01巻後書き

01巻感想

 以上が十八史略第一巻、秦の統一までとなります。なお始皇帝の事績はたとえ統一前でも二巻にあるので、一部先走りで掲載しました。


 さてこの十八史略紹介、実は大目的がありました。いや春秋戦国ことはじめでも語ってますが……「春秋戦国わからん! 特に春秋! ココのガイドラインがほしい!」。このついでに宋まで追っていこう、と考えていたのです。


 ところが。ところがだよバディ。

 一通り読んで、結論です。

 春秋わからん。


 いや大雑把にはわかったけど、到底出来事と栄枯盛衰を結び付けられるレベルじゃありません。なにこれ。なめてんの?


 代わりに何がわかったかって、曾先之の意図、というよりは思いの丈です。


 ここで曾先之について書いておきましょう。彼は南宋において北から迫りくる金と戦い抜いた名将、岳飛と同時代のひとです。つーかマブダチだったそうです。となると、思想の根本には「夷狄はクソ。どうにかしてこいつを退けるというか、なんなら滅ぼさねばならない」がありそうなのですよね。秦の統一事業、そして崩壊は、そういう価値観に基づいて評価されたのでは? と感じざるを得ず。


 十八史略一巻のラストには、曾先之による後書きが附されています。雑にまとめると、「中華の後継者ども、おめーらがふがいねーから秦なんぞに駆逐されたんじゃ!」となります。実際に構成を見てみると、偉大なる周の統治が緩んできたことにより春秋の混乱が作り出され、「その結果秦の横暴を招いた」とでも言わんばかり。


 不思議だったんですよね。春秋五覇の扱いが、なんであんなに雑だったのか。特に宋の襄公と晋の文公。あの書かれ方で名君って思うのは無理にもほどがあるでしょう。と言うかなんで襄公入れたの? ってなもんです。けどその辺も、登場人物の世代をまとめることで見えてくるものがありました。


 十八史略において、春秋時代についてはほぼほぼ春秋五覇、孔子周り、そして戦国への道筋までしか書かれていません。つまり「衰えた周室を春秋五覇がまともに補佐することもなく、以降世は乱れてゆき、あの孔子ですらその流れを止めることは叶わなかった。かくして戦国の世を招き、最終的に蛮夷の秦に統一を許してしまった」が、曾先之的春秋戦国まとめとなります。昭襄王以降の描かれ方がマジ魔王。


 秦の強国化を招いた商鞅の改革も「三皇五帝以来の伝統的価値観を破砕した」くらいの感じで書かれております。これの見方を変えましょうか、たぶん、こうです。


「いま我々は金に圧されている。しかし奴らは古来よりの伝統を尊ばぬ蛮族である。そのような者共に中華を侵すことなぞできぬ。仮に侵したとて、その邪悪な支配には早晩の天罰が下されよう、そう、かの秦のように」。


 この考え方は五胡、五代あたりでも顔を出してきそうですね。そしてその究極が宋の時代に示される、と。うーん、そうなるとこの辺、日本における攘夷思想にかなりの影響を与えたんじゃないかしら。


 ○  ○  ○


 本作ではテーマの都合上、基本的に「自分の歴史観」は表に出さずに進めていきたいと思っています。が、さすがにここではちょっと書いておきます。


 周の東遷から漢に至るまでの動乱は、「周型支配が機能不全に陥った」に過ぎず、そこに人為がどうこうと語るだけ無駄、と認識しています。まぁ「周型支配ってなんやねん」って聞かれたら答えられないんですけどね。


 ともあれ人為が叶うのは、その状況に即した最適解を模索する、程度。しかもそいつを見つけるにあたって、ふっつーに数世紀分のトライアル&エラーを繰り返さなきゃいけない。こいつはどんだけ人間が偉大だと説きたくても、その偉大な人間が周末以降の 500 年、漢末以降の 450 年、新たな価値感の創出にあたって悪戦苦闘を繰り返した事実を引き合いにすれば反論ができてしまうでしょう。


 人間は、地球に対して対症療法的にしか動けんのです。にもかかかわらず、この当時の歴史記述においては、人為が天地を動かすかのごとく表現されることが多い。このへん、十八史略を読んでも「歴史の趨勢は人為こそがすべて」的に語られているよなーと思うのです。人為によって天地が動くとか、どんだけ思い上がっとんねんってゆうね。


 今は様々な気象研究から、当時の気象状況とかも占いやすくなっています。人間だから人為しかできないし、その意味で人為が大切なのは、もちろんそのとおり。けど、うまくその裏にある地球ちゃんの気まぐれを見出していきたいもの。「そいつに対して右往左往する人間」たちこそが、偉大。


 そういう観点を落とすことなく、偉大なる先人たちの人為を追いたいものだと思っています。

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