覚醒
次の日もマリは部屋に来て女教育を始めた。だが昨日とはオレとは気持ちが全然違う。マリの小言が一つ出るたびにオレはムチの恐怖に震えた。マリの小言の一つ一つがすべてムチになるのは教えられたからだ。
オレは必死なんてものじゃなかった。なんとかマリの小言が出ないように全力で女らしく振舞おうとありったけの神経を注いだ。昨日や一昨日にマリの小言をもっとちゃんと聞いておかなかった事を後悔したぐらいだ。
だがオレがどんなに頑張ってもマリの小言は減る様子もなかった。それでもだ、昨日より格段に良くなったはずだ。夕食が終わり反省の時間が始まった。マリはオレの失敗点をこれでもかと並べ立て、
「服を脱ぎなさい」
ムチが来る。今日こそ殺される。オレはあらん限りの力を使ってマリに抵抗した。しかし、
「無駄です。これで反省が増えました」
オレは壁に向かって絶望の姿勢をあっさり取らされてしまった。
『ビシッ』
まだ昨日の痛みは嫌というほど残っている。一発目からオレは絶叫を上げ泣き叫び、ひたすら許しを請うた。マリはなんの容赦もなくオレを打ち据えて行った。何を言っても、どんなに泣き叫んでも叩かれ続けた。
夜は昨夜以上の苦痛だった。生きているのが本当に不思議だ。だがこのままでは明日も同じぐらいのムチを喰らう。この調子なら明日にも死んでもおかしくない。生き延びるための方法を必死で考えに考えた。
マリのムチを逃れるには、マリにオレの女としての振る舞いを認めてもらうしかない。そう考えて、オレなりに精いっぱいやったつもりだったが効果はなかった。このまま明日も同じことをしてもムチが来る。
とにかくマリの教えてくれる事を一つでも聞き逃すとムチ、聞いても即座に出来なければムチ、反抗的な態度なんて見せようものなら論外にムチ。さらに出来たはずと思ってもムチだ。
マリの目的はシンプルだ。オレを女らしくすことだ。それ以外にないが・・・そうか、女らしくじゃダメなんだ。女にならないといけないんだよ。女らしいふりをしているだけじゃ、マリのムチは変わらない。それがきっとマリの合格基準のはずだ。
だがどうしたら良いんだ。女らしいふりと、本物の女のふりのどこに違いがあるんだよ。あれかな、心が行動に表れるってやつ。謝る時にも心から謝ってない奴はすぐにわかった。だったらオレの心を女にすれば良いのか。
だがオレは男だ、女じゃないしなる気もない。ダメだ、ダメだ、ここで開き直ってもマリのムチが来るだけだ。それも痛いだけじゃない、殺される。オレは死にたくない、女の体にされても生きたいんだよ。
オレはもう元男だ。女として生きるしかないんだよ。生きるためなら元男のプライドなんぞクソ喰らえだ。身も心も女になってやる。不思議だ、そう考えたら痛みが少しマシになった気がするぞ。
とにかく生き残るための答えは女の心になることだ。でもどうやったらなれるんだ。何から始めれば良いのだ。何もしなければムチが来る。考えろ、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ。心だよな、心ですることはなんだ、考える事だが・・・
そうだ言葉だ。男であるのを捨てるために心の言葉を変えよう。今の心の言葉は、男言葉で考えながら出してるからムチになってるはずだ。心の中で考える時にも女言葉にしないとならない。そうなるとオレはやめるとして、自分のことをどう呼ぶかだ。ここは思い切ってマリに付けられた、
「アリサ」
こう呼ぼう。やってみるか。アリサは女言葉で考え、女の心で生きていきます。違和感の塊しかないが、やらなきゃ、ムチでマリに叩き殺される。これではダメだ、アリサはマリに叩き殺されてしまうかもしれないだ。
アリサが・・・気色悪いが生きるためだ。女言葉で考えられるようにすると確実に手ごたえはあった。男言葉で考えた時は一〇〇%ムチだが、女言葉の時はそれなりの回数でマリは認めてくれる。それも女言葉で自然に考えた時の方があきらかに効果がある。
ひたすら男言葉を頭から追い出したし、男であった事を忘れ、生まれつきの女であると思い込むのに必死だった。それしかマリに認めてもらい生き残れる道がないからだ。マリの言葉、教えられる事を死に物狂いで身に着けた。
日に日に男言葉で考える時間が減り、女言葉で考える方が自然としか思えないようになって行ったし、名前だってアリサが気に入ったし、なにより体が女であるのが嬉しくさえ思えてきた。
ムチの数は確実に減っていった。ムチが減ったのは嬉しいけど、それ以上にマリに認めてもらうのが嬉しくなっていた。そんな時にマリから、
「だいぶわかってきましたね」
この言葉を耳にした時に体に衝撃が起こった。まさにこれは衝撃。心の中の何かが消え去り、さっと塗り替えられた感覚。そうわたしはアリサ、アリサ以外の何者じゃないってね。マリに初めてもらったお褒めの言葉はアリサを完全に変えてくれた。
ちょっと間違えちゃった。マリなんて呼んだら心の中でも罰が当たるよ。マリ様だよ。これだって呼ぶんじゃなくて、呼ばせて頂いてるの。それぐらいアリサはマリ様を尊敬してるんだ。
アリサはね、なぜか男言葉で考えちゃってたのよ。どうしてそうしてたかは、わかんないけど。なぜかそうしてたんだよね。それをね、マリ様が直して下さったの。これを尊敬せずにいられないじゃない。
そうなんだよ、アリサはしゃべらないといけない言葉をマリ様のお蔭で取り戻すことが出来たんだ。アリサの女言葉? そりゃ、もうバリバリに完璧よ。男言葉なんて使おうと思っても絶対無理。
うん、これこそがアリサだよ。ちょっと苦労したけど、その分、嬉しくて、嬉しくて。でもね、マリ様のムチを頂けなかったら無理だったかもしれないかも。そうしたらね、マリ様はムチが終わられた時にアリサに、
「ありがとうございました」
こうお礼を言うように仰られたの。初めの頃は言うどころの状態じゃなかったし、やっと言えるようになっても、今から思えば心が籠ってなかったと思うんだ。それが今では感謝の気持ちを込められるようになってるんだ。
もちろんここまで来るまでに、いっぱい、いっぱいマリ様にムチを頂いたんだ。どれだけかかったかなんてわかんないよ。でも、今では胸を張って言えるんだ。そうだ、そうだ、信じられないけどアリサは昔に男だった気がする時があるの。
たまに思い出そうとするのだけど、なかなか思い出せないんだよね。これも、ちょっと前までは、忘れてはいけないと思ってたみたいだけど、なんか今はどうでも良い感じがする。だってアリサは女だし、思い出したってしょうがないもの。きっと何かの勘違いよ。
今日もマリ様はアリサの至らないところを見つけて下さるし、アリサのためになることを教えて下さるんだ。でもアリサはバカだから、マリ様の言う通りに出来ないことがたくさん出来ちゃうの。
これってみんなアリサが悪いからだよ。悪いアリサには反省が必要じゃない。そうちゃんと反省しないと立派な女になれないもの。
『ビシッ』
痛いよ。そりゃ、涙がにじみ出るほど痛いよ。でも、これって当然じゃない。アリサが悪いんだし、そんなアリサを教育してくれているマリ様には、もっともっと悪いことしてるんだもの。
これは罰だけど、ぜ~んぶアリサのためにしてくれていることだもの。罰を与えてくれるマリ様には感謝するしかないじゃない。
「ありがとうございました」
アリサはこうやってマリ様にムチを頂けるのをホントに、ホントに感謝してるもの。だってマリ様のムチがなければ、アリサは悪い子のままだったもの。アリサはね、マリ様に色んな事を教えて頂いて、マリ様に認めてもらえるのが嬉しくて、嬉しくて仕方がないの。
だからここの暮らしは最高なんだ。ここはアリサの知らない事を教えてくれて、アリサを立派な女にしてくれるところだもの。こんな素晴らしいところは、この世に他にあるわけないじゃない。そうしたらある日マリ様から、
「だいぶ良くなってきました」
この言葉をマリ様から頂いた時に今までにないぐらい強い強い感謝の念が湧いてきちゃった。それだけじゃない、アリサの中の何かが確実に変わったと感じたんだ。それも良い方にだよ。それよりアリサが感動したのは、アリサが進むべき道が見えた気がする。
そうだ、あれこそアリサの進んで行く道よ。やっと見つけた気がする。そこに進むためにアリサは生まれ来て、やっと巡り合たんだ。それがわかったアリサから出た感謝の言葉は、
「マリ様のお蔭で、アリサの進むべき道がわかりました」
アリサを幸せにしてくれるすべてがここにある。それを教え導いてくれるのがマリ様。マリ様のお蔭で女の本当の幸せが何かがやっとわかってきた。アリサも努力すれば、あんな夢のような幸せをつかめるんだ。マリ様への感謝の気持ちが泉のように湧いてくる。
「今日の反省です」
これからもらえるのはマリ様のムチだけど、今までのムチとはちがう、これこそ正真正銘の愛のムチ、
『ビシッ』
至らぬアリサを教育して下さっているマリ様の愛情の塊、この痛みの一つ一つにマリ様の優しさが込められている。
「ありがとうございました」
もう心の中は感謝で満ち溢れている。それだけじゃなく嬉しいんだ。ムチの痛みこそが、マリ様の愛そのものだと全部わかった気がする。マリ様は罰を与えてるんじゃない、アリサに愛を与えて下さってるんだ。
ああやっと、こうなれたんだ。アリサはここまで来れたんだ。来れたからアリサの道も見つけれたんだ。ここまで来れたのはすべてマリ様のお蔭。アリサはマリ様にどこまでも付いていく。
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