第20話
キイチゴのカスタードパイ……! メニュー名からすでにおいしさがあふれている……!
でも、初心者には難しそうだ。
「すごくおいしそうなんですが、私でも作れますかね? かなり初心者なんですが……」
「それは大丈夫だよ」
すると、マリーゴさんは私を安心させるように頷いた。
「騎士団長さんに聞いてたからね。聖女様が楽しく作れるようにしようと思ってるよ。ほら、これだよ」
マリーゴさんはそう言うと、調理台に置かれていたチェックの布地をパサァと外した。そこに載っていたのは――
「わぁ……これはパイ、ですね。もう焼けてるんですか?」
「ああ土台を作っておいたんだ。パイ生地を焼いたあと、アーモンドクリームも入れてもう一度焼いたんだ。聖女様にはカスタード作りと飾り付けをしてもらおうと思ってね」
「ありがとうございます。それならできそうです!」
マリーゴさんの気遣いありがたい……。初心者の私でも楽しめる部分を考えてくれている。神……。異世界に神多すぎる…。
心でそっと拝む。
「じゃあ、さっそくカスタード作りだよ!」
「はい!」
私が元気に返事をすると、右肩にいたレジェドが首を傾げた。
「カスタードッテ、ウマイ?」
「うん。おいしいよ。楽しみだね」
そんなレジェドにふふっと笑って返す。
あ、というか。
「レジェドとシルフェって食べるの?」
そもそも論。
一緒にいて、二人が食事を摂っているのを見たことがない。まぁ魔物だしなと思ってスルーしていたが、ちょっと気になる。
すると、レジェドが翼をパタパタと必死に動かした。
「タベル! トールノ、タベル!!」
「食べて大丈夫?」
「ダイジョウブ!」
人間用のお菓子を、人間以外の動物が食べるのは良くないと思うが、魔物だと大丈夫なのだろうか。まあ、レジェドが大丈夫って言ってるんだから、きっと大丈夫だろう。
「それじゃあ、パイができたらみんなで食べようね」
「オウ!」
「ボクモ……! ボクモ!!」
レジェドに笑いかけると、足元からクーンクーンと声がした。
「ボクモイッショ……。デモ、ミエナイ……」
翼があって飛んでるレジェドと違い、白いポメラニアンサイズのシルフェはテーブルの上が見えていないらしい。
蚊帳の外な感じでちょっとかわいそうではある。どうしたらいいかな……。うーんと悩んでいると、マリーゴさんはほがらかに笑って、イスを引き寄せた。
「ほらそっちのかわいいのはここに乗るといいよ」
「ウン!」
「でも、高さが足りないね。ほら、クッションだよ。これならどうだい?」
「ミエル!」
イスの上にはふかふかのクッション。そこに乗れば、ちょうどシルフェがおすわりをするとテーブルの作業が見えるようになった。それがとてもうれしかったようで、シルフェの小さなしっぽがふりふりと揺れる。
うん……うん……よかったね……。
「クッションだと不安定だから、今度うちにある子供用にイスを持ってきてあげるよ。きっとこのかわいいのにぴったりだと思うよ。そっちのかわいいのも落ちないようにね」
「オレ、オチナイ!」
「そうか。じゃあそこで一緒に作ろうね」
「オウ!」
「ありがとうございます……」
優しい……。私に優しくしてくれるだけじゃなく、レジェドやシルフェにもこんなに優しいなんて……。ありがたい。あと、こうして二人に優しくしてもらえると、私の心もほわほわする。こんな気持ちになるんだなぁ……。
ペットを飼ったことがなかったからわからなかったが、揃って優しくしてもらえるととてもうれしい。新発見だ。
「ほら、材料は四つだよ。卵、牛乳、砂糖、薄力粉。混ぜて火にかけるだけ。どうだい? 簡単だろう?」
マリーゴさんがほがらかに笑う。
カスタードを作ってみようと思ったことがないからわからないが、そう言われるとそんな気がする。いや、本当は難しいんだろうが、マリーゴさんの笑顔や言葉を聞くと「やってみよう」という気持ちが高まるよね。さすがお菓子作りの達人。そして、教えるのもうまい。
「よし、じゃあまずは卵をボウルに割るよ」
「はい!」
そうして、マリーゴさんに教わって、カスタード作りスタート!
割った卵を黄身と白身に分けて、黄身のほうを使うらしい。計っておいた砂糖と混ぜると、鮮やかな黄色から白っぽくなってくる。
「うん。なかなかいいじゃないか」
「へへっ」
要所要所でマリーゴさんが褒めてくれるので、照れ笑いが止まらない。楽しい……! お菓子作りって楽しい……!
「次は粉を入れるよ。そうしたら軽く混ぜるだけでいいからね」
「こう……ですか?」
「ああ、それで十分だ。ほら、こっちで牛乳を温めるよ」
お菓子作りはいろいろと計るものが多い。そして、一つ一つの作業にこっそりとコツがあるようだ。マリーゴさんが簡単そうに言うし、こうしてタイミングを見てやってくれているからスムーズだが、一人でやるとてんやわんやになりそうだ。
「牛乳はこれぐらいの温め方だよ。ふつふつし過ぎる前にね」
「沸騰する前……なんですね」
「さ、これをさっきのボウルにゆっくりいれながら混ぜるよ!」
卵と砂糖、薄力粉を混ぜたものに、温めた牛乳を入れていく。少しずつ入れながら混ぜると、ほぼ色も匂いも私が知っているカスタードと一緒。でも、あのもったり感はない。
「まだ、さらさらなんですね」
「ああ。これを鍋て温めながら混ぜると粘りが出てくるんだよ」
「そうなんですね……」
お菓子作りってミステリー……。
「ほら、あんまり火が強いと焦げちゃうよ!」
「あ、はいっ!」
マリーゴさんに見てもらいながら、鍋の中身を木べらでぐるぐると混ぜながら火にかけていく。すると、だんだんと木べらをかき混ぜるのに力がいるように変わり……。おお……本当にもったりしてきた!
「よし、いいじゃないか!」
「おお……!」
マリーゴさんが親指をビッと上げる。鍋の中にはなめらかできれいな淡黄色。クリームだぁ……。
すごく感動する。
マリーゴさんにたくさん助けてもらったので、一人で作ったとは全然思えないが、これが私のカスタードクリーム……!
「じゃあ、これを冷やしている間に、上に載せるキイチゴを準備しよう。せっかくの採れたてのキイチゴがこんなにあるからね。たっぷり飾ろうね」
「はい!」
「ほら、みんなでどれを飾るか選んでごらん」
マリーゴさんに言われ、私とレジェドとシルフェでキイチゴの入ったカゴを覗く。
「これが大きくていいかな?」
「オレ、コレガイイ!」
「ボク、コレ!!」
大きいのや形がいいやつ、赤色がきれいなヤツ。レジェドとシルフェと話しながら決めていけば、気づけばいっぱい選んでいた。
「あ……ちょっと多すぎましたかね……」
調子に乗ってしまったかも……。
でも、マリーゴさんは大丈夫! と笑ってくれた。
「全部盛り付けよう! 豪華でいいじゃないか。さあ、カスタードも冷めたから、パイに絞っていくよ」
「はいっ!」
さあ、飾り付けだ!
マリーゴさんが作ってくれていた土台にさっき作ったカスタードクリームを絞っていく。初めてなので下手くそだったけど、マリーゴさん曰く、上にキイチゴを載せるからちょっとぐらいの失敗は問題ないらしい。
そして、レジェドやシルフェとともに、選んだキイチゴをたっぷり載せていった。最後にミントの葉を載せれば――
「うん! おいしそうじゃないか!」
「ウマソウ!」
「オイシソウ!!」
――完成!!
「きれい……」
採れたてのキイチゴが赤く輝いている。
さりげなく飾ったミントの緑色も映えて、これはもう完璧。
「キイチゴのカスタードパイ。できました……!!」
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