になり、本物の猫のように和技の宿題を邪魔をしていた。


「あいつとは友達にはならない。

 それと中身がおっさんと分かっている以上、癒しにならない。

 そもそも、近所の野良猫を見つけて遠隔操作して来る必要ないだろう」

「和技ちゃんの心を温めるのもの先輩の役目なのだよ。

 今なら腹毛に顔をうずめてモフモフを堪能しても良いぞよ」

「…。さっさと帰れ」


 和技は捕まえようと手を伸ばしたが、それよりも早く茶トラは飛び出し、机からベッドに飛び乗る。


「一瞬とはいえ、モフモフ堪能の誘惑に躊躇したな、若造よ」

「…(一生の不覚)」

「ふふん、帯論さんは知ってるんだよ。未来あっちの部屋にモフモフのホログラムペットがいる事を。名前は…」

「いいから、帰れっ」

「お兄ちゃん、何騒いでんの?」


 ノックと同時にドアが開き妹の七流ななるが部屋に入ってきたが、茶トラ猫は七流の視界に入る事なく、入ってきたベランダ側の窓から退出する。


「ったく、もう」


 何の変哲もない出来事だが、これが騒動の始まりとなった。




「七流、ノックと同時に開けるなよ。普通はノックして、入室許可もらってから開けるもんだからな」


 翌朝、途中まで一緒の登校道を進む中、和技は昨日の不満を言うが、自転車を押して歩く妹は反省することなく、昨日の出来事を口にする。


「それよりも珍しいね、お兄ちゃんが大声を出すなんて」

「…、野良猫が家まで着いてきて追っ払うのに大変だったんだよ」

「野良猫?可愛い?」

「おっさんっぽかったな、態度も声も」

「何だ、じゃあ、いいや。

 あ、まって『特別な人達』になれる項目の一つに動物に好かれると良いと載ってた。お兄ちゃん、こんど見つけたら捕まえて」

「無理言うなよ。野良猫を捕まえられるどころか、猫っていうのは いつ、どこで出会えるのか分からないっていうのに」

「んもう、役に立たないんだから」

「七流には言われたくない。

 そもそも『特別な人達』になりたければ、自分で努力するものだろ」

「努力しているもん」

「例えば?」

「…、情報収集とか」

「他には?」

「……。い、色々やってるの。とにかく、お兄ちゃんが一生『普通の人達』人生を歩んでいる間に七流は『特別な人達』になって特別な人生を歩むの、じゃあね、行ってきます」


 少し気を悪くした妹は、ヘルメットをかぶって自転車に乗ると中学校に向かって走り出した。


「……」


 複雑な気持ちで妹の後ろ姿を見送ってから、和技も高校に向かうため駅までの道を進む。




 毎日、同じ時間に同じ道を進むと、通り過ぎたり同じ道を向かう人達に見覚えが出てくる。

 もちろん、全ての通行人を覚えているわけではない、そんな中で


「………」



 見慣れない学校女子高生がついてくる……ような気がする。

 だいぶ駅に近づいたので、見覚えのない通行人の方が多くなる。


「気にし過ぎかな?

 もしくは困った先輩たいろんさんか?』


 前者でも後者でも、気にする必要はないので、登校を進める事にした。





「……」


 和技は、後方にいる見知らぬ女子高生を確認する。


 もう連続4日も同じ距離を保ってついてきている。


 しかも、この日は記憶操作したクラスメートがその子の隣にいた。


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