ひなぎく

まの

1話目

大学に入ってすぐの話。

見知らぬ男子にナンパされデートの約束を半ば強引に取り付けられたはいいものの、すっかり忘れてクラスの女子に誘われるまま遊びに行った先でばったり会ってしまい、こともあろうに「こんなとこでなにしてるの?」と言ってしまった。直後に約束を思い出して自分でもだいぶどうかしてると思って申し訳なくなり、当然相手は怒ってしまって商業施設の片隅で険悪な雰囲気になったのだが、ツレの女子が「この子あんたに興味なかったんだから仕方ないよ諦めな」と諭すように言い放ち、相手はすごすごと帰っていったのだった。


彼女とはそんなきっかけで仲良くなった。ヴィヴィアンが好きで90’sテクノが好きで、髪の色が毎週変わってピアスの数は数え切れない派手な彼女が、全身ユニクロコミュ障地味女である私になぜ興味を持ったのかわからないが、その日以来私は毎週末クラブに連れ出され、雑誌を読まされ、当時のサブカルチャーのあれこれに触れることになった。


私はその当時、高校時代の元彼との狂った関係に決着をつけられずにいた。自らコントロールが効かないため連絡を取れないように携帯を捨てたり、他の人と付き合うことで距離を置こうとした結果、狭いサークル内で1年のうちに3人と付き合ったりしていた。だがそういう、他の人には呆れられたりなじられるような話の一切合切を、彼女はいつも面白がって聞いた。

彼女は彼女でどうしようもなさを抱えていた。学業をサボり夜通し吐くまで呑み歩き、彼女が一番嫌いな、いつも日の当たる場所で爽やかに笑っているようなタイプの男を捕まえてわざわざ寝ては悪態を吐いた。


彼女の部屋に遊びに行ったことがある。彼女は片付けられない女だった。ゴテゴテのラバーソール、七色のファーでできたマフラー、たくさんのレコードと空になった薬のブリスターと煌びやかな服で遭難しそうな部屋。私が片付ける端から彼女は手伝うつもりでぶち壊しにしていく。そのあまりの無秩序ぶりに最後は笑ってしまって、そのまま二人でキラキラの山に埋もれながらレコードを片っ端から聴いた。


今思えば、私達は自己評価の低さ故に寄り添いあっていた。何かに踏み潰された過去を持ち、何かを踏み潰すことで失ったものを取り戻そうとしている、どうしようもない二人だった。それでもあの日のキラキラを覚えている。多分一生忘れないだろう。彼女が誇るセンスも隠したがる出来の悪さも私は全部まとめて愛していたし、あれほど私をまるごと愛してくれた人もそうはいない。

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ひなぎく まの @manomari

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