第7話
「なるほど。わかった。私は魔物をペット化できる」
一人で呟く。ピンと来たね。これはもはやそういうことだ。
レジェンドドラゴンが小さくなったとき、ザイラードさんは私の力だと言っていた。そして、私はそれをまったく信じていなかった。
当たり前だ。こんな平凡な会社員が手をかざしたら、ドラゴンが小さくなるなんて考えられない。0信10疑が世の理だ。
が、ちょっとこのポメラニアンについては、私のせいかもしれないと感じた。タイミングもあるし、目の前で美人な女子高生が祈ってもうんともすんともしなかったが、私が手をかざしたらこうなったからだ。さすがにこれは私の手のかざしによるものな気もする。7信3疑ぐらいになった。3疑あるのはあれだ。やっぱり意味が捕らえ難いから……。
「聖女様だ……」
だれかがそう零した。
そして、それがさざ波のように広がって――
「救国の聖女様だ!」
「救国の聖女様が魔物を浄化してくださった……!」
「聖女様!」
「聖女様……!」
口々に歓声が上がる。
その視線の先にいるのは――私だ。
「あ、いや、これは、聖女とかではなく……」
なくね? 魔物をペット化できる聖女ってなんぞな?
「なんて慎み深い聖女様だ……!」
「国の窮地を救ってくださった……!」
「レジェンドドラゴンも聖女様の力だったのですね!」
周りの視線が熱い。
それに私はたじろぎ、一歩後退した。
「あ、いや……えっと……」
こういう視線には慣れていない。
そう考えると、さっきまで聖女様! と言われていた美人な女子高生は胆力があるな。……って、そう。休暇申請した女子高生どうなった? 私が持ち上げられてしまっているが、大丈夫?
気づいた私は美人な女子高生のほうを向いた。そこには――
「ゆるさない……」
……わぁ。美人って怒っても美人だなぁ……。
「私が聖女なのに……!」
悔しそうにつぶやいた言葉と、涙がうるっと溜まった目。
美人な女子高生の隣にいた、きらびやかな衣装の男性は私と彼女を交互に見て……力強く頷いた。
「こちらが救国の聖女様だ!!」
堂々とした発言。きらびやかな男性は、美人な女子高生を救国の聖女だともう一度主張した。
が、その言葉により、歓声を上げていた周りの人はシーンと静まり返る。
そして、小さくボソボソと聞こえたきたのは、呆れたような口調で……。
「……ありえないだろ」
「よく考えたら、レジェンドドラゴンのときだって、なにかしたのを見たわけじゃないしな」
「今だって、なにもしてない」
「こちらの聖女様がドラゴンを使い、シルバーフェンリルを退け、さらに浄化までしてくださったのに……」
「不敬じゃないか?」
不穏。とても不穏。
私が自分で自分がやったのかもな? と思い始めたように、周りから見ても、明らかに私がなにかしたように見えたのだろう。
しかも、ザイラードさんは最初から私が聖女であると言っているし……。
私は魔物を小さくしただけなので、救国の聖女であるとは思わない。そして、美人な女子高生がこれほど自信たっぷりに主張するのだから、彼女が救国の聖女の可能性はあるだろう。
が、このタイミングは良くない。
なにかを認めてもらうなら、成果がないと難しいよね……。
「……眠りたい」
とにかく今は、なにも考えたくない。
周りからの熱い視線も、美人な女子高生からの敵意の視線も、きらびやかな男性のなんだお前はという視線も浴びたくない……。
「ネタイノカ?」
「ボク、ダッコスル?」
右肩のドラゴン。足元のポメラニアン。うん。かわいい。
「抱っこする」
足元の白いふわふわの塊を抱き上げる。
全体的に毛がほわほわとしていて、あたたかい。そのまま胸に抱きしめればちょうどいい重みがすっぽりと収まった。
はぁ……これは癒される……。
「私たちは王宮へと帰る! ……おい! お前も来るか!?」
ああ……きらびやかな衣装の男性が私に声をかけた気がする。聞きたくないから、ポメラニアンをもう少し上に持ち上げて、そのお腹にもふっと顔を埋もれさせた。はぁ……癒される……。
「クスグッタイヨ」
「あ、ごめん」
クスクスと笑ったような声が聞こえて、お腹から顔を上げる。
すると、ちょうどザイラードさんが私の隣へと立った。どうやら、私ときらびやかな衣装の男性の間に入ってくれているようだ。
「彼女はこちらに残りたいとの希望だ。今回の件に関しては、すぐに報告を上げさせてもらう」
「……勝手にしろ!」
その声を最後に多くの足音が遠ざかっていく。
たぶん、きらびやかな衣装の男性と美人な女子高生、王宮軍がいなくなったのかな?
状況把握をしていると、そっと優しい声が聞こえて――
「休める場所へ行こう。疲れていると言っていたのに、遅くなってすまない」
――見上げれば、きれいなエメラルドグリーンの瞳。
神……。
私は心で拝んだ。
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