第44話 勇者の父母、惚気ける

 紹介状をホテルのコンシェルジュに渡すと、流れるように案内される。

 地上六十五階、地下五階の超高層ホテル。その最上階だ。

 最上階には転移の魔法陣で移動するのだが、専用の魔法陣が付与されたカードを持った人じゃないと入れない仕組みになっている。

 ルームサービスも何もかも最高クラスで、流石のクロアとウィエルもこんな所に来たことがない。

 広大なリビング。

 バスルーム二つ。

 寝室二つ。

 団欒室。

 バルコニー(魔法による風よけ付き)。

 他にも室内プールは勿論、飲み放題のワインセラーまである。



「とんでもないな」

「流石王族、と言ったところでしょうか。こんな所をポンと用意してくれるだなんて」

「はわっ、はわわわわわ……!? た、高いですっ、凄いです……!!」



 いつもは冷静なクロアとウィエルも、今ばかりは気分が高揚しているみたいだ。

 ミオンはバルコニーから身を乗り出し、大興奮の様子。

 下には薄らと透明の膜が張られている。魔法による落下防止策だ。

 下にはビーチや海が広がり、遊んでいる人々や船、ボートが小さく見える。



「あそこのビーチで遊ぶんですかっ?」

「ああ。まあちょっとした訓練もしてもらうが」

「……してもらう、って?」

「歩行だ」



 …………。



「え?」



   ◆



「わきゃっ!?」



 ザパァッ!!



「けほっ、けほっ。うぅ、しょっぱい……! 噂に聞く以上にしょっぱいです……!」



 海に頭まで浸かり、涙目で咳き込むミオン。

 そんなミオンを、二つの影が見下ろした。

 当然クロアとウィエルなのだが……ここは海の上。しかもかなりの沖合だ。

 ミオンはゆっくりとそれを見上げる。

 そこには、海の上に立っている、、、、、、、、、絶世の水着美女と、ゴリゴリのマッチョがいた。

 優雅に佇むウィエルの肉体のなんと美しいこと。

 白い肌に黒いビキニが映え、普通の水着なのに艶めかしく見える。同性でも見とれてしまうほどだ。

 クロアの肉体は、文字通りゴリゴリ。

 ピッチリめの海パンだが、こんな人がビーチにいたら、怖すぎて誰も近寄らないレベル。


 そんな二人に圧倒されるも、ミオンはムスッとした顔をした。



水上歩行、、、、なんて、普通魔法が使えたとしても出来ないと思うんですけど」

「私が出来てるじゃないですか」



 ぐうの音も出ない。

 でもウィエルが特別だと思うのは気のせいだろうか。



「コツは脚全体ではなく、足の裏に魔力を溜めることです」

「うぅ。普通に遊びたい……」

「五秒立ってることが出来たらいいですよ。ほら、もう一度」



 ウィエルがミオンの手を取り、持ち上げる。

 ミオンの水着は青のモノキニタイプだ。

 年齢相応の体型だが、運動量が桁違いだからか全体的にスラッとしている。

 ウィエルも、ミオンの水着姿を見てちょっとドキッとしたくらいだ。



「はい、どうぞ」

「足裏、足裏、足裏……!」



 念仏のように唱え、足裏に魔力を集める。

 が。



「にきゃっ!?」



 一秒も経たず、また海に沈んで行った。



「出来ないですー! 無理でーす!」

「繊細な魔力コントロールが必要な技術です。これが出来れば、かなり使える魔法の幅が広がりますよ」

「ぐぬぬ……! ……ん?」



 そこで気付いた。ウィエルは魔法を使ってるから、海面に立っているのはわかる。

 だが魔法を使えないクロアも立てているのだ。



「あの、クロア様。何故クロア様も海面に立てているのですか?」

「よく足元を見ろ」

「え? ……んん?」



 よく見ると、海面が僅かに波立っている。それに、少し足が震えているような。



「超高速で足を動かして、水を固めて立っているんだ」

「嘘やん」



 いよいよクロアが人類かどうか怪しくなってきた。元からだけど。



「いやー、懐かしいですね。昔、二人で一日中海面散歩をしたことを思い出します」

「だなぁ。周りに灯りがないから、満天の星空が綺麗で」

「そこでファーストキスしたんですよね」

「そうそう。ウィエル、意外と大胆で焦った」

「そ、それは忘れてくださいっ!」



 唐突にイチャイチャしだした。

 そんな二人を見て、ミオンはジト目でゆっくり海に沈んでいったのだった。

 やってられるか、という意味を込めて。

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