第18話 そして、天木華蓮になる その2

 それを聞いた十八とおやは、かなり動揺する。

華蓮かれんさんのお父さんて、結構堅い人なの?」

「ちょっと昔気質むかしかたぎで、スジの通らないことを嫌うところはあるけど、頭の堅い人ではないと思うよ」

「そ、そうなの?でも、今回は結婚より先に子供を作っちゃうような男が来るんだから、スジが通ってない気がしない?」

「ソ、それはそうだけど、半分は私のせいでもあるんだから、十八クン一人のせいにはしないよ」

「ありがとう~でも、お父さんて大工なんでしょ?いきなり木槌とかで殴られたたりしないかな?」

「だ、大丈夫だと思うよ……たぶん」

「た、たぶんか~」

 そんなやり取りをした数日後、二人で如月きさらぎの両親に会いに行った。

 和室に通され、座卓を挟んで両親と向かい合う。

「は、初めまして、華蓮さんのお父さんとお母さん。天木あまぎ十八と言います。本日はお時間をいただきありがとうござます」

 人前で話すことに慣れた十八でも、この時はかなり緊張したが、そんな十八に彩女あやめは笑顔で応える。

「初めまして、十八さん。華蓮から話は聞いてたけど、聞いてたよりも男前ですねェ」

「エ?あ、いえ、そんなことは……」

「いえ、ホントよ~若い頃のお父さんにそっくり。ね、お父さん」

 そう言って、彩女は五郎ごろうに話を振るが、五郎はジッと十八の顔を見るばかりで「ああ」と生返事をするだけだった。

 彩女も華蓮も少し苦笑し、十八は大いに冷や汗をかく。

(お父さん、メッチャ怒ってる、のかなァ?)

 大工と聞かされていた華蓮の父・五郎を初めて見たとき、十八はどう見ても大工と言うより、ヤクザの親分では?という印象を受けた。

 上背も厚みもある大柄な体で、角刈り頭に一重まぶたを持った、たいそう貫禄のある人だったからだ。

「お父さん、あんまりジッと十八クンをにらまないでよ。十八クンが緊張するから」

「ンン?ああ、にらんでるつもりはなかったが、そうだな。失礼だったな、すまねぇ」

 十八が来てから初めて、五郎がそう話したので、重かった場の空気が少し和らぐ。

「お茶とお菓子の用意をしてますから、少し待ってて下さい」

 彩女も気を利かせて、イイ空気のままお茶会に持ち込むことにした。

 それから四人で、といっても、五郎はほとんど話さなかったかが、しばらく雑談に興じた。

 十八のこと、華蓮のこと、彩女や五郎のこと。お互いに知らないことを知り合って、距離が少し縮まった。 

 そして、話がふと一段落し、十八と華蓮がソッと目配せする。

 すると、十八は少し居住まいを正し、緊張した面持ちで向かいの二人を見つめた。

「華蓮さんのお父さんとお母さん、事前に華蓮さんから聞いているとは思いますが、今日は大事な話があって参りました」

 そんな十八の様子に、五郎と彩女も同じく姿勢を正した。 

 それを見た十八は、いま自分が座ってる座布団から下り、座卓の側面へ移動すると、畳の上で正座する。そして、両手を畳に付けると、二人を見ながらはっきりと告げた。

「華蓮さんと結婚したいと思ってます。どうか華蓮さんを、娘さんを僕にください。お願いします」

 言い終わると、額が畳につくほど深く頭を下げる。

 彩女の方はすぐに顔をほころばせ、目尻にも少し涙をにじませて喜んだが、五郎の方は姿勢を変えず、しばらくジッと平伏する十八を見つめた。

 横で見ていた華蓮も、お父さんは無茶なことは言わないだろうと思いながらも、固唾を飲んで二人を見守る。

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