第10話
そうして馬車の中で、魔物のことを教えられた。
いや、教えられたというか、もはや布教だった。魔物がいかにかっこいいか、どこが推しポイントなのか。そういう話だったように思う。
が、レジェドやシルフェにとっては過去の話は私に知られるとマズイという認識があったらしく、レジェドが国を滅ぼした際の話のときには、レジェドは必死で「オレ、イイコ! モウヤラナイ!」と私に頬ずりをし、シルフェの穴掘りすぎ事件の話のときには、シルフェが必死で「ボクイイコ! コマルコトシナイヨ!」と私の手におでこを擦り当てていた。
……うん。私に会う前の二人がちょっとやんちゃ(?)だったことは知っている。悪の象徴と善の象徴だもんね。
そして、これまでは知らなかったクドウの話も教えらた。
なんでもクドウは北の皇国で崇められている神鳥らしく、供物を捧げられて暮らしていたらしい。
今のペンギンの姿からは想像がつかないが、もとのアイスフェニックスの姿はそれはそれは美しかった。たしかにあの姿を見れば、崇めたくもなるだろう。
さすが最強クラスの伝説の魔物たち。
今、こうして一緒に暮らしているし、私が人間のルールで過ごしているからか、それを大きく侵すことはない。が、大きな体だったころは、それぞれが自由に過ごしていたのだろう。
「みんなはこれでよかったのかなぁ……」
白いコウモリの話を聞き、素直にそう思った。
みんなは力強く、人間とは別の理で生きている。それが私に手を翳されたために、こんなにかわいい姿になってしまった。
みんなの意思はどうなのだろう。ずっと一緒だと言ってくれたが、本当にいいのだろうか。
思わず言葉を口に出せば、みんなはびっくりしたように目を大きくした。そして、次の瞬間それぞれが私の周りへ集まる。
「オレ、トールトイッショ、一番ウレシイ!」
「ボクモ! 今ガ一番イイヨ!」
レジェドとシルフェが私の手をそれぞれの頭に乗せながら笑顔で頷く。なんて……なんてかわいいんだ……。
感動に胸を震わせていると、クドウが私の膝をぺんぺんと叩いた。
「ワイハ、自分デトールノトコニ来タンヤデ。最初カラソノツモリヤッタシ、トールガ手ヲ翳シタトキモ、頷イタヤロ?」
「うん、そうだったね」
そう。レジェドやシルフェは偶然という感じがあったが、クドウはむしろこちらに会いに来ていたように思う。そして、同意の上でペット化したのだ。
「最初ハナ、オカシナ雰囲気ヲ感ジテ、胸騒ギガシタンヤ。デ、来テミタラ狐ガオッテ、ナンヤ失礼ナコト伝エテクルカラ、ナンヤネンッテ」
「あ、じゃあクドウが来たのはコウコちゃんの力?」
「ワカランケドナ。ドラゴン、フェンリルモ、ソレデ来タントチャウカ?」
どうやら伝説の最強クラスの魔物たちが集まってきたのは偶然ではないのかもしれない。
だが、クドウの言葉にレジェドもシルフェも「うーん?」と顔を捻る。
「ワカンナイ! オレ、イキタイトコロニイク。ソコニ、トールガイタ! ウレシイ!」
「ボクモワカンナイ! ワープシタラ、トールイタ! ウレシイ!」
うん……うん……かわいいね。なにか理由があったのかとかなんでもいっか。私たちは出会って一緒にいる。ハッピー。
笑顔のレジェドとシルフェを抱きしめ、もふもふとすべすべを堪能する。
すると、ザイラードさんが唇に手を当て、ふむと考え込んだ。
「もしかしたら狐かトールに魔物を呼びよせる力があるということか?」
「魔物ヲ呼ビ寄セルノトハチャウヤロナ。ワイラ強イ魔物ガ胸騒ギガスルンヤ。弱イ魔物ダッタラ逆ニ近付カヘンワ」
「なるほど。動物でも強い力があるものがいれば近寄らない。自分の身が危険だからな。近付くならば同じぐらい力があるものが縄張りを確認するためだ。それと同じかか」
「セヤナ。ワイラノ胸騒ギノ原因ハ、狐ノ異質サカモシレンシ、トールノ存在カモシレン。ナンニシロ、コウヤッテ近ヅイタ強イ魔物ハワイラヤ。トールト一緒ナンヤカラ、モウ来イヘン」
どうやら、コウコちゃんの異世界の神の遣いという力か、異世界から渡ってきた私の存在に魔物たちは集まってきたようだ。で、それはあまりいい感覚ではないため、ほかの魔物たちはむしろ私たちを避ける。
レジェドやシルフェ、クドウがやってきたのは、三人が強い魔物であり、その胸騒ぎのもとを確認するだけの力があったからなのだろう。
で、その三人は祈るコウコちゃんの声にイラッとして攻撃しようとした、と。
「この世界には伝説の魔物が四頭いました。それが……すべて……揃いも揃って……。あなたのせいです! あなたが全部こんな愛らしい姿にしてしまった!!」
話を聞いていたイケメンヴァンパイアが私を非難しながら、ワッと泣く。ごめんて。
「では、狐やトールがこのまま暮らしても問題はなさそうだな」
ザイラードさんがほっと息を吐く。どうやら私やコウコちゃんが魔物ホイホイである可能性を考え、心配してくれていたようだ。
私がレジェドとシルフェのかわいさにやられ、思考を放棄している間にもいろいろと考えている。さすがザイラードさん。
「マ、トニカク、ワイラハ自分ノ意志デココニオルシ、自分デトールヲ選ンダンヤ。難シイコト考エント、ワイラト一緒ニオッタラエエネン」
「クドウ……」
きゅーんとした。金色の円の目はいつも通りに光がないが、胸がキューンとした。
心のままに抱き上げて、ぎゅうと抱きしめれば、クドウはグエグエとうれしそうに笑う。
うう……やっぱりこのお腹にはマイクロビーズが詰まっている。私をダメにするクッション……。
「じゃあ、東の村に出た魔物は私たちとは関係ないの?」
クッションの上で丸まっていたコウコちゃんがしっぽを振りながら、こちらを見る。
クドウはそれに「シランケド」と答えた。
「魔物ガコッチヲ気ニシタナラ直接来ルヤロ。ワイラハ人間ト違ッテ、面倒ナコトハセエヘン。直接会ッタホウガ早インヤカラナ」
「そもそもこの国でも魔物の害がないわけじゃない。レジェンドドラゴンやシルバーフェンリル、アイスフェニックスの襲来という国家存亡の危機ほどではないが、魔物に襲われて被害が出ることはある」
ザイラードさんはそこまで言うと、ふと言葉を区切った。
そして、はぁとため息を吐く。
「ただ……マッカンダルの言葉が気になってな」
「あー……」
それなぁ……捨て台詞に明らかに怪しいこと言ってたもんな。「聖女は私でも手に入る!」ってなぁ……。聖女ってそういう存在だっただろうか。そんな木に成るどんぐり的な。
「偶然、東の村で魔物の害が出て、偶然、聖女の噂が立っただけなら、よかったですよね……」
「どちらかは偶然で、あとからこじつけた。あるいはどちらも偶然。最初から二つとも仕組まれた。いろいろと考えられるな」
いかんせん私が聖女であり、魔物を従えているということは公認であり、国全体が知ることとなっている。
そこで魔物が害を出したり、聖女の仕業では? と噂が立つのは困るのだ。私のハッピーライフを阻害している。
「まずは東の村の様子を知り、情報を集めよう」
「ですね。これで終わればそれでいいし、また魔物が出て、聖女の噂が流れるのも厄介ですしね」
なにかできることがあれば、と東の村行きを提案したわけだが、王宮でのマッカンダルの態度を見るに、すべての人が諸手を挙げて私を歓迎しているというわけでもないのだろう。
ならば、より、こうしてなにかしている感があれば、みなも納得し、私が生きやすくなる。よし。
「聖女であるトールが訪れるだけで、村の者は元気になるはずだ。それについては、本当にトールに感謝したい」
「いえ、いえ……そんな。私は自分のためなので……」
ザイラードさんがまぶしそうに私を見るので、謙遜してしまう。
魔物に襲われたという村が、あまり被害が出ていないといいのだが……。
そうして、馬車で話しながら移動し、途中の村で一泊。
そして――
「着きました!」
――到着! 東の村!
「ようこそ聖女様」
「いらっしゃいませ聖女様」
「聖女様っ!」
馬車から降りると、村人たちが花の首飾りをかけてくれる。
まさかこんなに歓迎してくれるとは思わず照れると、すこし離れていた場所にいた男の子が私を指差して「えー!?」と声を上げた。
「聖女様じゃない! 違う!」
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