第79話 弟子二人、修行開始
◆
翌日。中庭にはクロア、ウィエル、ミオン、ネプチューン。それとガチガチに緊張しているドーナがいた。
「あなた、これはどういう……?」
「うむ。なんやかんやあって、彼を一ヶ月限定で俺の弟子にすることにした。ミオンちゃんからしたら、初めての弟弟子だな。ドーナだ」
「どどどとどどなどなどなドーナ、です! よよよよよよろしくお願いします!」
緊張しすぎて呂律が回っていない。
それもそうだ。今まで女性に縁がなかったのに、いきなりこんなに飛び切りの美人に囲まれている。その上、一人は忠誠を捧げているネプチューンだ。緊張するなという方がどうかしている。
ミオンは頭痛がする頭を抑え、改めてドーナを見た。
「えっと……ドーナさん、でしたっけ?」
「お、押忍! よろしくお願いします、姉弟子!」
元気に挨拶をするドーナ。
そんなドーナを見て、ミオンは苦笑いを浮かべた。
(地獄に出荷されたんですね……なんて言えません)
「姉弟子? 今なんと……?」
「いえいえ、お気になさらず」
言ってしまったら逃げるかもしれない。この地獄に一人はキツすぎる。
ミオンは違和感のある笑みを浮かべ、ドーナは薄ら寒いものを覚えた。
すると、ネプチューンはドーナを見て、ポンっと手を叩いた。
「おお、見たことがあるな。確か国王軍の一兵卒……そうか、ドーナというのか。覚えておこう」
「きょきょきょきょ恐縮です!!」
まさか自分のことを知っていてくれるとは思っていなかった。
余りの事態に、ドーナの思考はドロドロに溶けていた。
流石にこのままじゃ修行にならない。
クロアはそっとため息をついて、手を叩いて注目を集めた。
「というわけで、今日から修行は二人になる。こんな機会は中々ないからな。互いにしっかり励むように」
「押忍!」
「……はい」
どんな事情があるのかわからないが、ドーナのテンションは高い。
……これから待ち付ける地獄が待っていると知らずに。
「ではまず、基礎体力作り。ミオンちゃんは身体強化魔法禁止で、全力ダッシュで中庭を走り込み」
「押忍!」
(あれ? 意外と普通……)
「俺が後ろから追いかける。捕まったら拳骨な」
「え゛っ」
「ですよね」
普通じゃなかった。全然普通じゃなかった。
「とりあえず体力が尽きるまで走れ。尽きたらウィエルが回復させる。それを日が暮れるまでだ」
「クロア様、水分休憩は……?」
「ふむ……五秒でいいか?」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!? 姉弟子、なんか毒されてません!?」
「こんなものですよ、ドーナさん」
むしろ五秒もくれるだけありがたい。
修行方法によるが、休憩ゼロというのもザラだ。
深い闇を感じる漆黒の目に、ドーナは内心後悔していた。
頼む相手を間違えた、と。
◆
「ひぎいいいいいいい!?!? 無理無理無理! 怖い怖い怖いいいいいいいい!!!!」
「ドーナさん黙って走る! 殺されますよ!」
「はいいいいいいい!!」
全力で逃げまるミオンとドーナ。
その後ろを追いかける、
以前に見せた、質量のある残像である。
「待て待てー」
「捕まえちゃうぞぉー」
これほど嫌な「待て待てー」は、全世界を見てもここだけだろう。
クロアは、二人の全力疾走にしっかりついて行く。
このスピードを僅かでも落とせば、拳骨が待ち受けている。
死なないとはわかっていても、絶対嫌だった。
そんな三人(四人?)を、ウィエルとネプチューンは紅茶を飲みながら見ていた。
「楽しそうだのぅ。余もクロアと追いかけっこしたいのだ。そして捕まり、逆らえぬほどの力で押さえつけられ……ぽっ」
「言っておきますが、旦那様は力で女性を手篭めにするような人ではありませんからね。あの人はお優しいのです」
「だがウィエルよ、考えて見ろ。性欲が爆発し、獣となったクロア……そそらんか?」
「…………ごくり」
つい想像してしまった。そんなことあるはずもないのに。
だが、いい。そう思ったのも事実だ。
そして、そんな二人のやり取りが聞こえてしまったミオンも、頬を赤くして僅かに足がもつれ──ガシッ。
「つ、か、ま、え、た」
「ヒッ……!?」
クロア(本体)に捕まってしまい、全身から血の気が引く。
その姿を横目に見てしまったドーナも、恐怖によってスピードが弱まり──ガシッ。クロア(分身)に捕まった。
「歯ァ食いしばれ」
「げっ……!?」
ゴスッ!!!! ガスッ!!!!
「「ほぶっ──!?!?」」
一瞬にして意識が刈り取られる二人。
直後、ウィエルが回復魔法を使ったことで、二人は直ぐに目を覚ました。
「さあ」
「続きを」
「「始めよう」」
「「ぁ……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」」
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