01-14-04 燕十 荊軻

 こちらでは荊軻けいかの話をまとめておこう。前話の通り、荊軻は始皇帝しこうてい暗殺のために地図と樊於期はんおきの首を所望した。


 しかし姫丹きたんは返事を下しきれない。そこで荊軻は自ら樊於期の元に赴き、「将軍の首を秦王に献上すれば、やつは喜んで私に会おうとするでしょう。そうしたら左の袖を捕まえ、右手に持ったナイフでその胸をえぐってみせましょう。そうすれば将軍が受けた恥も、燕が受けた屈辱も晴らせるのです」と言う。それを聞き、樊於期は自らの首を刎ねた。

 樊於期自殺の報を聞き、姫丹は慌てて駆けつけ、号泣。それから豪華な箱に樊於期の首を収め、また燕でも指折りの優れたナイフに毒を焼き付けさせた。人で試してみたところ血が一筋流れ出すまでに相手は死んだ。それを荊軻に授けた。


 始皇帝暗殺のため出立した荊軻、燕の国境である易水えきすいにたどり着くと、歌う。


 風蕭蕭兮易水寒

 壯士一去兮不復還

  ひゅうと吹く風、

  易水の冷たい水。

  壮士はひとたび発てば、

  もはや戻ることはあるまい。


 このとき白い虹が太陽を貫き、燕人は不吉な報せと怯えた。秦の都「咸陽かんよう」についた荊軻は始皇帝しこうていに引見を果たす。大喜びの始皇帝の前で、荊軻が地図を開く。その中には例のナイフが隠されていた。荊軻は王の袖を捕らえこそしたが、その身体までには及ばない。始皇帝は驚いて袖をちぎり、柱にまで逃げる。

 秦の法律では、殿中ではナイフをも帯びてはならぬことになっている。なので近侍は素手で荊軻を捕まえ、唯一剣を持っている者=始皇帝自身に荊軻を斬るように言う。そしてその剣が荊軻の左太ももを切る。荊軻は自らの持っているナイフを始皇帝に投げつけたが、当たらない。こうして荊軻は八つ裂きとされ、見せしめとされた。

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